【環監・保健師入門編】レジオネラ症対策・ATP検査の活用方法
【私の視点】
過去のATP検査に関する報告の一つは、80RLUがレジオネラ属菌検出率上昇の閾値と捉えて、試案として管理区分を要改善と表現しています。
現場でATP値をレジオネラ属菌検出リスクの参考とするかは、意見が分かれています。
私は、経験から学んだこととして、閾値の判断ではなく、ATP値を通常との違いに気づくサインとして、読んでいます。
2023(令和5)年3月下旬、A自治体の保健所・環境衛生監視員対象のレジオネラ症対策研修会(会場開催)の講師をつとまめました。
保健所・環境衛生監視員や衛生研究所研究員のかた、15人の皆様が出席されました。
質疑応答、ディスカッションにより、レジオネラ症対策の知識・スキルの習得を図りました。
参加者のおひとりから「研修会で、長い時間、質問に丁寧に答えてくださり、大変学びの多い時間でした」と感想をいただきました。
ありがとうございます。うれしく思いました。
質疑応答の内容が濃く環監業務に役立つ内容ですので、2回に分けてご紹介します。
【質問1】浴槽水検出菌と患者由来株の遺伝子型一致
浴槽水から分離されたレジオネラと患者由来株の遺伝子型別が一致したときの対応について
A自治体では、平成28年に作成されたフローチャートで流れがきまっています。
浴槽水を感染源として2人以上の集団感染の場合、処分に至る可能性があります。
回答
感染者が1人のみでも、施設の営業停止命令などの処分をするかは、自治体ごとに対応が異なると思います。
条例で、浴槽水、シャワー水の項目で「レジオネラ属菌が検出されないこと」と規定があれば、患者発生時に処分に至る可能性があります。
シャワー水については、厚生労働省の「公衆浴場における水質基準等に関する指針」で、シャワー水が「上がり用湯」「上がり用水」として定義がされていて、水質基準で「レジオネラ属菌は、検出されないこと(10cfu/100mL未満)」とあります。
ちなみに、文京区公衆浴場法施行条例では、第4条「シャワー水からレジオネラ属菌は、検出されないこと」と規定されています。
【質問2】アルカリ泉質の消毒方法
アルカリ泉質の消毒の維持管理方法について
回答
私のホームページのお役立ち情報で、「環監のためのレジオネラ症対策【入門】温泉の泉質別の消毒方法」をご紹介しています。
こちら https://kankan-mirai.com/1208/
ご活用ください。
【質問3】施設改善への働きかけ
管内に換水頻度が低い施設がある。効果的な指導があれば教えて欲しい。
源泉90℃以上、貯湯槽70℃、かけ流し、補給湯多量
3年以上、レジオネラ属菌自主検査は陰性
過去に患者発生はない。
回答
条例を調べると、次のとおりです。
「浴槽水は、毎日全部を入れ替えること。ただし、これにより難い場合は、浴槽水が規定する水質基準(レジオネラ属菌が10cfu/100mL未満、他)に適合するよう適切な措置を講ずること」
換水頻度が低い状態で、水質基準に適合していたとしても、どこがいいのか、わるいのか、施設と保健所とが信頼関係をもって協力し、浴槽、構造設備などを点検できるといいですね。
浴槽の壁・底・配管付近のぬめりの発生、菌の付着がしやすい浴槽凹凸の有無など、いっしょにチェックできるといいと思いました。
水質の行政検査で、生きた菌を調べる培養法と、死菌まで調べることができる迅速法を組み合わせると、実態が見えてきた経験があります。
たとえば、迅速法のPCR定量法を採用したとき、浴槽水の遊離残留塩素濃度が高く培養法陰性のときに、PCR定量法で菌検出があった例が複数ありました。
その際には、配管系統のどこかで生物膜(バイオフィルム)の堆積の可能性を考えて、さらに詳しく現場をチェックした経験があります。
【質問4】ATP検査の活用方法
衛生監視時にATP値が80RLU以上であれば、レジオネラ属菌の培養法検査のために採水をしている。
具体的な質問と回答は、次のとおりです。
回答
1)ATPの測定場所はどこが良いか(通常、浴槽の入口付近で湯の表層を測定)
私は、通常、浴槽中央付近の水面下15~20cmの湯を採り、検査をしていました。
検査の目的によっては、湯の淀み箇所、ろ過戻り口付近、ろ過吸い込み口付近、オーバーフロー付近などで検査するケースがあるでしょう。
2)行政検査する基準がATP値:80RLU採用以外の自治体はあるか
ATP値については、レジオネラ属菌検出率と相関があると、過去に報告がありました。
報告は、次のとおりです。
平成22・23年度 地域保健総合推進事業 「保健所のレジオネラ対策における簡易迅速な検査方法の 実用化と自主管理の推進に関する研究」報告書
平成24年3月 (財)日本公衆衛生協会 分担事業者 大黒 寛 (東京都多摩立川保健所長)
この報告では、80RLUが検出率上昇の閾値と捉えて、試案として管理区分を要改善と表現しています。
現場でATP値をレジオネラ属菌検出リスクの参考とするかは、意見が分かれています。
私は、経験から学んだこととして、閾値の判断ではなく、ATP値を通常との違いに気づくサインとして、読んでいます。
浴槽水の検査の場合、原水、源泉のATP値がどのくらいか。
そのブランクに相当する値を検査値から差し引くことで、数値の評価ができます。
ATP検査結果は、ほかの水質検査結果、遊離残留塩素濃度、調査結果(記録の確認、構造設備の点検、聞き取り内容など)とともに総合的に判断することが大切だと思っています。
3)源泉の種類によって、ATPが高値に出るといった調査研究も見たことがあるが、汚染の指標(ATP値)に源泉の種類等を考慮している例はあるか
ATP検査で、塩化物泉で数値が低く出ることがあります。
ATPの数値が高くなる、低くなるケースの詳細については、私のホームページ・お役立ち情報でご紹介しています。
こちら https://kankan-mirai.com/1649/
ご活用ください。
4)ATPの拭き取り検査も有用といった資料を見たことがあるが、実際監視時に取り入れている自治体はあるか。基準やふき取り場所等教えて欲しい
ATP拭き取り検査について、清掃効果を確かめるため、浴槽の清掃前後で測定して数値の変化を確認したことがあります。
施設の担当者に数値を見てもらい、掃除の効果を実感してもらうことで、清掃のモチベーションを高めることができたと感じています。
数値については、『レジオネラ症防止指針 第4版』公益財団法人日本建築衛生管理教育センターのP48で、浴槽壁等のバイオフィルムは10cm四方を綿棒で拭き取った時に1,000RLUを超えないことが清浄度の目安とされています。
国立感染症研究所・倉文明先生のご講演では、拭き取り検査の清浄度の目安が、アデノシン三リン酸・二リン酸・一リン酸の合計数値で、1,600 RLU(ルシパックA3使用時)と聞いています。
私の経験では、目安の数値であり、2,000~3,000RLUの数値でも、清浄と判断していいのではないかと感じています。
【私の視点】
過去のATP検査に関する報告の一つでは、80RLUがレジオネラ属菌検出率上昇の閾値と捉えて、試案として管理区分を要改善と表現しています。
現場でATP値をレジオネラ属菌検出リスクの参考とするかは、意見が分かれています。
私は、経験から学んだこととして、閾値の判断ではなく、ATP値を通常との違いに気づくサインとして、読んでいます。
『てびき』ご購入をお考えのかたは、こちらから注文ができます。
【ご案内】
【講座】保健所・環境衛生監視員対象、レジオネラ症対策を現場で学ぶ、基本とスキル習得講座・実践編2日間コース(会場開催、公衆浴場施設の現場見学付)を開催します。
・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。
・課題の解決につながる講座をご用意しています。
・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。
月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【実績】
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。