【環監・保健師入門編】レジオネラ症対策・浴槽水の換水頻度を考える(その2)

【私の視点】
レジオネラ症対策は、営業者(施設)と環境衛生監視員(保健所)との協力が不可欠です。
そのために、人(営業者)と人(環境衛生監視員)との信頼関係の構築が何より大切だと痛感しています。

現場での営業者と保健所・環境衛生監視員(イメージ写真)

2023(令和5)年2月下旬、新聞やテレビなどメディアで、老舗旅館の大浴場の浴槽水の換水が年2回だけだったと報じられました。

3月中旬には、前営業者が遺書を残して死亡したとのニュースがありました。

保健所担当係長の立場でみると、ショックな出来事です。

重く考えてしまいました。

レジオネラ症対策は、営業者(施設)と環境衛生監視員(保健所)との協力が不可欠です。

なぜなら、レジオネラ症対策には、レジオネラ肺炎発症の臨床学的知識、細菌・アメーバなど微生物学の基礎知識、消毒剤の種類と効果、配管洗浄剤の種類と効果、循環ろ過設備の仕組み、レジオネラ属菌抑止のための衛生管理など、幅広く、深い知識・スキルが必要だからです。

営業者(施設)のみの力、環境衛生監視員(保健所)のみの力では、対応が難しいと感じています。

今回の一件から、虚偽報告といわれる背景にある営業者と保健所との信頼関係の欠如、営業者のレジオネラ症への認識不足、さらには入浴者の命・健康をまもる意識の甘さが伝わってきました。

今後、このような一件が起こらないためには、人(営業者)と人(環境衛生監視員)との信頼関係の構築が何より大切だと痛感しました。

入浴施設の利用者の命・健康をまもるために、私の保健所・環境衛生監視員32年の経験、係長職20年の経験を基に、三つの視点から方策を考えてみたいと思いました。

【信頼関係を築く】

次の内容は、『日本防菌防黴学会誌』2020年9月号P28に掲載された、私の原稿「レジオネラ症対策に携わって」を基にしたものです。

私は保健所・環境衛生監視員として、レジオネラ症対策で何度も現場の公衆浴場施設へ足を運びました。

ある日、銭湯の女性店主が血相をかえて言ったのです。

「こんなに何回も来て検査をして,少しでもわるいところがあったら指摘する。私たちの店をつぶそうとしているの」

私は、こう話しました。

「検査をして不適なところがあれば、はやい段階で対応する。対応がはやいほど、手間がかからずに改善できるからです。長く営業してほしいのです。そのために、保健所もいっしょになって衛生管理に取り組んでいきたいと思っているのです」

店主の怒りを含んだ言葉は、1時間ちかくにも及んだかもしれません。

真意を、一度でわかってもらうことは到底できません。

しかし、私の心の奥には、「もし、施設が原因でレジオネラ症の死亡者を出してしまったとしたら、金銭的な補償の大きさだけではなく、社会的責任から営業をつづけるのがむずかしいだろう。そうならないために、はやめのチェック、はやめの対処が必要なんだ」という確固としたものがありました。

その後も、幾度か営業者のかたから「なんで何回も来るんだ」とご意見をもらうことがあったのです。

そのたびに私は、「長く営業してほしいからです」と言いつづけました。

数年後の12月なかば、私へ不満をぶつけた女性店主の銭湯に検査でおとずれました。

帰りぎわに、彼女が言いました。

「これね。もうすぐクリスマスで、お客さんたちに、日頃の感謝をこめて配っているチョコレートなの。よかったら、持っていって」

こぶし大の透明なピニール袋には、赤や緑の包装のーロサイズのチョコが5、6個入っています。

うれしかった。

文句を言われながらも真意を伝えつづけてきて、やっと心がつながったと思いました。

信頼関係は、すぐに構築できるものではありません。

しかし、心からの思い、誠意をもって向かい合えば、いつか実を結ぶと感じています。

【行動変容・危機感をもつ】

浴槽水からレジオネラ属菌検出があった旅館営業者の話です。

詳しくは、自著『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター、500円税別)のP83に掲載されています。

営業者は、私の検査結果の説明を聞いたあと、真剣な顔でこう言いました。

「先日、新聞に地方のホテルの宿泊客がレジオネラ症で亡くなったと掲載されていたので、その怖さは理解しています。専門業者へ配管洗浄をお願いしましょう」

営業者は、自分ごととして、レジオネラ症の怖さを感じて、行動に移したのです。

日頃から営業者の話で、私が気にとめていたものがあります。

旅館の営業者は、お客様の命を一晩お預かりする立場です。そのことを肝に銘じて、仕事をしています

営業者の行動の軸・柱が、そこにあると思いました。

【行動変容・責任感をもつ】

聞く耳をもたない。そうしたケースもありました。

保健所の検査結果で、患者発生のリスクがあるレジオネラ属菌の菌数を大きく超える公衆浴場施設がありました。

店長に口頭指導を繰り返しても、改善の行動に移る気配がありませんでした。

最終的に、やむをえず保健所長からの営業者の呼出指導という形をとりました。

係長の私、課長が同席する場で、保健所長から営業者へ直接、レジオネラ症の危険を伝え、改善対応を言いわたしました。

目的は、利用者の命・健康をまもるためです。

その場で、レジオネラ事故が死者をうむ可能性があることを伝え、営業者としての責任ある行動を求めました。

営業者の表情は、深刻に聞き入っているように見えました。

営業者は、責任の重みを感じてくれたものだと思います。

その後、私は現場へたびたび足を運び、施設は改善へ動きだしました。

【私の視点】

レジオネラ症対策は、営業者(施設)と環境衛生監視員(保健所)との協力が不可欠です。

そのために、人(営業者)と人(環境衛生監視員)との信頼関係の構築が何より大切だと痛感しています。

私は、32年の環境衛生監視員経験、20年の係長職経験で身につけた、信頼関係を築くコミュニケーション・スキルを、講座等をとおして保健所・環境衛生監視員の皆様へお伝えしたいと思っています。

『てびき』ご購入をお考えのかたは、こちらから注文ができます。

【ご案内】

・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。

・課題の解決につながる講座をご用意しています。

・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。

月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。

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【実績】

・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。

・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。

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