【環監・保健師向け】災害時の衛生対策・水害浸水地の虫防除
2025(令和7)年8月なかば、前線や低気圧の影響、線状降水帯の発生で、九州地方や中国地方などで記録的な大雨となりました。各地で大雨による浸水被害がありました。
大雨の地域の皆様へお見舞い申しあげます。
虫発生の可能性が考えられますので、過去の対策記事を一部加筆修正して再掲載します。
【水害浸水地の虫防除】
①虫・ネズミ発生までの日数
②虫・ネズミ発生の場所
③虫・ネズミ発生源の防除
④虫発生源に使用する薬剤
⑤災害発生後の虫防除の資料
⑥その他防除に関する情報
⑦避難所・避難生活の注意点
⑧環監の視点

元文京区文京保健所・環境衛生監視員(環監)で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
水害のときに、災害ごみや残存した水たまりなどから発生する虫の防除について、保健所に相談が寄せられることがあります。
水害浸水地の虫防除を考えます。
専門家の一般財団法人日本環境衛生センター・環境生物・住環境部長の橋本知幸氏のご意見を参考にしました。
①【虫・ネズミ発生までの日数】
2024(令和6)年10月中旬、私が石川県の珠洲市・輪島市で被災地支援活動をしたとき、浸水地が広がって水たまりができ蚊の産卵場所が増えた影響なのか、蚊の発生が確認できました。
夏季の水害の場合、3週間後までにハエ類が、2カ月後までに蚊類が、1年後までにネズミ類の発生が考えられます。
その背景には、がれきの散乱や腐敗、停滞開放水域の増加、空き家の増加などがあります。
②【虫・ネズミ発生の場所】
1 ハエ・コバエ類
・生ごみ、トイレ
・魚介類等の死骸
・ヘドロ等
・がれき仮置き場など
2 蚊類
・水溜り、溜まり水
・湿地等の水域
・流れが滞った排水路など
3 ネズミ類
・生ごみや動物の死骸
・損壊建築物内やその周辺
・集積されたがれき内部など
③【虫・ネズミ発生源の防除】
対策の流れは、次のとおりです。
調査→同定(対策を要する衛生害虫等の把握)→防除の計画策定→防除作業の実施→実施結果の評価
調査は、発生源となりやすい水域、がれき等の集積場所、ヘドロ堆積場所などについて重点的に行い、発生種の確認や発生予測をおこないます。
虫・ネズミの対策の基本は、災害ごみの分別・適切な保管・処理・焼却・処分、水たまりの除去など、発生源対策がもっとも重要だと考えられます。
緊急時には速効的である薬剤(殺虫剤等)による駆除がおこなわれることがあります。
1 ハエ・コバエ類
(1)大量発生時などの緊急時対策:成虫・幼虫に対する殺虫剤の使用、網戸の設置などによる侵入防止対策
(2)持続的(環境的)対策:生ごみ等の焼却や埋設、埋め立て、ヘドロの乾燥・除去など
2 蚊類
(1)大量発生時などの緊急時対策:成虫・幼虫に対する殺虫剤の使用、網戸の設置などによる侵入防止対策、屋内での家庭用蚊取り剤の使用
(2)持続的(環境的)対策:水域の埋め立て、排水、水が溜まりやすい瓶・缶の空容器などの除去
3 ネズミ類
(1)大発生時などの緊急時対策:粘着シート・殺鼠剤の使用
(2)持続的(環境的)対策:餌となる生ごみ等の適正処理、屋内への侵入防止対策
④【虫発生源に使用する薬剤】
1 廃棄物仮置き場:ハエ防除
成虫駆除用には、ピレスロイド剤や有機リン剤があります。
私の所属した保健所では、日常業務の作業委託時にスズメバチの巣の撤去等で使用される薬剤として、比較的に健康影響の小さいピレスロイド剤の使用を仕様書に入れていました。
飛来したハエ成虫や有機物の入ったごみ袋の表面から薬剤を散布しても効果は、限定的と考えられます。ほぼ、毎日の対応が必要になります。
ピレスロイド成分を含浸した網で、廃棄物の山を覆うことができれば、産卵を抑制できる可能性があります。
2 水域(雨水マス、側溝など):蚊防除
ボウフラ発生源の停滞水を除去するのが、もっとも優れた方法です。屋外の空き缶、空き瓶、水がたまりやすい古タイヤなどを片づけることが有効です。
除去ができない場合、小範囲の水たまりであれば、IGR(昆虫成長制御粒剤)が使われることがあります。
⑤【災害発生後の虫防除の資料】
岩手県のホームページから閲覧できます。
「東日本大震災津波により発生した災害廃棄物の岩手県における処理の記録」
URLをコピーして検索してください。
こちら https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/kankyou/saihai/1006034/1006035.html
⑥【その他防除に関する情報】
都道府県のペストコントロール協会に連絡・相談するとよいでしょう。
連絡先は、公益社団法人日本ペストコントロール協会のホームページで調べることができます。
URLをコピーして検索してください。
こちら https://www.pestcontrol.or.jp/
⑦【避難所・避難生活の注意点】
過去の避難所・避難生活では、ハエ・蚊対策として、ピレスロイド系殺虫剤や蚊取り線香類が用いられたことがありました。
いずれも、化学物質の成分と考えられます。
化学物質過敏症等の人がいるかもしれない空間での使用は、慎重に考える必要があります。
室内で使用しないのも、選択肢の一つです。
まず、虫の室内への侵入防止のための、網戸・カーテン類の設置、トラップによる虫の捕獲などを考えるのがいいでしょう。
⑧【環監の視点】
保健所・環境衛生監視員の視点から、屋外の薬剤使用の場合、その成分・濃度等の確認をすること、
薬剤散布をする場合、化学物質過敏症等の人への健康被害が生じないように、必要最小限の範囲、飛散防止など適切な方法か確認が大切だと思います。
市民自らが防除薬剤を使用する場合も、薬剤使用による健康被害への注意喚起、適切な使用が大切だと思います。
多量使用の暴露により気分がわるくなる。少量使用でも、化学物質過敏症の人にとっては、目や鼻など粘膜への強い刺激、息苦しさなど呼吸器系への影響など様々な症状が出る可能性があります。
化学物質過敏症の人、またはその可能性のある人は、約13人に1人いると聞いたことがあります。
【災害時の衛生対策のご相談】
ご相談、ご質問などありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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【ご案内】
【2025(令和7)年度講座】
2025(令和7)年度のオフィス環監未来塾の講座一覧表をご覧いただけます。
・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。
・課題の解決につながる講座をご用意しています。
・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。
月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【活動実績】
(本・図書・出版物)
・2025年、介護保険専門紙『シルバー新報』(環境新聞社)で「介護現場のBCP 災害時の知識」を連載中です。
・2025年、月刊誌『クリンネス』(イカリホールディングス株式会社)で「衛生視点で感染症・災害時のBCPを考える」を連載中です。
・2022年、本『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
・2021年、専門誌『生活と環境』(一般財団法人日本環境衛生センター)で「災害時の居住環境 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」を連載しました。
・2020年、『災害時の保健活動推進マニュアル』(日本公衆衛生協会・全国保健師長会、令和2年3月)で「生活環境衛生対策」(避難所の環境衛生管理アセスメント)を分担執筆しました。
(活動)
被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
・2024年、能登半島地震(石川県、珠洲市、七尾市)
奥能登豪雨(石川県、珠洲市)
・2019年、令和元年台風19号(長野市、いわき市)
・2018年、西日本豪雨(倉敷市)
・2016年、熊本地震(熊本市)
・2011年、東日本大震災(気仙沼市)
(調査活動)
・1995年、阪神・淡路大震災
(講師)
・2025年、神奈川県公衆衛生協会平塚支部講演会「災害時の公衆衛生活動、~災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策、保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2025年、豊田市役所研修「災害時の避難所等における衛生対策に関する研修」
・2025年、豊橋市保健所研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~避難生活で健康を守るポイント~」
・2025年、日本災害食学会・災害食専門員研修会「災害時の水の安全・衛生」
・2024年、神奈川県公衆衛生学会「シンポジウム・避難所における健康危機管理」
・2024年、宮城県気仙沼圏域研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、宮城県登米地域災害対応研修「災害時における環境衛生対策」
・2024年、愛知県看護協会・研修会「災害時の生活環境衛生対策の課題と実際」
・2024年、福井県嶺南地域保健・福祉・環境関係職員研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会「災害時の避難所の衛生、感染症対策」
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会・特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」
(学会)
・2025年、第30回日本災害医学会総会・学術集会「サーモグラフィ画像を活用した避難所の環境衛生管理」
・2025年、第52回建築物環境衛生管理全国大会「能登半島地震被災地の公衆衛生活動者を支援するためのIT活用の成果」
・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、第48回建築物環境衛生管理全国大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の避難所の施設・空気環境の実態」奨励賞受賞
・2020年、第79回日本公衆衛生学会総会(オンライン開催) 「令和元年台風19号被災地の避難所における空気環境等の実態」
・2012年、第39回建築物環境衛生管理全国大会「東日本大震災被災地の避難所の施設・空気環境の実態」最優秀賞受賞