【環監・保健師入門】災害時の衛生対策・避難所と化学物質過敏症

【環監の視点】
化学物質過敏症の症状があるかたに共通なのは、まわりの人たちに化学物質による健康影響が理解されにくいということです。
まず、「化学物質過敏症」や「シックハウス症候群」が社会のなかで理解される必要があると思っています。

避難所の様子

こんにちは 元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、避難所の衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2023(令和5)年8月上旬、NHKテレビ番組『あさイチ』で、「知っていますか? 化学物質過敏症」が放送されました。

私は、保健所・環境衛生監視員として、化学物質過敏症やシックハウス症候群の相談に取り組んできました。

1年間に20~30件の相談を受けたことがあります。

相談者の希望や状況に応じて、同僚といっしょに現場の調査へ向かったことが多数あります。

番組のなかで、解説をしたのは、坂部貢先生(千葉大学特任教授)です。

以前に、坂部先生の研修講義を聞いたことがあります。

また、私の所属の自治体の環境衛生協会の講習会講師として坂部先生をお招きして、「理美容所など環衛業施設の化学物質の話」をご講演いただいたことがありました。

私が番組から理解した点を踏まえて、災害時の避難所と化学物質過敏症を考えてみたいと思います。

以下の内容は、私が執筆した、『シルバー新報』2023(令和5)年8月25日号の原稿の一部を基にしています。

なお、『シルバー新報』は、週刊の介護保険専門紙です。

【化学物質過敏症とは】

東京都保健医療局のホームページでは、化学物質過敏症がこう説明されています。

<厚生省(当時)の厚生科学研究「化学物質過敏症に関する研究(主任研究者:石川哲北里大学医学部長(当時))」(平成8年度)において、

「最初にある程度の量の化学物質に曝露されるか、あるいは低濃度の化学物質に長期間反復曝露されて、一旦過敏状態になると、その後極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を来たす者があり、化学物質過敏症と呼ばれている。

化学物質との因果関係や発生機序については未解明な部分が多く、今後の研究の進展が期待される。」との見解が示されています。>

私は、記述にある石川哲氏のご講演を聞いたことがあります。

石川氏は、人の体をコップにたとえて、化学物質が体の中に入りコップがあふれたとき、頭痛、めまい、呼吸困難など様々な症状が出ると説明されていました。

いったん症状が出ると、そのあと微量の化学物質にも反応してしまう可能性があると理解しました。

坂部氏の話を理解すると、最近の研究報告では、日本国内の化学物質過敏症の有病率が7.5%で、自覚症状がない人も含めて約13人に1人になります。

誰でもなりうるとされています。

【香害】

私は、保健所で化学物質過敏症やシックハウス症候群の相談を受けたとき、次のような質問をすることがありました。

「過去に、スーパーや薬店などで、洗剤、柔軟剤、芳香剤、香水、化粧品、シャンプーなどのコーナーを歩いて、ニオイで気分がわるくなったり、その場を離れたくなったりしたことはありませんか?」

「はい」と答えた場合、はっきり症状が出る前から、化学物質に反応する兆候があったとみていました。

最近の事例では、柔軟剤による香りが問題になることがあります。

保健所の環監からこんな相談がありました。

<小学校のお母さんからの相談です。子どもが給食当番で白衣を来たら、白衣から甘いニオイがして気分がわるくなったって言うのです。どうも、柔軟剤のニオイらしいです。そんなことは、あるのでしょうか?>

ニオイの問題は、ニオイの化学物質の問題と言ってもいいでしょう。

国の、消費者庁、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、環境省の連名のポスターで「知ってください その香り困っている人もいます」が発行されています。

ポスターはこちらから閲覧できます。 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/assets/consumer_safety_cms205_230711_01.pdf

ポスターには、こう記述があります。

<柔軟剤などの香りで頭痛や吐き気がするという相談があります。自分にとって快適な香りでも、困っている人もいることをご理解ください。>

<香り付き製品の使用に当たっては、周囲の方にもご配慮下さい。>

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【避難所の事例】

①整髪料に反応

熊本地震のとき、被災地の熊本市保健所に協力して避難所の衛生対策活動で巡回しました。

そのとき、保健所の環監がこう話してくれました。

「ある避難所で、整髪料に反応して体調がわるくなり、救急搬送されたかたがいました」

化学物質過敏症は、外見上、症状が明らかに見えるわけではありません。

避難所のなかに一定の人数の化学物質過敏症のかたがいると考えるのが自然だと思っています。

②虫よけプレート

1年前の夏に、私が防災衛生アドバイザーをしている自治体の避難所宿泊訓練を見学したときでした。

体育館の床近くの窓に、虫よけプレートが掛けられていました。

成分は、ピレスロイド剤です。

私が顔を近づけると、目の粘膜に刺激がありました。

虫の忌避成分の化学物質が揮発しているからです。

避難所訓練の担当部長に、「参加者のなかに症状が出る可能性もあります。虫よけには、防虫網を貼る対処法があります」と説明しました。

担当部長から、「確かに、そのとおりです」と返事がありました。

③空間殺菌剤

前記の熊本地震被災地の避難所で、目薬をひとまわり大きくしたくらいの、空中殺菌のための二酸化塩素剤を見ました。

顔を近づけると、目の粘膜に刺激がありました。

令和元年台風19号被災地の避難所では、卓上型の空間殺菌用の装置が置かれていました。

2021年の厚生労働省の事務連絡で、新型コロナウイルスに対する消毒について、こう記述があります。

< 世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスに対する消毒に関する見解の中で、「室内空間で日常的に物品等の表面に対する消毒剤の(空間)噴霧や燻蒸をすることは推奨されない」としており、このような国際的な知見に基づき、健康影響のおそれのある消毒剤や、その他ウイルスの量を減少させる物質について、人の眼や皮膚に付着したり、吸い込むおそれのある場所での空間噴霧をおすすめしない >

【避難所・避難生活での対応】

①理解

前記のようなポスター類を避難所内に掲示して、避難者の皆様に理解をしていただくことは大切だと思います。

②殺虫剤等の慎重な使用

避難所のなかには、化学物質過敏症のかたがいると考えるのが自然だと思います。

たとえば、室内での殺虫剤や蚊取り線香を使う前に、虫の侵入を防ぐための網戸や網戸カーテンの設置、物理的に捕虫するトラップや装置の設置などを検討することが大切だと思います。

③換気

生活のなかで、まったく化学物質がない環境はつくりにくいと思います。

1~2時間に1回、10分間程度の対面の窓開け換気を励行することで、室内の化学物質濃度を下げることができます。

『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)のP45~P46に、化学物質過敏症の詳しい説明があります

④避難スペースの確保

化学物質過敏症のかたが、体育館の共用スペースで生活することで健康影響が出る場合、教室での専用のスペースを確保することが選択肢のひとつです。

そのとき、教室に、化学物質の影響がないかを確認する必要があります。

絵の具、習字の墨、床のワックス塗装などの影響があるかもしれません。

教室が化学物質過敏症のかたの使用が可能かは、事前に、使用予定者のかたに在室してもらい、体の変調がないかを確認してもらうことが必要です。

教室に空気清浄機を置くことも、補助的な化学物質の除去に有効です。

⑤空気清浄機

化学物質を吸着するための活性炭フィルターをもつ空気清浄機を、補助的に使うのは、室内の化学物質低減に有効です。

ただし、新品は、使いはじめにプラスチックの可塑剤が揮発することがありますので、箱から出して1~2週間以上、経過した製品を使うのが望ましいでしょう。

【環監の視点】

化学物質過敏症の症状があるかたに共通なのは、まわりの人たちに化学物質による健康影響が理解されにくいということです。

私は、50歳代の男性から「妻が訴えているけど、気持ちの問題でしょう」という声を聞いたことがあります。

まず、「化学物質過敏症」や「シックハウス症候群」が社会のなかで理解される必要があると思っています。

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【実績】

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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