【環監・保健師入門編】レジオネラ症対策・ATP測定値から推測できる点

【私の視点】
私のこれまでの経験では、ATP検査は、数値化されてわかりやすい半面、数値そのものが一人歩きしてしまう可能性も含んでいると感じています。
測定値から考えられる推測を裏づけるため、ATP検査結果のほか、他の水質検査結果、遊離残留塩素濃度、現場の状況などの確認が必要になります。

ATP測定器(イメージ写真)

2022(令和4)年11月上旬、国立保健医療科学院の令和4年度環境衛生監視指導研修「現場での衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。

全国自治体の保健所・環境衛生監視員42人の皆様がご参加されました。

研修後、参加者の皆様の復習のために各自で実習したATP測定の結果をまとめたところ、環監業務に役立つ内容がありました。

日常業務へご活用いただくために、ご紹介いたします。

【原水の水質】

報告があった実習者の水道水を使った湯のATP値は、次の範囲にありました。

4~20・RLU

【浴槽水の汚れの経時変化】

2人入浴のとき、24時間経過で、10・RLU→340・RLUに上昇しています。

時間の経過とともに、浴槽水の微生物の増殖があると推測できます。

【人の汚れの影響】

4人入浴後の数値で、1400・RLUとなった例がありました。

浴槽水に人の持ちこんだ汚れが、数値を高めていると考えられます。

別の実習者の例では、3人が体を洗わず軽くシャワーを浴びて浴槽に入った場合、171・RLU となりました。

人が持ちこむ汚れが水質に影響していることがわかります。

【浴槽水の汚れの沈澱】

汚れが沈澱している可能性を考えて、浴槽水をかきまぜて測定した実習例がありました。

かきまぜ前後:20 → 90・RLU

公衆浴場と比べて小さな容量の家庭浴槽では、かきまぜることで、床面の汚れの影響をよけいに受けるのかもしれません。

公衆浴場等の気泡浴槽であれば、浴槽水が一定程度に攪拌されていると考えていいのかもしれません。

【浴槽水の数値が低下】

時間の経過、入浴人数の増加にともない、数値が減少した例がありました。

時間経過:121 → 95 → 40・RLU

人数増加:240 → 20 → 47・RLU

人数増加のケースで、2回目の測定前に、浴槽水の差し湯がありました。

私の過去の実験では、水道水の補給あるいは湯(水道水のガス湯沸かし器から)の補給により、湯水の残留塩素の作用で、浴槽水の一般細菌数が減少した例があります。

数値が減少したのは、湯水の残留塩素の作用があったのではないかと考えました。 

【こすり洗いの効果】

浴室床面をブラシと中性洗剤とを使い、こすり洗いしたとき、その前後で数値が変化しました。

5万RLU → 500・RLU

実習者から「清掃の効果を実感できた」とありました。

衛生監視指導の現場で、入浴施設担当者に清掃前後の数値を見てもらうことで、効果を実感してもらえると思いました。

ほかの実習者から 「拭き取り検査で、清掃をおろそかにしている箇所がわかった」とありました。

こうした点でも、現場で活用できると感じました。

【シャワーヘッドの拭き取り検査】

検査結果は、10~8000・RLUとばらつきがありました。

結果の集計では、10~100・RLUの数値が多くありました。

実習者から「シャワーヘッドを今まで清掃したことがなかったため、想像以上に低いことに驚きました」とありました。

別の実習者が、シャワーの使用前後で数値を測りました。

使用前後:600 → 70・RLU

シャワーヘッドの数値が低く出るのは、湯水の流れがある部分なので、表面の汚れが落ちている可能性があると思いました。

シャワーヘッドの清掃前後を測った例では、

清掃前後:250 → 40・RLU

となり、清掃効果が表れています。

【測定値の評価】

実習者のおひとりから、こう感想がありました。

「同じ検体で、再測定すると20~30・RLU高くなる」

私の経験では、再測定での測定値が10%前後、違いがでることがありました。

私の場合、たとえば、1540・RLUの表示がでたとき、上の二つの位の、千の位、百の位まで読みとり、1500・RLUとみています。

【加湿空気清浄機の給水タンク】

実習者で、加湿空気清浄機の給水タンクを調べた例がありました。

加湿空気清浄機の給水タンク水:6・RLU

給水タンクの下の水(タンクから加湿装置までの間の部分):198・RLU

数値が高かった箇所では、以前に赤カビが生えていたそうです。

実習者の感想が、こうありました。

「加湿装置に給水タンクから少量の水を供給し続けている部分であり、細く狭い空間である。構造上どうしても滞留水が発生していることが予想される。この部分を通った水が加湿に使用されるため、さらにこまめな清掃を心がけたい」

こうした箇所については、レジオネラ症対策の観点からも、清掃の重点ポイントにしたいと思いました。

【私の視点】

私のこれまでの経験では、ATP検査は、数値化されてわかりやすい半面、数値そのものが一人歩きしてしまう可能性も含んでいると感じています。

その点を肝に銘じて私は、数値を通常との違いに気づくサインとして、読んでいます。

浴槽水の検査の場合、原水、源泉のATP値がどのくらいか。そのブランクに相当する値を検査値から差し引くことで、数値の評価ができます。

測定値から考えられる推測を裏づけるため、ATP検査結果のほか、他の水質検査結果、遊離残留塩素濃度、現場の状況などの確認が必要になります。

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【実績】

・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。

・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。

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