【環監・保健師向け】夏季避難所の熱中症対策その2

【夏季避難所の熱中症対策】
①避難所の暑さ対策
②衣服の保温性
③熱中症予防と衣服素材
④布団の選び方
⑤扇風機の使い方
⑥手の平を冷やす
⑦夏の避難所での服装
⑧服の素材
⑨冬の避難所の服装
⑩下着の素材
⑪寒さによる指先の痛み
⑫湿度による放熱の違い
⑬ウールが温かい理由
⑭暑熱順化

酷暑期避難所演習の様子(2024年7月、大阪府)

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2024(令和6)年10月上旬、第30回環監未来塾私塾・講演会をオンライン開催しました。

テーマは、「災害時の衛生、熱中症対策第2弾 暑さ寒さから身を守る ~AVA血管+衣服による体温調節~」です。

講師は、神戸女子大学名誉教授・平田耕造氏です。

全国の保健所・保健師・環境衛生監視員等、約30名の皆様が参加しました。

講演会後の参加者の声では、「服の素材や着方(ゆとり)によって命を救えることがわかりました」「綿素材のメリットデメリットを知ることができた」「皮膚が濡れた時の低体温症の予防が参考になりました」とありました。

私は、酷暑期の災害でライフラインが止まったとき、服装を工夫することで、熱中症リスク下げることができるのではないかと思いました。

また、厳寒期の災害でライフラインが止まったとき、服装と体のどこを温めるかで、低体温症リスクを下げることができると感じました。

ご講演の内容は、災害時の避難所・避難生活の衛生対策に有用ですので、ご講演から、私が理解した点をご紹介します。

質問の回答は、平田先生が講演中にお答えになった内容を、私が理解してまとめたものです。

全国保健師長会に情報提供しています。

能登半島地震関連の【保健師活動】避難所・避難生活の熱中症対策が、別ページにあります。

①【避難所の暑さ対策】

(質問)
酷暑における停電時の避難所の熱中症対策は本当に手だてがないものなのか、教えていただきたいです。

(回答)
避難所でも可能な暑さ対策方法として、手のひらと足の裏にある特別な血管(AVA:動静脈吻合)を体温上昇の防止策として活用いただくために、手足を浸漬できるトレイ(バケツ)やプール様の施設をご用意いただくことをご検討ください。

多量に流れてくる手足は、講演の中でも説明しますが、表面積と容積の比が体幹部の皮膚に比べて桁違いに大きい特徴があります。

つまり、体温と同じ温度の動脈血がラジエターの役割をする手足で、水に接触することで高い効率で熱交換ができるので、静脈血が冷やされて心臓へ戻るのです。

体温上昇の抑制、または高く上がってしまった体温を速やかに低下させて、通常レベルへ戻すことが可能になります。

これは、災害時だけでなく、通常の生活でも有効に機能させることが可能です。

②【衣服の保温性】

(質問)
重ね着が温かいのか。

(回答)
衣服の保温性は、いかなる繊維素材よりも熱伝導率が低い静止空気層を体の周りに留め、体熱を放散させないことです。

衣服を着用する際に、空気層を押しつぶさないように心掛けることが重要です。

③【熱中症予防と衣服素材】

(質問)
どの素材が熱中症予防になるのか。

(回答)
熱中症予防の観点から、綿服とポリエステル服の比較実験から分かるように、人の皮膚から汗をかいたらできるだけ速やかに蒸発させることが最も重要な視点です。

吸水性が高く、放湿性が低い綿の場合、せっかく汗腺から出た汗を綿シャツがどんどん吸ってしまい、なかなか蒸発に繋がりません。

その間に体温はどんどん上昇してしまいます。

しかし、ポリエステル服のように疎水性の繊維を皮膚に密着して着用すると(例:高校野球の選手がアンダーシャツとして着用)皮膚からでた汗は、繊維には吸われず、繊維間を汗滴が速やかに拡散して拡がり、素早く蒸発につながるため、体温上昇は低く抑えられるため、熱中症予防に役立ちます。

④【布団の選び方】

(質問)
温かい布団のかけ方は。

(回答)
寝ている人体からの熱移動は、掛け布団側より、敷布団側が多いのです。

通常の場合でも重要ですが、体育館等の避難所の場合には特に敷布団側に留意することが重要です。

また、掛け布団と人体の首、襟元等の空隙が大きく開かないようにすることです。

極端に寒い場合には、マフラータオル等を首に巻くことも対策の一つとなります。

⑤【扇風機の使い方】

(質問)
室内の効果的な扇風機の風の循環方法

(回答)
エアコンが使用可能な場合は、扇風機と併用することがお勧めです。

エアコンである程度冷やされた空気を広く室内に循環させることが可能な場所に扇風機を置き、発汗している人の皮膚から汗蒸発を促進することが可能となります。

冷たすぎる空気を当てると、皮膚血管の収縮が起こるようでは発汗量が抑制されてしまい、体温調節機能が阻害されるので温度にも十分に注意しましょう。

⑥【手の平を冷やす】

(質問)
環境省では熱中症の際に両脇や鼠径部を冷やすとよいとありますが、熱中症発症時も手のひらを冷やすことに効果はありますか?

(回答)
手の平、足の冷却が有効なときは、AVA血流が十分にあるときです。

循環系が正常ではないときには、手足の冷却効果不明です。

冷却材を手のひらにあてると、血管収縮の可能性があります。

手の平を冷やすのは、初期の熱中症で有効と考えられます。

⑦【夏の避難所での服装】

(質問)
ライフラインが止まったとき、夏の避難所での服装は、半袖、半ズボン、裸足がいいのですね。長ズボンは、極端にいえば、ハサミで切って、半ズボンにするのがいいでしょうか。

(回答)
そのとおり。汗を蒸発させることが大切です。AVA血流で放熱させます。

⑧【服の素材】

(質問)
素材は、綿より、ポリエステルの、密着した半袖シャツを着るのがいいでしょうか。長袖シャツがいいですか。上半身の裸より、涼しいのでしょうか。

(回答)
高校野球で長袖を着るのは、けが予防のためです。

避難所では、薄い生地のポリエステルの半袖が、汗が広がり蒸発しやすいので、いいでしょう。

⑨【冬の避難所の服装】

(質問)
ライフラインが止まったとき、冬の避難所の衣服は、長袖の綿の下着が、体を温めやすいと考えていいですか。

(回答)
皮膚が乾いた状態では、綿でいいでしょう。

ただし、綿は、濡れると体温を下げてしまいます。

ウールは、水を吸わないで、ちくちくするのを除いた素材があります。      

⑩【下着の素材】

(質問)
薄くて温かいといわれる商品の下着も有効なのでしょうか。素材は、レーヨン、アクリル、ポリエステル、ポリウレタンの4種類でできているようです。

(回答)
水蒸気を吸って発熱すると考えられます。

⑪【寒さによる指先の痛み】

(質問)
冬に、北海道へ行ったとき、顔や首元より、指先が痛くなって、手袋なしには外を歩けなかった記憶があります。細い部位は冷えやすいからですか?

(回答)
指先には、AVA血管が多くあります。

厳しい寒さのとき、足先、指先が収縮して、温かい血液が流れなくなります。

痛くなる前に、保温のため衣服を着て、首、胴体を温めることが大切です。

⑫【湿度による放熱の違い】

(質問)
温度が同じとして、湿度が高いとき、湿度が低いときで、放熱に差がありますか。

(回答)
あります。湿度が高いとき、皮膚からの蒸発が妨げられます。

すると、手が熱く、顔が熱くなります。

⑬【ウールが温かい理由】

(質問)
ウールが温かいのは、水蒸気がウールに着いたとき、熱が発生するからですか。

(回答)
親水基と結びつき、発熱、温かい空気層をつくります。

たとえば、セーターは、繊維の間で空気が静止して、温かさを保っています。

⑭【暑熱順化】

(質問)
スポーツの、サッカーのワールドカップ予選で、日本チームがサウジアラビアへ行ったと聞きました。現地は、41℃です。暑熱馴化は、すぐにできるのでしょうか。

(回答)
体が馴れるまで、1週間かかります。

皮膚血流を増やすのが難しいからです。

汗腺は、生まれたとき、500万個あります。

2歳半までの環境で、能動汗腺になるのか、不能汗腺になるかが決まります。

汗腺の数は、280~300万です。

日本で288万個、シベリアで144万個といわれています。

北海道、沖縄とで違います。

汗から塩分が出ます。

じわじわとかく汗は、血管に塩化ナトリウムが残ります。

熱帯地方では、薄い汗をかきます。

寒い地方出身の人は、塩分が出やすいのです。

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【実績】

(書籍)

・2022年、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

・2020年、全国保健師長会・作成『災害時の保健活動推進マニュアル』の生活環境衛生対策の分担執筆をしました。

(活動)

・被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
 2011年 東日本大震災、気仙沼市
 2016年 熊本地震、熊本市
 2018年 西日本豪雨、倉敷市
 2019年 令和元年台風19号、長野市、いわき市
 2024年 能登半島地震、七尾市、珠洲市

(講師)

・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」の講師をつとめました。

・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」の講師をつとめました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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