【注意】地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その18)
【保健師活動】カビ対処と呼吸器系疾患の予防
①布団干しと掃除・風通し
②温湿度計・二酸化炭素モニター確認で換気
③カビ対処は消毒用エタノールで拭く
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元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。
次のとおり、【保健師活動】カビ対処と呼吸器系疾患の予防について、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。
全国保健師長会に情報提供しています。
ご活用ください。
【暖房と結露・カビの関係】
開放型石油ストーブ・石油ファンヒーター等の燃焼力が強い場合、室内空気中に、燃焼にともない二酸化炭素と水蒸気が多量に発生します。
発生した水蒸気により、室内空気の湿度が上昇します。
このとき、室内の冷えた部分に結露が起きる可能性があります。
寒い日に、窓の内側に水滴がつく現象です。
こうした結露が、避難所のなかで起こります。
たとえば、床面が冷えている場合、寝具下の断熱材やマット類の、床面と接する部分に、結露が起きるかもしれません。
床面と接する、段ボールベッドの底面に結露が起きる可能性があります。
結露は、カビの発生・増殖につながる可能性があります。
次のような流れでカビの発生となりえます。
水蒸気が増えた室内空気 → 室内の冷えた部分 → 結露 → カビの発生
【カビが生えやすい環境】
出典:『「水」の安心生活術』中臣昌広著(集英社新書)P181
①栄養:有機物を栄養にする
木材、畳、壁クロスなどの建物内装材や、人のアカ、埃などを栄養源にします。
②温度:15~30℃
人が快適と感じる20~28℃が、カビにとっても最適な温度です。
③湿度:70~95%
ふつう80%以上で急速に増殖します。
④酸素:空気を必要とする
酸素が不足すると、発育しにくくなります。
【カビの呼吸器系疾患】
例:肺感染症(肺アルペルギルス症)
アスペルギルスは、環境中にいるカビ(真菌)のひとつです。
胞子の形で、空気中に漂うアスペルギルスが肺に吸い込まれることで健康影響を与えることがあります。
主な症状は、咳、痰、血痰などです。
喀血が起きることがあります。
発熱を伴う場合もあります。
もともと肺・呼吸器系に疾患がある方にとっては、要注意なカビです。
1 布団干しと掃除・風通し
1~2週間に1回以上、布団干しをしましょう。
※布団干し・乾燥は、ふだん寝るスペースとは違う場所ですることがポイントです。
布団干し・乾燥は、カビの抑止につながります。
布団をいったん他へ移すことで、ベッド類をずらし、寝ている場所の掃除機がけができます。
このとき、寝ているスペースの湿気を取るため、30分程度、風を通すとよいでしょう。
屋外の布団干しが難しい場合、布団干し・乾燥の方法は、次のとおりです。
①布団乾燥機を使う
②専用部屋で除湿器を使う
③晴れた日に車のボンネットに干す
避難所の衛生環境をアップさせる布団干しの方法は、別ページに詳細があります。
2 温湿度計・二酸化炭素モニター確認で換気
換気は、室内の湿気を取る目的があります。
湿度が60%を超えたとき、開放型石油ストーブ・石油ファンヒーター使用時に二酸化炭素濃度が2,500~3,000ppmを超えたときは、窓を開けて2~3分間、換気をしましょう。
2時間に1回の換気でも、いいでしょう。
カビを抑えるには、室内で発生した水分をできるだけ外に出すことです。
室内に過剰な水蒸気が漂っていれば、冷えた北側の壁や天井、ときには、冷えた床面と寝具・段ボールベッドとの間に結露してしまいます。
結露は、カビの発生につながります。
3月では、外気温が10℃以下のとき、雪や雨が降っているとしても、窓を開けると、室内の水分が外へ出ていきます。
室内の温度が20℃くらいあるとき、室内空気は多くの水分をもつことができます。
一方の外の冷えた空気は、少ない水分しかもてません。
寒い時期は、窓を開けると、室内と屋外の空気が混じりあい、内と外で、同じ水分量になろうと空気が動き、室内の水分が外へ出ていってくれるのです。
※寝る前の換気が、実は効率がいいのです。
可能な場合、寝る前までに換気することで、夕食後に室内にたまった水分を外に出すことができます。
こうすれば、室内の水分が減るので、室温が下がる深夜から早朝に結露が起こりにくくなります。
換気をしたあと、室内の温度は一時的に1~2℃下がるくらいです。
壁や天井、床などの表面温度が高くなっているので、空気が入れ換わっても部屋全体の温度が極端に下がることはありません。
避難所の空気環境の目安は、次のとおりです。
暖房時の室内温度:18~22℃
暖房時の室内湿度:40~50%
暖房時の二酸化炭素濃度
・開放型石油ストーブ・石油ファンヒーター使用時
低体温症予防を優先する場合:2,500~3,000ppm以上で換気
・エアコン・電気ストーブ使用時: 1,500ppm以上で換気
暖房時の一酸化炭素濃度:6 ppm以下
暖房時の浮遊粉じん量:0.15mg/m3以下
※温度・湿度は、東京都の「健康・快適居住環境の指針」を参考にしています。
※一酸化炭素、浮遊粉じん量は、建築物衛生法の空気環境基準を参考にしています。
※二酸化炭素は、建築物衛生法の空気環境基準及び学校環境衛生基準とともに、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』中臣昌広著(一般財団法人日本環境衛生センター)をご監修いただいた、寒冷地防災が専門の日本赤十字北海道看護大学の根本昌宏教授のご意見、一戸建ての室内で石油ストーブ1台使用時の二酸化炭素濃度を測定した値を参考にしました。
3 カビ対処は消毒用エタノールで拭く
カビの対処は、消毒用エタノールをきれいな白雑きん、ペーパー類に湿らせて拭くことです。
表面のカビを死滅させることができます。
ただし、黒いカビの色は残ります。
表面のカビが死滅したとしても、布団の内部までカビが発生していることがあります。
布団にカビが広がってしまった場合、新しい布団と交換するのが望ましいでしょう。
避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。
上の画像をクリックすると、pdfが開きます。
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【ご案内】
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【実績】
・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。