【環監・保健師入門】災害時の衛生対策・避難所で低体温症を防ぐ
【私の視点】
冬季、避難所で体温が奪われにくいのは、天井が低く、パーティションまで離れていない環境です。
免疫力の下がった高齢者や基礎疾患のあるかたの避難スペースは、学校を想定すると、体育館より教室が望ましいでしょう。
こんにちは 元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、避難所の衛生対策、レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2023(令和5)年8月はじめ、自治体職員対象、環監未来塾私塾・無料講演会をオンライン開催しました。
テーマは、「災害時の避難所の衛生、津波災害の溺水と低体温症」です。
講師は、日本赤十字看護大学附属災害救護研究所・災害救助技術部門客員研究員の栗栖茜氏です。
全国の保健所・環境衛生監視員のかたが参加しました。
ご講演から、私が理解した内容は次のとおりです。
【なぜ溺水が起きるのか】
栗栖氏の実験動画から、人工的につくられた津波の引き波で流されたマネキン人形の体が、水中で何回も回転する様子が見えます。
ガラス張り水槽の横から、水中で横になった体が、その姿勢で渦に巻き込まれるのが見えました。
自由な動きが失われて、溺水につながることがわかりました。泳ぎが達者な人であっても、5分で溺水につながってしまいます。
次の動画では、ライフジャケット着用のマネキン人形が同様の状況でどうなるかが映しだされました。
引き波であっても、顔の部分が水面から出て、呼吸が可能な様子がわかりました。
【水中の低体温症】
深部体温が35℃以下のときが低体温症、32℃以下のときが重症の低体温症、28℃以下のときが最重症の低体温症となります。
冬の海で水温が0~1℃では、1時間で重症の低体温症になる可能性があります。
水温が20℃のときには、6~8時間を過ぎると低体温症になる可能性があります。
【水中の低体温症を防ぐ方法】
水とふれる面積を少なくすると、低体温症になるまでの時間を延ばすことができます。
ライフジャケット着用で1人の場合、膝をかかえるように体をできるかぎり丸める姿勢をとります。
ライフジャケット着用で2~4人の場合、お互いの体を合わせるようにするのが有効です。
【避難所と低体温症】
服を濡らした人が避難所に来たとき、服を脱がせることが大切です。
冬季、室内温度の低い避難所では、低体温症が起こる可能性があります。
低体温症は、「失われる熱」が「得られる熱」より大きくなるときに起こります。
熱の移動には、対流、伝導、蒸発、放射の四つがあります。
①対流
たとえば、体のまわりにある体温で温まった空気を、うちわや扇風機で追い出すことです。
山登りで強風がふいたとき、風速の2乗に比例して熱が奪われます。
風速2mと風速8mでは、4倍の差があります。このとき、熱は2乗の16倍が奪われてしまいます。
②伝導
温度が低い床面に寝ると、体から床へ熱が奪われます。
けがの治療のときには、体温が奪われないように地面の上にシートを敷くことが大切です。
③蒸発
気化熱があたります。汗が蒸発するとき、体から熱を奪う現象です。
打ち水では、水分が蒸発してまわりの温度を下げます。
④放射
体育館では、中央付近から約10m離れた壁に向かって体から放射熱が放出されます。
熱の喪失が大きいのが放射です。
避難所の壁や床の温度が低いと、体温が奪われます。
壁の温度が0℃のとき、15℃と比べて、約2倍の放射熱が人体から奪われます。
以上の四つの、対流、伝導、蒸発、放射のうち、避難所では放射の影響をいちばんに考える必要があります。
【パーティションの活用】
たとえば、冬季の避難所では、体からの放熱を使い、体のまわりを暖めるには、段ボール製パーティションができるかぎり接近しているほうがいいとされます。
体の放熱により、パーティションを温めることができるからです。
段ボールは、空気層があり、熱が逃げやすく温めやすい構造になっています。
パーティションの壁は温まりやすく、低体温症になりにくい環境をつくることができます。
(『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)のP124~P129に、段ボール製パーティションの詳しい説明があります)
そのとき、床面に断熱材を置いたり、就寝時に天井に覆いをつけたりすることが暖かさの確保に有効です。
さらに、段ボールベッドが使用されれば、伝導により熱が奪われることを抑えることができます。
【体から熱をつくる方法】
足を使って歩くことが体温を高めるには有効です。
冬の登山では、体温を保つために、ポケットに入れたアンパンを食べながら歩くと聞きました。
避難所では、たとえば、朝夕2回、歩くことで、エコノミークラス症候群の予防にもつながります。
イベントの盆踊りは、高齢者のエコノミークラス症候群の予防につながります。
【私の視点】
栗栖氏のご講演から、わかったことがあります。
冬季の避難所・体育館は、天井が高く、生活スペースと壁までの距離があるので、避難者の体から熱が奪われやすい環境となります。
低体温症を防ぎ体温が奪われにくいのは、天井が低く、パーティションまで離れていない環境です。
高地にある山小屋がいい見本になります。
天井が低いので、体から放射を抑えることができ、体を温める点では理にかなっています。
免疫力の下がった高齢者や基礎疾患のあるかたの避難スペースは、学校を想定すると、体育館より教室が望ましいでしょう。
体育館に高齢者や基礎疾患のあるかたの避難スペースをつくらざるを得ないときは、高さ150cm程度の段ボール製パーティションあるいは防災テントで約2m四方を囲むことが大切です。
そのとき、床面に断熱材を敷いたり、就寝の際に天井部分に覆いをつけたりして体温の熱が逃げないように工夫することが大切です。
逆に、夏季の避難所では、暑さ対策で、パーティションは布製が望ましいでしょう。プライバシー確保にもなります。
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【実績】
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。