【環監・保健師入門編】レジオネラ症対策・浴槽水の換水頻度を考える(その1)
【私の視点】
現場では、通常の状態との違いに気づくことができるかがポイントです。
原水の水質・成分や補給水の量を押さえたうえで、調査項目として、浴槽壁面のぬめり確認、浴槽水のATP値・pH値などをもとに換水頻度の低い可能性があるときは、さらに記録類を確認します。
2023(令和5)年2月下旬、新聞やテレビなどメディアで、老舗旅館の大浴場の浴槽水の換水が年2回だけだったと報じられました。
浴槽水の換水について、考えてみましょう。
浴槽水は大きく2種類あります。
一つは、浴槽水を循環ろ過して処理し、補給水を入れながら繰り返し使うものです。
もう一つは、かけ流しといわれ、浴槽に新鮮な温泉や湯を注ぎ、浴槽からこぼれる温泉・湯が捨てられるものです。
【条例上の規定】
自治体により、条例の内容は異なります。
・文京区公衆浴場法施行条例
「浴槽は、毎日完全に換水し、清掃すること」
・福岡県公衆浴場法施行条例
「浴槽水は、一日に一回以上完全に換水すること。ただし、連日使用型循環浴槽(集毛器、消毒装置及びろ過器のいずれをも備えた浴槽に限る。)を使用する場合にあっては、一週間に一回以上完全に換水することをもって足りる」
福岡県の条例では、循環ろ過の浴槽水は7日に1回以上の換水が求められています。
【換水頻度のチェック法】
保健所・環境衛生監視員(環監)の現場調査の際、浴槽水の換水頻度が低いことに気づく方法がないかを考えました。
専門家の株式会社ヘルスビューティー・シニアテクニカルアドバイザーの藤井明氏のご意見も参考にしました。
次に挙げる項目は、いずれも換水頻度が低い可能性を感じさせるものです。
これをもって、必ず換水頻度が低いと断定することはできません。
他の原因、たとえば、ろ材の汚れ、ヘアキャッチャー前後の配管の汚れ、気泡発生装置の滞留水部分の汚れ、オーバーフロー水が貯まる回収槽の汚れの可能性も考えられます。
あくまで、通常との違いに気づくきっかけとするものです。
原水の水質・成分や補給水の量を押さえたうえで、調査項目として、浴槽壁面のぬめり確認、浴槽水のATP値・pH値などをもとに換水頻度の低い可能性があるときは、さらに記録類を確認します。
換水記録の確認、日常の衛生管理記録の確認、設備管理担当者からの事実確認をします。
では、具体的な項目をみていきましょう。
①浴槽壁面のぬめり
浴槽内側の壁面を手でさわります。
特に注目するのは、水面が上下するあたりです。
水面に浮く髪の毛や人のアカなどの汚れが、壁面につきやすいからです。
浴槽で、ぬめりがいちばん発生しやすい場所と言っていいでしょう。
手でさわってみて、ぬるぬるしていれば、生物膜(バイオフィルム)が形成されていると考えていいでしょう。
浴槽の清掃が不十分の可能性があります。
換水頻度が低い可能性があります。
②浴槽水のATP値
私の経験に、屋内プール付属のジャグジー槽のレジオネラ属菌検出事例があります。
自主検査による菌検出の報告を受けて、現場へ行きました。
温度38~39℃のジャグジー槽のATP値を測りました。
ATP値は、有機物による汚れの度合いをみるものです。
利用者が多いほど、有機物による汚れが多くなる傾向があります。
2カ所で測ると、640・RLU、760・RLUの値でした。
原水の地下水が清浄なときの5~20・RLUと比べて高いと感じたので、前回の換水がいつだったかを設備担当者に尋ねました。
「2カ月くらい前です」と答えがありました。
他の状況を含めて、換水頻度が低く、ATP値が高くなったと判断しました。
原水や新鮮補給水の通常のATP値と比べて、測定値が相当に高い数値になったとき、換水頻度の低さを考えることができると思います。
③浴槽水のpH値
学校のプール水のpH値(水素イオン濃度)が、中性の基準値を超えてアルカリ性になった例があります。
文京区プール条例施行規則のプール水の水質基準の一つ「水素イオン濃度は、PH値五・八以上八・六以下であること」に不適になりました。
遊泳者による汚れが蓄積したことが原因ではないかと考えました。
水質改善のためには、多量の補給水、あるいは全換水のどちらかが有効とわかり、学校へ助言しました。
学校では、全換水をおこない、新鮮な水道水をプールに入れました。
プール水がアルカリ性に傾いた原因の一つは、遊泳者の汗や尿によりアンモニア性窒素の量が増えたためと考えられます。
④浴槽水の有機物量・アンモニア性窒素
毎日、換水しないで繰り返し浴槽水を使う場合、循環ろ過のろ過器への負担が大きくなり、浴槽水中の汚れが増してくる可能性があります。
浴槽水の水質項目として、汚れが進むことで数値が高まる可能性のあるのが有機物です。
文京区公衆浴場法施行条例の水質基準では、こうあります。
「過マンガン酸カリウム消費量は、一リットルにつき二十五ミリグラム以下とすること」
過マンガン酸カリウム消費量は、汚れの指標の有機物を測るものです。
不適になったとき、換水頻度の低さ、そのほかに利用者の多さ、ろ過器の能力不足、ろ材の劣化、補給水の不足などが考えられます。
入浴者の汗や尿によりアンモニア性窒素の量が増えることも考えられます。
アンモニア性窒素は、ろ過器で除去することができません。
換水頻度が低いと、アンモニア性窒素の濃度が高くなる傾向があると推測されます。
なお、アンモニア性窒素は文京区の条例にはありませんでした。
簡易テストのパックテストによる確認ができると思います。
【換水頻度】
私は、環監として現場で、最低限3日に1回の換水を指導・助言してきました。
根拠は、自著『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター、500円税抜)のP13に詳しく説明しています。
静岡県環境衛生科学研究所が行った実験では、消毒用の塩素が消失した循環浴槽水中で、3日後にレジオネラ属菌が急激に増加しているのがわかりました。
塩素注入器の故障や人為的なミスがあったとしても、3日に1回、換水をすると、リスクを抑えることができると考えたのです。
【私の視点】
現場では、通常の状態との違いに気づくことができるかがポイントです。
原水の水質・成分や補給水の量を押さえたうえで、調査項目として、浴槽壁面のぬめり確認、浴槽水のATP値・pH値などをもとに換水頻度が低い可能性があるときは、さらに記録類を確認します。
換水記録の確認、日常の衛生管理記録の確認、設備管理担当者からの事実確認をします。
『てびき』ご購入をお考えのかたは、こちらから注文ができます。
【ご案内】
・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。
・課題の解決につながる講座をご用意しています。
・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。
月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【実績】
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。