環監・保健師のための防災【入門】避難所・避難生活の衛生・感染症対策の疑問に答える

【私の視点】
・いちばん大切なのは、日常時の準備です。
・練習でできないことは本番ではできない。その言葉を肝に銘じて、取り組みを継続したいと思います。

開放型石油ストーブから粉じんが発生する可能性がある

2022(令和4)10月中旬、特別区職員研修所・令和4年度専門研修「地域保健」の講師をつとめました。

105分の講義のテーマは「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」です。

東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、令和元年台風19号の被災地で、地元の自治体にご協力した私の避難所・避難生活の衛生・感染症対策活動を基にお話ししました。

特別区23区、多摩地域の自治体から、保健師、看護師、栄養士、歯科衛生士など54人が参加しました。

会場での講義は、クラウドのツールのUMUを使い、質問、設問のやり取りなど、双方向で進めました。

【講義の内容】

1.避難所の衛生・感染症対策
 
 (1)新型コロナウイルス感染症への対応

 (2)生活環境の整備

 (3)各チェックポイント

2.水害時の避難生活の問題点を考える

【質疑応答】

◎今後の災害時の活動に役立てていただくため、質問と回答をご紹介しましょう。

質問:
レジオネラ属菌が発見された場合の避難地域での対応は、どのような注意が必要になりますか。

回答:
(レジオネラ症対策の注意点)
泥の撤去作業などの現場では、マスク着用が推奨されます。

土埃が舞いやすいのは、水害数日後以降に晴れて、泥が乾燥したときです。

過去の被災地では、道路に散水車が定期的に水を撒いていました。

土埃は目に入ることでの健康被害の可能性もあり、場合によってはゴーグル着用が推奨されます。

質問:
所属している施設が第二避難所(障害児)に指定されています。これまでのご経験の中で子どもを対象として特に注意したらよいポイントが、ありましたら教えて頂きたいです。

回答:
(ぜんそくと室内の粉じん)
ぜんそく、呼吸器系疾患のあるお子さんがいる場合、室内環境に注意点があります。

室内の粉じん発生があるかです。

粉じんは、子どもの遊び場からの埃の影響だけではなく、開放型石油ストーブからも出ます。

石油ストーブは、化石燃料の灯油を燃焼させるとき、100分の1ミリ程度の粒子が発生する可能性があります。

注意が必要です。

対応として、避難所内のエアコン使用のエリアでの滞在が望ましいでしょう。

質問:
避難所のレイアウトや実際の避難所での換気の間隔や発災後の時間経過に合わせたリスクをより細かく聞けるとありがたいです。

回答:
(レイアウト)
健康者と症状がある人とを分けるレイアウトは、指定避難所の小学校の一例で、体育館に健康者、校舎教室の2階一部に症状がある人に滞在していただくものです。

さらに細かく体育館のレイアウトを考えるとき、大きく二つのやり方があると思います。

一つは、地域地区ごとに分ける。

もう一つは、家族構成別で分けるです。

地域地区ごとのブロックに分けるのは、顔の見える関係と助け合いが生まれやすく、コミュニケーションがとりやすいといわれています。

家族構成別は3ブロックで考えます。

体育館の入り口に近く、トイレに近いところに、高齢者・障がい者のかたが過ごします。

介助者が近くにいるかたちです。

次の真ん中のブロックは、一般のかたが過ごします。

いちばん奥には、小学校低学年くらいまでの小さな子どものいる家庭が過ごします。

同じような家族構成で、お互いの理解ができるといわれています。

(換気)
新型コロナの影響前は、多くの避難所で1日2~3回の換気が行われていました。

効果的なのは、食事後に、室内のニオイの排出を含めて、窓の対面換気を10~15分間することです。

具体的な事例では、午前10時、午後1時、午後4時です。

3回目は夕食後が望ましいのですが、寒くなる、虫が入ってくるなどの理由で食事前の換気をしていました。

新型コロナの影響後は、完璧な換気を考えると、30分間に1回、対面窓の全面開放を数分間することです。

ただし、現実的には、二酸化炭素濃度の測定器(3万円前後)を使い、目安となる1,000ppm以下(建築物衛生法の空気環境基準)を確認しながら、1~2時間に1回、5~10分間、対面換気をするとよいと思います。

健康管理の優先順位について、夏季の熱中症、冬季の風邪・インフルエンザを考えて、室内が暑くなりすぎない、寒くなりすぎないようにするならば、二酸化炭素濃度1,500ppm以下(学校環境衛生基準)を目安にするのが一つのやり方です。

(時間経過のリスク)
発災後の時間経過に合わせたリスクは、私の夏季の被災地の現場で見た経験から次のとおり考えています。

発災2週間後までは、リスクが高い時期と思っています。

①緊急対策期(発災直後~1週間後)
 医療、感染症予防を中心に対応。

②環境整備期(5日後~2週間後)
 エアコン、暖房、扇風機、ベッド、布製仕切りなどの設置。

③円滑運営期(2週間後~)
 衛生、保健、福祉等活動。
 日常生活・行動にどれだけ近づくか。靴箱設置。布団干し。

質問:
理由があり、段ボールベッドの高さが決まっていることを初めて知った。詳しく教えてください。

回答:
(段ボールベッドの利点)
段ボールベッドの高さ約35cmは、高齢者のかたの立ち上がりの容易さのほか、次の利点があります。

高さがあることで、床面からの冷えを抑え、床面の埃を吸いこみにくくしています。

新型コロナの面では、立って咳やくしゃみをしたとき、床面の飛沫を含んだ埃の舞いあがりによる感染リスクを下げる役割にもなっています。

質問:
衛生監視さんは避難所で環境等の確認をしたあとどのような動きをとられるのか、その実際を知りたいと思いました。

回答:
(衛生対策活動の調査後の動き)
いずれの場合も、現場の避難所で、すぐに避難所管理者・運営者に調査結果・改善点助言などをお伝えします。

助言により、すぐに扇風機の設置、体育館内に温度・湿度計の設置などがされた例があります。

現場のあとの流れを二つの例でご説明しましょう。

東日本大震災の被災地・気仙沼市での避難所衛生対策活動では、調査・空気環境測定の結果、改善点、必要な備品等をまとめて、報告書(提案書)として、地元の統括保健師をとおして災害対策本部へあげられました。

その結果、すぐに8カ所の避難所に掃除機が配置されました。

熊本地震の被災自治体・熊本市の保健所では、環境衛生監視員が避難所衛生対策活動をおこない、その結果、改善事項をまとめて詳細な文書をつくり、所属長から組織内の避難所担当部署等へ文書を送り、改善につなげました。

例えば、室内の空気のよどみをなくすためのサーキュレーター、扇風機の設置、専用の食事場所の設置などがありました。

また、私の経験した避難所の衛生対策活動では、調査結果・助言内容等を、支援自治体を含む保健師ミーティング・災害保健医療調整会議の席で情報共有したことがありました。

質問:
ゴミの置き場をあらかじめ決めておくという事でしたが、どのような場所が適切か、どのような対策が必要かなどを具体的に教えて頂きたいです。

回答:
(ごみ置き場)
日常的に発生するごみと、排泄物のごみの二つを考えてみましょう。

日常的に発生するごみの容器は、過去の多くの避難所で、玄関ロビーの片隅、廊下の一部に置かれていました。

生ごみは臭いの発生があるので、臭いが生活スペースに流れないように、蓋つきにするとともに、ごみ置き場の場所を考慮する必要があります。

避難所によっては、生ごみ類を、夜には屋外の体育倉庫などに保管するところがありました。

なお、ごみ容器は、新型コロナ対策を考えて、取っ手の接触のない、足踏みフタ開閉式が望ましいと考えます。

(排泄ごみの保管)

携帯トイレ、簡易トイレの排泄ごみの保管は困る問題です。

日常時に考えておく必要があります。

例えば、過去の防災担当課の検討案では、小学校では、砂場の砂を片づけて排泄物ごみを保管し、シートで覆う。

校舎裏の土を掘り、その穴に一時的に埋めるなどがありました。

私のアドバイス例は、屋外で使われていない屋根付きの動物飼育小屋を排泄ごみの一時保管場所にすることでした。

臭い、感染症予防の観点から、日常時に、保管場所をきめておくとよいでしょう。

【私の視点】

・質問の回答をとおして、いちばん大切なのは、日常時の準備だと改めて気づきました。

・練習でできないことは本番ではできない。その言葉を肝に銘じて、取り組みを継続したいと思います。

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・課題の解決につながる講座をご用意しています。

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【実績】

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2021年、東京都特別区職員研修所、令和3年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「新型コロナウイルスを踏まえた避難所の衛生対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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