【環監向け】レジオネラ症対策・アルカリ性温泉の消毒
【環監の視点】
殺菌力は、浴槽水での次亜塩素酸の濃度と接触時間をかけたものになります。
pH値8~9の範囲のとき、次亜塩素酸ナトリウムの遊離残留塩素濃度を通常より上げて、たとえば、1.0mg/L程度にして、消毒に要する接触時間を2倍以上とみれば、一定の消毒効果を得られると考えられます。
元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所の衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
介護施設の運営者のかたから、温泉かけ流しの浴槽水の消毒について、ご質問がありました。
レジオネラ症対策に有用な内容ですので、ご紹介したいと思います。
以下の説明につきまして、専門家の株式会社ヘルスビューティ・シニアテクニカルアドバイザーの藤井明氏の資料を参考にしました。
【温泉かけ流しの浴槽水の消毒】
(質問)
温泉かけ流しの湯を使っています。
pH値が「9」のアルカリ性単純温泉です。
いまは、浴槽水の消毒に次亜塩素酸ナトリウムを使用しています。
消毒に、次亜塩素酸ナトリウムでいいのか、何を使えばいいのか迷っています。
(回答)
在庫分の次亜塩素酸ナトリウムを使用したあと、アルカリ側でも消毒効果を保つブロム剤を使うのが選択肢のひとつになると思います。
都内の公衆浴場のひとつは、原水の地下水のpH値が8.6~8.8であり、ややアルカリ性の水質です。
薬湯には、消毒用の吊り下げ容器のなかに、固形のブロム剤を入れています。
店主は、「ブロム剤はやや高価ですけど、徐々に溶けていくので、長い時間、継続して使用できます。有効塩素濃度が高いと聞いています」と話しています。
【塩素剤の殺菌力】
次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)は、水に溶けると
次亜塩素酸(HOCl)と水酸化ナトリウム(NaOH)になります。
次亜塩素酸(HOCl)は、pH値により
次亜塩素酸イオン(OCl⁻)と水素イオン(H⁺)になります。
HOCl ⇔ OCl⁻ + H⁺
HOCl + OCl⁻ = 遊離残留塩素
殺菌力は、HOCl > OCl⁻ です。
水中の遊離残留塩素の形態とpHの関係のグラフがあります。
殺菌力のつよい次亜塩素酸(HOCl)は、pH値5~7付近のとき、水中での存在の割合が高くなります。
やや酸性から中性の範囲で、次亜塩素酸ナトリウムの殺菌効果が高くなるのです。
pH値8~9の範囲では、次亜塩素酸イオン(OCl⁻)の割合が高くなり、殺菌力が下がります。
ただし、殺菌力は、浴槽水での次亜塩素酸の濃度と接触時間をかけたものになります。
pH値8~9の範囲のとき、次亜塩素酸ナトリウムの遊離残留塩素濃度を通常より上げて、たとえば、1.0mg/L程度にして、消毒に要する接触時間を2倍以上とみれば、一定の消毒効果を得られると考えられます。
【泉質による塩素の殺菌力低下と対策】
泉質:弱アルカリ~アルカリ性
現象:殺菌力の低下
対策:
①遊離残留塩素濃度を上げる
②ブロム剤の使用
③モノクロラミンの使用
【消毒剤の種類と使い方】
(参考資料)
群馬県のホームページ「浴場等でのレジオネラ症対策」に、消毒剤の種類と使い方(資料提供:株式会社関東保全サービス)の資料が掲載されています。https://www.pref.gunma.jp/page/6223.html
上のURLをコピーして、お調べください。
【環監の視点】
殺菌力は、浴槽水での次亜塩素酸の濃度と接触時間をかけたものになります。
pH値8~9の範囲のとき、次亜塩素酸ナトリウムの遊離残留塩素濃度を通常より上げて、たとえば、1.0mg/L程度にして、消毒に要する接触時間を2倍以上とみれば、一定の消毒効果を得られると考えられます。
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【実績】
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。