【大規模火災】避難所の空気環境とインフルエンザ対策・その２
【避難所の空気環境とインフルエンザ対策】その２
１ 空調設備を考える
２ 二酸化炭素濃度の測定
３ 換気と飛沫感染対策
４ 環監の視点（空気環境の実態を把握する）
上の画像をクリックすると、pdfが開きます。
（2011年、東日本大震災被災地の避難所で）
元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著（根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター）、避難所の衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2025（令和7）年11月18日（火）に、大分市佐賀関で大規模な火災が発生しました。
火災地域の皆様へお見舞い申しあげます。
令和7年11月28日付大分県災害警戒本部の資料によると、28日12時時点で、佐賀関市民センター内佐賀関公民館に、80世帯、113名のかたが避難しています。
11月25日（火）昼のテレビニュースを見て理解したのは、24日時点で、避難所でインフルエンザ患者14人が確認されたということです。
別のニュース映像では、予防投与として希望者にタミフルを配布しているのを見ました。
次のとおり、【大規模火災】避難所の空気環境とインフルエンザ対策について、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。
その１では、温度・湿度の視点から、その２では、飛沫感染対策の視点から考えていきます。
今回は、その２を考えます。
ご活用ください。
１ 空調設備を考える
大分市のホームページから、佐賀関公民館の平面図と、集会室、研修室、和室などの写真を見ることができました。
ネット上の情報から、公民館の避難スペースの換気設備を考えてみたいと思います。
（１）換気設備
①集会室（小体育館）
天井に、空調の吹き出し口が等間隔で並んでいます。
機械室で、外気と集会室からの戻りの空気が混合され、温められたあと、室内に送られていると考えられます。
一定量の外気が入っていれば、室内空気の換気がされていると考えていいと思います。
②研修室、視聴覚室
2階にある二つの研修室は、可動式の壁で仕きられていて、同時に使用すると約90名程度の研修室として利用できると書かれています。
広い空間になると考えられます。
写真には、窓側の天井に、換気用の全熱交換器、あるいは空調機と思われるものが写っています。
全熱交換器は、冬季に、機械的に外気を室内へ取り入れるときに、薄い膜を通して、室内からの温かい排気と熱交換をおこない、外気を温めながら室内に送る装置です。
夏季には、逆に、冷房された室内空気と熱交換をして、外気を冷やしながら室内に送っています。
同じ2階の視聴覚室の天井には、室内空気を循環して温める空調機が天井に埋め込まれています。
加湿装置は、空調機に組み込まれているか、あるいは独立した加湿装置が天井に埋め込まれているかは、写真からは判断できませんでした。
中に水を濡らすプラスチック板があり、板に風を送り加湿している。
壁には、通常、空調機を調整するスイッチ、コントロールパネルがついています。
③和室
天井の中央付近に、室内の空気を循環して温める空調機が埋め込まれています。
左奥の窓側の天井に、四角の穴が見えます。
換気口だと推測します。
写真に写っていない手前にも、同様の換気口があると考えられます。
換気口は、一方が外気を取り入れる口で、もう一方が排気用の口になります。
災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください。
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２ 二酸化炭素濃度の測定
集会室、研修室、視聴覚室、和室など、空調の形態に多少の違いがあっても、機械的な換気がされていると考えていいと思います。
まず、機械的な換気が正常にされているかは、各部屋の空調のスイッチ、コントロールパネルのスイッチが入っているかを見て、確認しましょう。
以前、新型コロナウイルス感染症の感染拡大でクラスターが発生したとき、空調機の老朽化や維持管理不足で建物内の十分な換気ができなかったことが一因として指摘されました。
換気が十分かは、二酸化炭素濃度の測定によって確認します。
（１）空気環境の基準
二つの基準があります。
①建築物衛生法（建築物における衛生的環境の確保に関する法律）
・温度 18～28 ℃
・湿度 40～70 ％
・二酸化炭素濃度 1,000 ppm 以下
・一酸化炭素濃度 6 ppm 以下
・浮遊粉じん量 0.15 mg/L 以下
②学校環境衛生基準
・温度 18～28 ℃ 望ましい
・湿度 30～80 ％ 望ましい
・二酸化炭素濃度 1,500 ppm 以下 望ましい
・一酸化炭素濃度 6 ppm 以下
・浮遊粉じん量 0.10 mg/L 以下
建築物衛生法の対象の、床面積3,000ｍ3の事務所・店舗などのビルは、空調設備・換気設備をもつ施設がほとんどです。
基本的に、機械的な調整によって、空気環境が保たれています。
一方、学校環境衛生基準は、窓開けの自然換気による教室も対象になっています。
したがって、建築物衛生法と比べて、幅が広い基準値があります。
※避難所では、厳密な空気環境基準はありません。
（２）二酸化炭素濃度の目安
冷えを防止するため、部屋を暖かくするのを優先するならば、1,500 ppm 以下を目安にするといいでしょう。
ちなみに、外気の二酸化炭素濃度は、410～440 ppm です。
（３）測定方法
床面から高さ75～150ｃｍで測定します。
椅子に腰かけたときの顔の高さくらいになります。
（４）二酸化炭素濃度測定器の常設
新型コロナウイルス感染症の感染拡大のとき、飲食店などに置かれた、簡易二酸化炭素濃度測定器を置くといいでしょう。
別ページに、二酸化炭素濃度測定器の写真があります。
置く高さは、 床上 75～150 ｃｍがいいでしょう。
最低、1日2回、午前10時と午後2時に測定をして、記録をします。
夜の状況として、午後8時頃に測定してもいいでしょう。
３ 換気と飛沫感染対策
（１）換気
機械換気とともに、換気に力を入れるとすれば、1日3回の窓開け換気が目安になります。
東日本大震災被災地の避難所のひとつでは、朝食後、昼食後、夕方の3回、空気の入れ換えをしていました。
空気の入れ換えは、食事のニオイがこもった空気を外へ出す目的もありました。
窓開け換気は、対面の二方向の窓を開けて空気を入れ換えると、効果が高くなります。
※換気扇を使う二方向の換気方法は、開いた窓から換気扇に向かって、空気の流れが線になる可能性があります。
したがって、空気が淀む場所ができる可能性があります。
空気が淀む箇所には、空気清浄機を置くといいでしょう。
基本的に、窓開け換気がいいと思います。
学校の教室や公民館の和室など、比較的小さな空間では、冬に室内と外との温度差が15℃以上あるときは、空気が入れ換わりやすくなります。
対面の二方向の窓を50～100cm程度あけて、1～2分間、換気をすると、空気が大きく入れ換わります。
室内と外との温度差が15～20℃以上あるときは、1カ所の窓を開けるだけでも、室内の空気は入れ換わってくれます。
また、小さな空間であれば、廊下側の入り口扉の開閉があるだけで、室内の二酸化炭素濃度は下がります。
朝、生活者のみなさんがトイレへ行く時間帯は、扉の開閉があり、それだけで空気が入れ換わり、換気ができている可能性があります。
（２）飛沫感染対策
①段ボールベッド・パーティションを使う
段ボールベッドの利点は、次のとおりです。
・床面から舞いあがる埃を吸い込みにくくなります。
埃に含まれる可能性のあるインフルエンザウイルス、新型コロナウイルスなどの吸い込みを防ぎます。
・床面からの冷えを伝わりにくくできます。
床面からの距離と、段ボールの保温性で、冷えの防止につながります。
パーティションは、複数のメリットがあります。
・飛沫感染予防ができる。
・プライバシーの空間をつくることができる。
・保温効果がある。
2020年、新型コロナウイルス感染症の感染拡大時には、避難所・避難生活学会が飛沫感染予防に高さ140～150cm のパーティションを推奨しました。
段ボールベッドに座って咳をしたとき、飛沫が外に拡散するのを防ぐ高さです。
②食事スペースの工夫
今回、ニュース映像には、寝るスペースとは別に、食事用のテーブル席がありました。
・椅子を対面に置かない
食事のとき、正面で飛沫を受けないように、お互いが斜め前に座るように椅子を配置します。
・円卓を使う、テーブルをロの字型にする
正面で飛沫を受けないことが目的です。
以前、サッカーのワールドカップのとき、日本チームは飛沫感染防止のため、円卓で食事をとったと聞きました。
・補助的に空気清浄機を使う
近い距離で使えば、ウイルス除去に有効と考えられます。
なお、消毒用エタノールを多量に使用して空気中に残存していると、エタノールの影響で、空気清浄機のフィルター除去性能が低下することがあります。
避難所でインフルエンザの感染拡大が深刻なときは、パーティションや黙食の徹底も考えられます。しかし、心的ストレスの可能性があり、慎重に考えたほうがいいかもしれません。
③ゾーニング
能登半島地震被災地の避難所のなかには、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染拡大に伴い、隔離スペースをつくり、ゾーニングをしたところがありました。
ゾーニングは、施設の空きスペースの状況や、インフルエンザの感染拡大状況にもよると思われます。
４ 環監の視点（空気環境の実態を把握する）
前回の【大規模火災】避難所の空気環境とインフルエンザ対策について・その１でふれたように、まず避難所の各部屋の空気環境の実態を把握することが大切です。
空気環境は、空調設備の故障・不調や維持管理不足などで、換気が十分におこなわれていないケースがあります。
空調設備が整ったビルで、私が保健所・環境衛生監視員として立入検査をしたとき、換気不足で室内の二酸化炭素濃度が基準値を超えているのを発見しました。
原因は、二酸化炭素濃度を検知するセンサーが故障していたことでした。
立派な空調設備があったとしても、過信は禁物だと思ったのです。
空気環境の測定をして、現状を確認することが必要だと思います。
そのうえで、換気と飛沫感染対策に着目して、具体的な対応を実行してみる手順になると考えます。
避難所が解消されるまで、もう少し期間があるかもしれません。
生活者のかたの健康がまもられるように願っています。
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【活動実績】
（本・図書・出版物）
・2025年、介護保険専門紙『シルバー新報』（環境新聞社）で「介護現場のBCP 災害時の知識」を連載中です。
・2025年、月刊誌『クリンネス』（イカリホールディングス株式会社）で「衛生視点で感染症・災害時のBCPを考える」を連載中です。
・2022年、本『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修（一般財団法人日本環境衛生センター）を出版しました。
・2021年、専門誌『生活と環境』（一般財団法人日本環境衛生センター）で「災害時の居住環境 ～保健所・環境衛生監視員の視点から～」を連載しました。
・2020年、『災害時の保健活動推進マニュアル』（日本公衆衛生協会・全国保健師長会、令和2年3月）で「生活環境衛生対策」（避難所の環境衛生管理アセスメント）を分担執筆しました。
（活動）
被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
・2024年、能登半島地震（石川県、珠洲市、七尾市）
奥能登豪雨（石川県、珠洲市）
・2019年、令和元年台風19号（長野市、いわき市）
・2018年、西日本豪雨（倉敷市）
・2016年、熊本地震（熊本市）
・2011年、東日本大震災（気仙沼市）
（調査活動）
・1995年、阪神・淡路大震災
（講師）
・2025年、神奈川県公衆衛生協会平塚支部講演会「災害時の公衆衛生活動、～災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策、保健所・環境衛生監視員の視点から～」
・2025年、豊田市役所研修「災害時の避難所等における衛生対策に関する研修」
・2025年、豊橋市保健所研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ～避難生活で健康を守るポイント～」
・2025年、日本災害食学会・災害食専門員研修会「災害時の水の安全・衛生」
・2024年、神奈川県公衆衛生学会「シンポジウム・避難所における健康危機管理」
・2024年、宮城県気仙沼圏域研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ～保健所・環境衛生監視員の視点から～」
･2024年、宮城県登米地域災害対応研修「災害時における環境衛生対策」
・2024年、愛知県看護協会・研修会「災害時の生活環境衛生対策の課題と実際」
・2024年、福井県嶺南地域保健・福祉・環境関係職員研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ～保健所・環境衛生監視員の視点から～」
・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ～保健所・環境衛生監視員の視点から～」
・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」
・2023年、令和5年度 兵庫県･北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会「災害時の避難所の衛生、感染症対策」
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会・特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修「災害時の公衆衛生活動」（オンライン）
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」（主に保健師対象）「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」
（学会）
・2025年、第30回日本災害医学会総会・学術集会「サーモグラフィ画像を活用した避難所の環境衛生管理」
・2025年、第52回建築物環境衛生管理全国大会「能登半島地震被災地の公衆衛生活動者を支援するためのＩＴ活用の成果」
・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会（オンライン開催）「令和元年東日本台風（台風19号）被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、第48回建築物環境衛生管理全国大会（オンライン開催）「令和元年東日本台風（台風19号）被災地の避難所の施設・空気環境の実態」奨励賞受賞
・2020年、第79回日本公衆衛生学会総会（オンライン開催） 「令和元年台風19号被災地の避難所における空気環境等の実態」
・2012年、第39回建築物環境衛生管理全国大会「東日本大震災被災地の避難所の施設・空気環境の実態」最優秀賞受賞
