【注意】冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その13)

【保健師活動】感染症予防のための避難所の換気
①2時間に1回以上の窓開け
②温湿度計の設置
③二酸化炭素測定器の設置

感染症予防のための避難所の換気(チラシ版)

上の画像をクリックすると、pdfが開き、印刷可能です。ご活用ください。

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避難所の温湿度計(2019年、令和元年台風19号被災地の避難所)

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。

次のとおり、【保健師活動】感染症予防のための避難所の換気について、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。

全国保健師長会に情報提供しています。

ご活用ください。

(空気環境の基準)

二つの基準があります。

①建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)

・温度      18~28 ℃
・湿度      40~70 %
・二酸化炭素濃度 1,000 ppm 以下
・一酸化炭素濃度   6 ppm 以下
・浮遊粉じん量   0.15 mg/L 以下

②学校環境衛生基準

・温度      18~28 ℃ 望ましい
・湿度      30~80 % 望ましい
・二酸化炭素濃度 1,500 ppm 以下 望ましい
・一酸化炭素濃度   6 ppm 以下
・浮遊粉じん量   0.10 mg/L 以下

建築物衛生法の対象の、床面積3,000m3の事務所・店舗などのビルは、空調設備・換気設備をもつ施設がほとんどです。

基本的に、機械的な調整によって、空気環境が保たれています。

一方、学校環境衛生基準は、窓開けの自然換気による教室も対象になっています。

したがって、建築物衛生法と比べて、幅が広い基準値があります。

※避難所では、厳密な空気環境基準はありません。

二つの、建築物衛生法及び学校環境衛生基準を参考にしながら、目安にしていくのがいいでしょう。

避難所でいちばん大切なのは、生活者の皆さんの命・健康をまもることです。

そのための避難所の衛生対策の優先順位があると思います。

たとえば、避難所で低体温症予防を優先するときは、開放型燃焼器具の石油ストーブの常時使用が欠かせないでしょう。

目安となる二酸化炭素濃度を超えていても、あえて積極的に窓を開けないことが選択肢のひとつになります。

実践的な換気をご説明します。

1 2時間に1回以上の窓開け

目安は、2時間に1回の窓開け換気です。

対面の二方向の窓開けによる空気の入れ換えが、効果が高くなります。

※換気扇を使う二方向の換気方法は、開いた窓から換気扇に向かって、空気の流れが線になる可能性があります。

したがって、空気が淀む場所ができる可能性があります。

基本的に、窓開け換気がいいでしょう。

学校の教室や公民館の和室など、比較的小さな空間では、冬に室内と外との温度差が15℃以上あるときは、空気が入れ換わりやすくなります。

対面の二方向の窓を50~100cm程度あけて、1~2分間、換気をすると、空気が大きく入れ換わります。

室内と外との温度差が15~20℃以上あるときは、1カ所の窓を開けるだけでも、室内の空気は入れ換わってっくれます。

また、学校の体育館や教室であれば、廊下側の入り口扉の開閉があるだけで、室内の二酸化炭素濃度は下がります。

朝、生活者のみなさんがトイレへ行く時間帯は、扉の開閉があり、それだけで空気が入れ換わり、換気ができている可能性があります。

冬に扉1カ所のみの換気で、どのくらいの空気が動くかを実験したことがありますので、こちらの動画でご覧いただけます。

扉1カ所のみの自然換気の実効性(1分38秒)
2 温湿度計の設置

避難所の運営者や生活者のかたが、避難所の空気環境の状況を知るため、温湿度計の設置が大切です。

温湿度計の位置は、見やすさを考えて、床面から120~150cm程度が望ましいと思います。

避難所の温湿度計(2019年、令和元年台風19号被災地の避難所)

この高さは、建築物衛生法に基づく保健所の空気環境測定で、温度や湿度、二酸化炭素濃度などを測定する高さ75~150cmを参考にしたものです。

ちなみに、高さ75~150cmは、人が椅子に座ったときの、おおよそ顔の高さに相当します。

換気をして、一時的に冷たい空気が入ってきても、暖房時には室内の壁や天井が温まっているので、1℃前後しか室内温度は下がりません。

次の数値は、東京都の「健康・快適居住環境の指針」を参考にしています。

冬の暖房時の室温の目安は、18~22℃です。

冬の暖房時の室内湿度の目安は、40~50%です。

冬は、暖房した温かい空気が部屋の上のほうにいきやすく、床面の冷えを足元に感じることがあります。

複数の温湿度計があれば、床上20cmくらいの箇所に1台を設置して、足元の温度を確認するといいでしょう。

※ベッド使用ではなく、床面に断熱材や畳を敷き、その上に寝具を置いている場合、温湿度計は、床上20cmくらいの箇所にも設置しましょう。

3 二酸化炭素測定器の設置

新型コロナのとき飲食店などに置かれた、簡易二酸化炭素濃度測定器を置くといいでしょう。

置く高さは、床上75~150cmがいいでしょう。

開放型の石油ストーブを常時使用のとき、低体温症の予防を最優先にする場合、二酸化炭素濃度2,500~3,000ppm以上になったときが、換気のタイミングになると思います。

二酸化炭素測定器(イメージ写真)
二酸化炭素測定器(イメージ写真)

『災害時・避難所の衛生対策のてびき』中臣昌広著(一般財団法人日本環境衛生センター)をご監修いただいた、寒冷地防災が専門の日本赤十字北海道看護大学の根本昌宏教授のご意見を参考にしました。

また、この数値は、一戸建ての室内で石油ストーブ1台使用時の二酸化炭素濃度を測定した値を参考にしたものです。

測定の際に測定器は、石油ストーブから1.5m離して置きました。

石油ストーブに点火すると、約20分後に二酸化炭素濃度は1,500ppmを超えました。

学校環境衛生基準の1,500ppm以下を上回る数値です。

基準といわれる数値は、すぐに超えてしまいます。

ちなみに、外気の二酸化炭素濃度は、410~440ppmです。

2,500ppmを超えたのは、約1時間30分後でした。

測定グラフは、次のとおりです。

戸建て部屋の石油ストーブ使用時の二酸化炭素濃度推移(2月)

参考までに、理髪店内で開放型のガスファンヒーターを使用したときの測定では、朝の暖房開始から約1時間30分後に、3,000ppmを超えました。

冬季の理髪店のガスファンヒーター使用時の二酸化炭素濃度の推移
(2022年 第49回建築物環境衛生管理全国大会 発表より)

ガスファンヒーターは燃焼効率がいいので、比較的に短い時間で数値が高くなったことが考えられます。

学校の教室や公民館の和室など、比較的小さな空間で石油ストーブを複数台使用すると、同じように、上昇がみられる可能性があります。

数値は、扉の開閉により、下がることがあります。

推定として、2,500~3,000ppm以上になるのは、約1時間30分~2時間かもしれません。

体育館では、天井が高く、室内の容積が大きいので、比較的に濃度が低くなるでしょう。

したがって、保健所・環境衛生監視員の視点から、低体温症予防を優先する石油ストーブ使用時であれば、2,500~3,000ppm以上となったときが換気実施のタイミングだと思います。

そのときは、2時間前であっても、換気すると安心です。

ただし、目安となる二酸化炭素濃度を超えていても、状況を踏まえて、低体温症予防を優先し、あえて積極的に窓を開けないことが選択肢のひとつになることがあります。

基本的には、最低2時間に1回の換気が目安になると考えられます。

※開放型石油ストーブの測定では、不完全燃焼の一酸化炭素が微量に検出されました。1~2ppm程度の濃度がありました。建築物衛生法の空気環境基準以下の値です。

※石油ストーブの部品・装置の劣化により、不完全燃焼による一酸化炭素の放出が多くなる可能性があります。製造20年以上は要注意です。

※ 避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。

チェックリスト一覧表

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【実績】

・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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