【環監・保健師向け】レジオネラ・配管洗浄②各工程の水質評価
【環監の視点】
各工程ごとに水温、残留塩素、pH値、ATP値について測定し、水質評価して配管洗浄の効果があるかを示すことは、現場での指導・助言に説得力が生まれます。

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2025(令和7)年4月下旬、都内の公衆浴場施設を会場に、「レジオネラ症対策・配管洗浄見学講座」(主催:オフィス環監未来塾)を開催しました。
中核市保健所の環境衛生監視員1名のかたが参加されました。
参加者の声をご紹介します。
「配管洗浄の現場を見る機会は普段ないので、現場の作業手順を見て学べる良い体験となった」
「配管洗浄の現場を見ることで、自信をもって公衆浴場の営業者にアドバイスできる」
配管洗浄について解説します。
今回は、工程ごとに水温、残留塩素、pH値、ATP値について測定し、水質評価して配管洗浄の効果があるかを確認していきます。
【配管洗浄の作業工程と水質データ】
今回の配管洗浄講座での作業は、過炭酸ナトリウムを使いました。
洗浄したのは、地下水を沸かし循環ろ過する白湯の系統です。
洗浄、すすぎ1回目、すすぎ2回目のそれぞれの終了後に排水して、新鮮な湯・水を浴槽に補給しました。
洗浄工程と水質データは、次のとおりです。
① 洗浄剤による洗浄工程
◎洗浄剤投入前の浴槽水の水質
温度 38.5℃
残塩 0 mg/L(残塩:消毒に有効な遊離残留塩素濃度)
pH値 8.27(酸性、アルカリ性の数値、中性は7付近)
ATP値 118 RLU
浴槽水の温度は、反応が進みやすい35~40℃の範囲にあります。
前日の残り湯を利用したので、時間の経過で消毒用の塩素がなくなり、残塩がゼロになっています。
ATP値は、汚れの度合いをみるときの数値です。高いほど、汚れがあることになります。
ちなみに、清浄な水道水や地下水は、5~20 RLUの値です。
測定値が高いのは、前日の残り湯のためです。
pHがアルカリ性に傾いているのは、原水の地下水の水質に近い値だと考えられます。
◎洗浄剤投入後の浴槽水の水質

pH値 10.51
ATP値 44 RLU(汚れの泡:521 RLU)
pH値が高くなったのは、洗浄剤の過炭酸ナトリウムが水に溶けて、過酸化水素と炭酸ナトリウムに変化したためです。
ATP値が低くなったのは、浴槽水の汚れが分解されていると考えられます。
ちなみに、茶色の汚れの泡を測ると、高い数値でした。
② すすぎ1回目
◎すすぎ開始前の浴槽水の水質
浴槽に、地下水をいれました。
温度 20.5℃
残塩 0 mg/L
pH値 9.66
ATP値 52 RLU
pH値、ATP値は、浴槽・配管中に残留した洗浄剤の影響があると思われます。
◎すすぎ中の浴槽水の水質

pH値 9.60
ATP値 62 RLU
すすぎ工程で循環装置を稼働させると、配管中に残った過炭酸ナトリウム分解物と汚れが浴槽に出てきたため、pH値がアルカリ側になり、ATP値がやや高くなっています。
③ すすぎ2回目
◎すすぎ2回目開始前の浴槽水の水質
温度 18.5℃
残塩 0 mg/L
pH値 8.23
ATP値 12 RLU
ATP値が低めなのは、浴槽に地下水をためた状態で、循環装置をまだ稼働していないためです。
◎すすぎ2回目中の浴槽水の水質

pH値 8.42
ATP値 33 RLU
pH値、ATP値は、すすぎ1回目より低くなり、配管中の洗浄剤残留物や汚れが排出されたと思われました。
④ すすぎ3回目
◎すすぎ3回目開始前の浴槽水の水質
温度 27.0℃
残塩 0 mg/L
pH値 8.02
ATP値 16 RLU
ATP値が低いのは、浴槽に湯と水をためた状態で、循環装置をまだ稼働していないためです。
◎すすぎ3回目中の浴槽水の水質
pH値 8.16
ATP値 34 RLU
pH値は、すすぎ2回目中の数値より低くなり、配管中の洗浄剤残留物や汚れが、より排出され、清浄度が上がったと考えました。
⑤ 殺菌作業
浴槽水に次亜塩素酸ナトリウムを加えて、10mg/L程度の濃度にして、浴槽の水が1回転する約15分間、循環ろ過、気泡発生装置を稼働させました。
◎殺菌中の浴槽水の水質

残塩 5 mg/L
pH値 8.21
ATP値 7 RLU
すすぎ3回目中よりATP値が低くなり、汚れが分解されて清浄度が上がったと考えました。
⑥ 水質検査
排水後、湯と地下水、水道水をため、塩素濃度 0.2 mg/L程度の状態にして、約15分間、循環ろ過を行いました。
そのあと、依頼した検査機関が水質検査用の採水をしました。
◎採水時の浴槽水の水質
温度 39.0℃
残塩 0.2 mg/L
pH値 7.66
ATP値 5 RLU
さらにATP値が低くなり、殺菌が進み、汚れが分解されて清浄度が上がったと考えました。
【環監の視点】
各工程ごとに水温、残留塩素、pH値、ATP値について測定し、水質評価して配管洗浄の効果があるかを示すことは、現場での指導・助言に説得力が生まれます。
洗浄剤で発泡した洗浄作業中に、浴槽水面には、鉄サビ、生物膜(バイオフィルム)、配管の汚れなどが混ざる茶色の浮遊物がありました。
その光景を見た店主は、
「1年前より汚れがあるなあ。お客さんが増えたせいかもしれない」
と話していました。
人の脂が、配管中の汚れとなるので、利用者の増加があれば、配管の汚れが増えると言うことができるでしょう。
配管洗浄は、汚れを取るという作業の効果を視覚的に感じることができる場です。
最終的な水質検査時の浴槽水を見ると、透明度が増して配管洗浄の効果を実感することができました。
環監の皆様も、現場で一度、確認することで配管洗浄の効果を実感することができると思います。
【講座での解説】
オフィス環監未来塾の【実践型】レジオネラ症対策・配管洗浄見学講座では、解説を聞き、工程、洗浄効果を学ぶことができます。
【レジオネラ症対策を学ぶ連続講座】では、配管洗浄の作業工程の動画を見ながら、解説を詳しく聞くことができます。
ご活用ください。
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月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【実績】
(書籍・図書)
・2024年、専門誌『設備と管理』(オーム社)に「冷却塔の清掃方法とレジオネラ症 保健所・環境衛生監視員の視点から」を執筆しました。
・2023年、専門誌『設備と管理』(オーム社)に「老舗旅館の大浴場、湯の入れ換えが年2回 レジオネラ症対策を再考する」を執筆しました。
・2015年、専門誌『生活と環境』(一般財団法人日本環境衛生センター)に「公衆浴場・温泉・旅館業・スポーツ施設・介護保険施設のための 続・よくわかるレジオネラ症対策」を連載しました。
・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
(活動)
・2024年、厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「公衆浴場の衛生管理の推進のための研究」の研究協力者として活動しました。
・2024年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」改定検討の研究協力者として、元神奈川県衛生研究所・黒木俊郎先生らと共に活動しました。
・2022年、「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になりました。
・2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。
①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)
(講師)
・2025年、石川県南加賀保健所、入浴施設衛生管理研修会「公衆浴場、旅館、ホテル等入浴施設のレジオネラ症対策」
・2025年、鹿児島市保健所、レジオネラ症感染防止研修会「入浴施設におけるレジオネラ症感染防止対策」
・2025年、港区みなと保健所、衛生講習会「レジオネラ症対策について」
・2024年、大分県 レジオネラ症発生防止対策研修会「入浴施設のレジオネラ症発生防止対策について」
・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」
・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」
(学会)
・2024年、第83回日本公衆衛生学会総会で、「レジオネラ症対策現場研修会の公衆衛生人材育成の成果」を発表しました。
・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会で、「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」を発表しました。
・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会(オンライン開催)で、「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」を発表しました。
・2012年、第56回生活と環境全国大会で、「文京区における公衆浴場等シャワー水のレジオネラ症発生防止対策の成果」を発表し、最優秀賞を受賞しました。