【注意】避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その27)

【保健師活動】避難所・避難生活のハエ・蚊対策
①ハエ:蓋付ごみ箱・ハエ取りリボン
②蚊 :水たまり無くす・網戸カーテン
③侵入防止の物理的対処を優先

避難所・避難生活のハエ・蚊対策

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ハエを入れないための蓋付ごみ容器(2024年、能登半島地震被災地)

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。

次のとおり、【保健師活動】避難所・避難生活のハエ・蚊対策について、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。

全国保健師長会に情報提供しています。

ご活用ください。

5月なかばに私は、能登半島地震被災地を訪れました。

仮設住宅の建設が進むなか、避難所から仮設住宅へ移る生活者のかたがいらっしゃいます。

その一方、避難所で過ごす生活者のかたが、5月21日時点で石川県では約1,800人となっています。

季節が梅雨、夏に向かう時期で、気温が28℃に上がりました。

避難所の生活スペースで、ハエや蚊が飛んでいるのを見ました。

今回は、避難所でのハエ・蚊の対策を考えてみたいと思います。

【ハエ類と感染症】

平成10年に、ハエ類が食中毒菌の腸管出血性大腸菌(O157)を保有しているか調査されました。

全国で、牛舎、豚舎、養鶏場、ごみ置き場、公園など、217地点で調べられ、約7%の地点で保有バエが確認されました。

イエバエは、O157の保有が確認されたケースがあり、家畜等の排泄物から発生し、人家へ容易に浸入してヒトの食べ物によく集まる習性があります。

国立感染症の資料では、衛生管理のわるい畜産関連施設からは、一般にイエバエ等の大量発生が起こりやすく、ハエの発生密度が高い条件下では、発生地点から容易に飛翔・分散拡大して病原体の広域運搬に荷担するリスクが高くなるとされています。

国から、食品関係施設などにハエ等の衛生動物対策の再徹底が通知されています。

避難所では、侵入防止対策が大切になります。

【蚊と感染症】

蚊の媒介感染症には、ウイルス疾患のデング熱、ジカウイルス感染症、日本脳炎などがあります。

2014年8月以降に、東京都内の公園関連で感染したデング熱患者100人超の報告がありました。

ヒトスジシマカに刺されてから3~7日程度で高熱のほか、発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐などの症状がみられると、デング熱の可能性があります。

通常、発症後2~7日で解熱し、発疹が解熱時期に出現します。

まれに重症化して、細かい点状出血がみられるデング熱出血熱や、ショック症状を示すデングショック症候群を発症することがあり、早期の適切な治療が必要です。

避難所では、刺されないよう肌を露出させないことや、水たまりを無くす発生源対策、侵入防止対策が大切になります。

デング熱の蚊対策が必要になったときは、地元の保健所・環境衛生監視員に相談しましょう。

1 ハエ:蓋付ごみ箱・ハエ取りリボン

生ごみや一般ごみの容器に蓋をしましょう。

ハエ取りリボンを入り口天井に下げて、物理的に取りましょう。

蓋をつけた生ごみ容器(2024年、能登半島地震被災地)
ハエ取りリボンの取り付け(2016年、熊本地震被災地)

イエバエが、避難所内の食べ物につかないように、生ごみ容器、一般ごみ容器に常時、蓋をすることが大切です。

一般ごみ容器には、食べ物の包装物が捨てられることがありますので、ハエが寄ってくる可能性があります。

2016年の熊本地震被災地の避難所では、近くに牛舎があったことから、ハエが大量に来ました。

玄関内側の天井につけた複数のハエ取りリボンに、飛来して接着したハエが相当量ついているのを見ました。

2 蚊:水たまり無くす・網戸カーテン

発生源対策で、避難所まわりの水たまりを無くしましょう。

侵入防止に、網戸・網戸カーテンが有効です。

水たまりをつくる空き缶(蚊の発生源の可能性)
網戸カーテン(2016年、熊本地震被災地)

10日~2週間に1回、避難所まわりを点検して、雨が降ったあとに蚊の産卵場所の水たまりができる、空き缶、空き瓶、ビニール袋を回収します。

植木鉢の受け皿は、水たまりができやすい箇所ですので、受け皿をなくすか、点検のときに水を捨てましょう。

学校砂場、遊び場などにある古タイヤは、内側に空間があって、雨水がたまり、蚊の発生源になる可能性があります。

遊び場の古タイヤ(蚊の発生源の可能性)

古タイヤの撤去が望ましいと考えます。

2016年熊本地震被災地の避難所では、出入り口に網戸カーテンが下げられ、蚊の侵入を抑えていました。

3 侵入防止の物理的対処を優先

集団生活でのハエ・蚊対策は、生活スペースへの侵入防止の物理的対処を優先するのがいいでしょう。

集団生活では、化学物質過敏症のかたがいっしょに生活している可能性があります。

化学物質過敏症のかたは、殺虫剤・蚊取り線香、虫よけプレートなど殺虫成分により、目や鼻、喉の粘膜への刺激、呼吸困難など症状が出るかもしれません。

集団生活での殺虫剤・蚊取り線香・虫よけプレートなどの使用は、慎重に検討しましょう。

どうしても使用する状況の場合、まわりに告知をしたあと、窓を開けて、一時的、局所的に最小限の使用にするのが望ましいでしょう。

 避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。

チェックリスト一覧表

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【実績】

・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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