【注意】冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その14)

【保健師活動】石油ストーブと一酸化炭素の注意点
①6 ppm超で使用見合わせを
②製造20年以上は要注意
③天井の低い部屋を優先チェック

石油ストーブと一酸化炭素の注意点(チラシ版)

上の画像をクリックすると、pdfが開き、印刷可能です。ご活用ください。

※被災地に保健師チーム・公衆衛生チーム派遣の自治体の皆様へ
ビル衛生検査等の室内空気環境の測定を日常業務とする保健所・環境衛生監視員の同行を強く推奨いたします。

能登半島地震関連の避難所・避難生活の衛生対策に関する情報を継続して発信しています。新しい発信は、お知らせメールやX(旧Twitter:@office_kankan)でご案内していますので、ご希望の方はこちらからお知らせ登録ください。

石油ストーブ使用(2011年、東日本大震災被災地の避難所)

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。

次のとおり、【保健師活動】石油ストーブと一酸化炭素の注意点について、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。

全国保健師長会に情報提供しています。

ご活用ください。

(空気環境の基準)

二つの基準があります。

①建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)

・温度      18~28 ℃
・湿度      40~70 %
・二酸化炭素濃度 1,000 ppm 以下
・一酸化炭素濃度   6 ppm 以下
・浮遊粉じん量   0.15 mg/L 以下

②学校環境衛生基準

・温度      18~28 ℃ 望ましい
・湿度      30~80 % 望ましい
・二酸化炭素濃度 1,500 ppm 以下 望ましい
・一酸化炭素濃度   6 ppm 以下
・浮遊粉じん量   0.10 mg/L 以下

建築物衛生法の対象の、床面積3,000m3の事務所・店舗などのビルは、空調設備・換気設備をもつ施設がほとんどです。

基本的に、機械的な調整によって、空気環境が保たれています。

一方、学校環境衛生基準は、窓開けの自然換気による教室も対象になっています。

したがって、建築物衛生法と比べて、幅が広い基準値があります。

※避難所では、厳密な空気環境基準はありません。

1 6 ppm超で使用見合わせを

石油ストーブ・石油ファンヒーターから1.5m程度、離れた場所で測定して、一酸化炭素濃度が「6ppm超」の数値になった場合、すぐに使用を見合わせましょう。

空気環境の測定(2019年、令和元年台風19号被災地の避難所)
一酸化炭素・二酸化炭素測定器(ビル衛生検査用、UM-400 光明理化学工業株式会社製)
ビル衛生検査の器材(イメージ写真)


一酸化炭素濃度は、建築物衛生法に基づくビル衛生検査に使われる精密測定器、あるいは簡易な手動式の検知管測定器の二つにより測定ができます。

ビル衛生検査に使われる測定器での測定が、精度の点で望ましいと思います。

測定器を有している自治体(保健所)が多くあります。

建築物衛生法に基づくビル衛生検査の空気環境測定は、保健所・環境衛生監視員の日常業務です。

保健師の皆様から、保健所・環境衛生監視員に測定器の活用など積極的に相談してください。

※被災地に保健師チーム・公衆衛生チーム派遣の自治体の皆様へ
ビル衛生検査等の室内空気環境の測定を日常業務とする保健所・環境衛生監視員の同行を強く推奨いたします。

一酸化炭素の測定、保健所・環境衛生監視員についてのご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

(石油ストーブの一酸化炭素放出の一例)

2024年2月に、戸建て室内で開放型石油ストーブ1台使用時の一酸化炭素濃度の測定実験をしました。

測定の際に測定器は、石油ストーブから1.5m離して置きました。

石油ストーブを使用していないときの一酸化炭素濃度は、0.1~0.3ppm でした。

石油ストーブ使用時は、不完全燃焼の一酸化炭素が微量に検出されました。1.1~2.7ppmの値でした。建築物衛生法の空気環境基準以下の値です。

部品・装置の劣化により、不完全燃焼が顕著になると一酸化炭素の放出が多量になり、濃度が急上昇する可能性があります。

建築物衛生法の空気環境基準6ppm以下を超え、6ppm超になったときが使用見合わせの目安になると思います。

(一酸化炭素の性質と危険性)

無色・無臭の気体です。

空気より軽いので、室内で発生すると上部からたまります。

命にかかわるのは開放型石油ストーブ・石油ファンヒーターなど燃焼器具の不完全燃焼による一酸化炭素濃度の上昇です。

装置・部品等の劣化で不完全燃焼が進行すると、急激に濃度が高まる可能性があります。

一酸化炭素のヘモグロビンとの親和性は、酸素の約200倍といわれています。

一酸化炭素が肺に取りこまれると、ヘモグロビンと結合するため、酸素が体内に行きわたらない状態になります。

いわゆる内窒息と呼ばれる状態となり、死に至る場合があります。

(一酸化炭素中毒の症状)

東京消防庁ホームページ「煙の特性について」を参考にしました。

200~300ppm   5~6時間で頭痛、耳鳴りがする。

300~600ppm   4~5時間で激しい頭痛、吐き気がし、皮膚がピンク入りになる。

700~1,000ppm  3~4時間で呼吸数が多くなり、やがて意識がもうろうとなる。

1,100~1,500ppm 1.5~3時間で呼吸がおかしくなり、けいれんを起こし、意識を失う。

1,600~3,000ppm 1~1.5時間で呼吸が弱くなり、血圧が低下し、ときに死亡する。

5,000~10,000ppm 1~2分で刺激に対する反応が低下し、呼吸ができなくなり、死亡する。

2 製造20年以上は要注意

購入20年以上の石油ストーブ・石油ファンヒーターの使用は要注意です。

命をまもるため、20年以上経過するような石油ストーブ、石油ファンヒーターは、使用を見合わせて、新品と交換するか、専門業者に点検・整備をしてもらうことが大切です。

石油ストーブ使用(2011年、東日本大震災被災地の避難所)
石油ファンヒーター製品の横に貼られたシールの製造年表示(2019年、令和元年台風19号被災地の避難所)

石油ストーブ・石油ファンヒーターの製品の横のシールに、製造年が表示されています。

部品・装置の劣化により、不完全燃焼による一酸化炭素の放出が多くなる可能性があります。製造20年以上は要注意です。

現在でしたら、2004年以前のものは、要注意です。

倉庫や物置から、使い古して廃棄していない石油ストーブ・石油ファンヒーターを持ち出して使っているときは、要注意です。

使用継続希望の場合、測定により、安全を確認することが大切です。

2019年10月に、私は、令和元年台風19号被災地の自治体に協力し、避難所の衛生対策活動をしていました。

避難所の一つで、測定器を使い空気環境を調べると、和室に置かれた石油ファンヒーターの付近で通常より高い一酸化炭素濃度を検出し、不完全燃焼と考えました。

石油ファンヒーターは、製造から20年が経つものでした。装置や部品などの劣化による不完全燃焼で、一酸化炭素が発生していると考えたのです。

現場ですぐに避難所管理者へ助言し、新品と交換してもらいました。

なお、そのときの記録を、2020年の日本公衆衛生学会でタイトル「令和元年台風19号被災地の避難所における空気環境等の実態」として、次のとおり報告しました。

公衆衛生学会の発表ポスター

3 天井の低い部屋を優先チェック

一酸化炭素のチェックは、天井の低い、たとえば、公民館や自主避難所などの小規模施設から巡回しましょう。

天井が低い、容積の比較的小さな空間は、不完全燃焼が発生すると、短時間で濃度が急上昇してしまう可能性があります。

小さい空間での不完全燃焼ほど、リスクが高いといえます。

巡回の家庭訪問でも、製造20年以上の石油ストーブを使用しているケースでは、測定して安全を確認するといいでしょう。

在宅避難では、地震の影響で、家屋の一部にすき間ができて、通気性がよくなっているために、一酸化炭素が発生していても、健康被害に至っていないケースがあるかもしれません。

家屋の補修がされて、気密性が高まったとき、不完全燃焼があると、危険性が高まる可能性があります。

以前に、天井が4m以上の公衆浴場の脱衣場と、家庭の部屋の大きさと変わりない理髪店とを、比較で冬季の二酸化炭素測定をしたことがあります(下図)。

天井が比較的に低い理髪店は、暖房のガスファンヒーターの影響で、約1時間30分で、二酸化炭素濃度が3,000ppmを超えました。

一方、天井が高い公衆浴場の脱衣場は、10人程度いる状況でも、二酸化炭素が高くなるようなことはありませんでした。

天井が低いほど、二酸化炭素や一酸化炭素の発生があれば、濃度が高くなりやすい傾向にあるといえます。

冬季の公衆浴場脱衣場の二酸化炭素濃度の推移
(折れ線グラフが二酸化炭素濃度、700ppm以下の低い値で推移、2022年 第49回建築物環境衛生管理全国大会 発表より)
冬季の理髪店内の二酸化炭素濃度の推移
(実線折れ線グラフが二酸化炭素濃度、瞬間的に3,000ppm超、2022年 第49回建築物環境衛生管理全国大会 発表より)

※ 避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。

チェックリスト一覧表

上の画像をクリックすると、pdfが開きます。

能登半島地震関連の避難所・避難生活の衛生対策に関する情報を継続して発信しています。新しい発信は、お知らせメールやX(旧Twitter:@office_kankan)でご案内していますので、ご希望の方はこちらからお知らせ登録ください。

【ご案内】

災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策の講師ご依頼につきまして、お気軽にお問い合わせください

『災害時・避難所の衛生対策のてびき』ご購入をお考えのかたは、こちらから注文ができます。

【実績】

・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

Follow me!