【注意】冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その11)

【保健師活動】避難所でのノロウイルス感染症の予防と対処
➀トイレの清潔
②室内履き
③食事前の手の拭き取り
④ノロウイルス対処セットの用意
⑤汚物・吐物への対処

避難所でのノロウイルス感染症の予防と対処(チラシ版)

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避難所のノロウイルス対処セット

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。

次のとおり、避難所でのノロウイルス感染症の予防と対処について、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。

全国保健所長会・全国保健師長会に情報提供しています。

ご活用ください。

【感染性胃腸炎】

代表的なものは、ノロウイルスによる感染です。

【ノロウイルス感染症の症状】

吐き気、おう吐、下痢、腹痛、発熱

通常3日以内で回復します。

感染しても全員が発症するわけではなく、発症しても風邪のような症状で済む場合もあります。

高齢者がかかると、おう吐する頻度が高くなることがあり、吐物による誤嚥性肺炎になる可能性があります。

【ノロウイルス感染症の潜伏期間】

24~48時間

【ヒトのウイルス保有】

感染したヒトの便に、1週間から1カ月間、ウイルスが含まれるといわれています。

【感染が広がりやすい理由】

体内にノロウイルスが10〜100個入っただけで、発症する可能性があります。

ちなみに、ノロウイルス感染者の排泄物には10億個、吐物には100万個のウイルスがいるといわれています。

対処をしなければ、避難所のなかで容易に感染が広がってしまう可能性があります。

1 トイレの清潔
トイレの清掃方法の一例(過去の避難所での掲示物)

熊本地震被災地の益城町の避難所では、保健師の助言により、午前2回、午後2回、夕方1回の計5回のトイレ清掃がおこなわれていました。

トイレの清潔が大切です。

過去の避難所の発生例から、トイレ清掃が不十分なことでノロウイルス感染が広がったと思われるケースがありました。

【過去のノロウイルス感染症の大規模発生】

東日本大震災の被災地の大規模避難所では、ノロウイルス感染症が100人を超えて発生しました。

感染が広がった背景は、次のとおりです。

・流行初期の各階は過密状態であり、汚物や汚染物の処理が不適切だった。

・手指衛生が十分に遵守されていなかった。

・生活用水の大半は共用トイレの水道を利用していたが、当初はトイレ清掃が不十分だった。

・乾燥してカーペットや毛布から粉じんが発生しやすい状態だったが、換気設備が不十分であり、効率的な換気を行うことが難しい状況だった。

私の連載中の『シルバー新報』(環境新聞社)の「介護現場で役立つ災害時の知識」第10回で、避難所・避難生活とノロウイルス感染症を詳細に書いています。

>>避難所・避難生活とノロウイルス感染症 詳しくはこちら

2 室内履き
避難所入り口の外に置かれた下足箱(2019年、令和元年台風19号被災地の避難所)

室内履きをすることで、感染防止につながります。

※トイレで履いた靴、サンダル、スリッパなどは、避難スペースに持ちこまないことが大切です。

避難スペースでは、スポーツシューズ等の室内履きを使うことが大切です。

スポーツシューズは、転倒しにくく、床からの冷気が伝わりにくくなります。

断水で、トイレの床を掃除できない場合、排泄物が床に付着しているなどしていて、靴に排泄物を着けたまま避難スペースに戻り、何らかの経路で口からノロウイルスが入ってしまう可能性があり、発症につながってしまいます。

※室内の土足禁止は、ノロウイルス感染症の予防とともに、靴の泥付着に伴うレジオネラ肺炎の原因菌の浮遊を抑えることにもつながります。

3 食事前の手の拭き取り

消毒用アルコールやベンザルコニウム塩化物などは手指消毒に有効です。

しかし、ノロウイルスを不活化できるのは、次亜塩素酸ナトリウム0.1%(1,000ppm)です。

手指消毒には使うことができません。

流水がない場合、手洗いができないので、手指の汚れを抜き取り、ぬぐう点で、ウェットティッシュが有効です。

断水時に、食事前には、手指消毒とウェットティッシュを併用することで感染リスクを下げる方法になると思います。

手についた可能性のあるウイルスをゼロにすることはできません。

できるかぎりウイルスの量を減らして、感染リスクを下げることが大切です。

4 ノロウイルス対処セットの用意

西日本豪雨の被災地の避難所では、ポリバケツにノロウイルス対処セットが用意されていました。

ノロウイルス対処セット(2018年、西日本豪雨被災地の避難所)

おう吐物処理セットの一例(東京都「防ごう!ノロウイルス食中毒」資料より)

5 汚物・吐物への対処

対処は、次のとおりです。

処理の一例(東京都「防ごう!ノロウイルス感染」資料より)

吐物は、人から飛び散る際に半径3.5~4.5mになることがあります。

吐物や下痢便を処理するときの手順は、次のとおりです。

まず準備です。

➀バケツにゴミ袋を二重にします。

②次亜塩素酸ナトリウム0.1%を現場でつくるには、500ccペットボトルが利用できます。

原液の5%液を容器のキャップ(5cc相当)で2杯、計10ccを取り、水と混ぜて500㏄にすれば、0.1%ができあがります。

ポリバケツを利用するのは、下図のとおりです。

希釈の一例(6%液の場合、東京都「防ごう!ノロウイルス感染」資料より)

③身につけるのは、手袋、使い捨て白衣、マスク、足ビニールカバーです。

手袋は2枚重ねにするため2組必要です。

こうした物が揃わなければ、最低限、マスクと手袋をして、作業後に衣服を取り換えます。

次に作業手順です。

④中心部をペーパータオルで覆い、その外側を新聞紙で覆います(写真)。

おう吐物の処理例

⑤中心部のまわりに土手をつくり、次亜塩素酸ナトリウムをかけます。

⑥ペーパータオル、新聞紙で吐物をふき取って、バケツへ入れます。

取りきれないときは、ペーパータオルでふき取ります。

⑦その後、白い雑布に次亜塩素酸ナトリウムを浸して、床を拭きます。

注意するのは、色つき雑布を避けることです。

漂白に次亜塩素酸ナトリウムが消費されてしまうためです。

⑧消毒に使った雑布を、ビニール袋に捨てます。

⑨身につけたものを捨てます。

手袋の1枚目を捨てます。使い捨て白衣、足カバーを捨てます。手袋、マスクを捨てます。

⑩その後、手を洗います。

※インフルエンザと同様に避難所内で感染が広がるのを防ぐ有効な方法は、患者を別室へ移動させることです。

別室へ移動したあと、元の場所に戻る目安は、嘔吐や下痢が改善するまでとされています。

※ 避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。

チェックリスト一覧表

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【実績】

・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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