【注意】冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その8)
【地震断水時の生活用水と衛生】
①トイレ掃除用の水(井戸水、工業用水、雨水ほか)
②入浴(仮設浴場は補給湯が大切)
③洗濯(井戸水利用はすすぎ段階で殺菌を)
上の画像をクリックすると、pdfが開き、印刷可能です。ご活用ください。
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元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。
次のとおり、地震断水時の生活用水と衛生について、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。
全国保健師長会に情報提供しています。
ご活用ください。
断水によりトイレの清掃ができないことで、衛生環境の悪化があります。
ノロウイルス感染症の発生を聞きました。
根本の原因は、断水により、生活用水が不足していることです。
保健衛生関係者によると、上下水道の被害に加えて、道路の被害による物資輸送の困難さ、支援のマンパワー不足などが重なっているとのことです。
今回は、「地震断水時の生活用水と衛生」を取りあげます。
東京都水道局の資料によると、家庭の水道使用割合は、トイレ、入浴、洗濯の三つを合わせて約80%になります。
断水により困っている、トイレ・入浴・洗濯の生活用水と衛生を考えます。
衛生を考えた水質のレベルは、次のとおりです。
共著『雨の建築学』(日本建築学会、北斗出版)の「水質レベル別に見た利用用途」を参考にしました。
(水質レベル別に見た利用用途)
水質レベル(水質の高い順)
①飲用、料理
健康被害のない水質
②洗面、手洗い、入浴
感染症予防を考えた衛生の確保
③洗濯
皮膚にふれる(間接)
④掃除
⑤便器洗浄、散水
※電動式簡易トイレは、電気が使える状況になると、トイレの衛生確保に有効です。
電動式簡易トイレは、排泄後のボタン操作で、便袋の口が自動的に閉まり、切り離されて下に落ちるしくみです。
手の汚染が減り、衛生改善につながります。
テレビの映像から、避難所の責任者の声として、手を汚さずに衛生環境のアップになったと聞きました。
1 トイレ流し用・掃除用の水(井戸水、工業用水、雨水ほか)
トイレの流し水・掃除用であれば、井戸水、工業用水、雨水などが使用可能と考えられます。
掃除の仕上げ用として考えると、井戸水や工業用水は、消毒用の次亜塩素酸ナトリウムを加えると安心です。
大腸菌を殺すためには、次亜塩素酸ナトリウム濃度 0.1~0.2 ppm(mg/L) が必要になります。
災害時の安全率をみて、1ppmでもいいと思います。
通常の水道水末端の蛇口の塩素濃度より2倍少し高い値です。
家庭用の漂白剤の次亜塩素酸ナトリウム濃度を5%(50,000 ppm)とすると、5万倍の希釈ですので、ポリバケツ1杯に数滴になります。
避難所では、生活用水のシート製仮設水槽5m3程度のものが設置できるといいでしょう。
①井戸水
浅井戸といわれる深さ10m前後の井戸水は、地表の排水や雨の影響を受けやすいといわれています。
深井戸といわれる深さ100m前後の井戸水は、地層のろ過を経ているので、比較的良好な水質を得られます。
飲用の場合、水道水と同じように、最低限水道法の水質基準51項目に適合することが必要になります。
通常、家庭用の井戸水は、飲むときは自己責任の範囲となります。
井戸所有者は、目安となる、次のような10項目程度の水質基準の検査を受けているケースがあります。
・一般細菌 :100/mL 以下
・大腸菌 :検出されないこと
・有機物(TOC):3 mg/L 以下
・pH値 :5.8~8.6(中性付近)
・味 :異常でないこと
・臭気(におい):異常でないこと
・色度(いろ) :5度以下
・濁度(にごり):2度以下
・塩化物イオン :200 mg/L 以下
このなかで、大腸菌が検出されないことが大切です。
人や動物のし尿汚染のない井戸水ということです。
②工業用水
阪神・淡路大震災のときには、小学校の避難所で、校門を入ったところに、5m3くらいのシート製の生活用水タンクがありました。
タンクには、工業用水が入っていました。
主にトイレの流し水に使われていました。
工業用水は、水源が河川やダム湖などです。
水質については、たとえば、愛知県工業用水の水質基準は次のとおりです。
・濁度(にごり):15度以下
・pH値 :6.0~7.5(中性付近)
③雨水
能登半島地震の被災地の映像では、川の水、雨水が洗面器やたらいなどに入れられ、生活用水に使われているのを見ました。
雨水は、水源としては、水道水の河川水より良質な水質です。
雨水の水質検査結果の一例は、次のとおりです。
・一般細菌:20/mL
・大腸菌 :不検出
・pH値 :7.6
屋根に降った雨を貯めることで、良質な水を確保することができます。
※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください
2 入浴
仮設浴場では、十分な補給湯が大切です。
人が浴槽に入ったとき、浴槽から湯がこぼれるくらいが望ましいです。
なぜなら、浴槽水の水面に髪の毛や汚れが浮き、水面がもっとも汚れの大きな箇所になります。
オーバーフローさせることが、何より水質の確保に大切です。
参考までに、公衆浴場の浴槽水の水質基準の一例は、次のとおりです。
・濁度:5度以下
・過マンガン酸カリウム消費量(人による汚れ):25mg/L 以下
・大腸菌群数:1個/mL 以下
・レジオネラ属菌は検出されないこと
・消毒用の遊離残留塩素濃度:0.4mg/L 以上
被災地の仮設浴場では、多数の入浴者があります。
上記の数値は高くなると想像されます。
可能ならば、浴槽に、消毒用の塩素剤を入れた、つり下げ容器を下げることで、大腸菌や肺炎原因菌のレジオネラ属菌の抑止につながります。
毎日、使用後に、配管の滞留水を流し、浴槽の清掃をすれば、レジオネラ属菌の検出を防ぐことにつながります。
※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください
3 洗濯
能登半島地震被災地の映像では、車で遠隔地のコインランドリーまで洗濯に行く光景がありました。
今後、生活用水の井戸水や工業用水を使った洗濯をするときがあれば、すすぎの段階で消毒用の塩素剤を入れると安心です。
主に大腸菌をターゲットにすると、前述のように、大腸菌を殺すために、次亜塩素酸ナトリウム濃度 0.1~0.2 ppm(mg/L) が必要になります。
災害時の安全率をみて、1ppmでもいいと思います。
通常の水道水末端の蛇口の塩素濃度より2倍少し高い値です。
家庭用の漂白剤の次亜塩素酸ナトリウム濃度を5%(50,000 ppm)とすると、5万倍の希釈ですので、家庭用洗濯機のドラム1杯に数滴になります。
※ 避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。
画像をクリックすると、pdfが開きます。
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【実績】
・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。