【注意】冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その5)

【感染症予防と空気環境の注意点】
①インフルエンザ(マスク、湿度アップ)
②新型コロナ(マスク、最低2時間に1回は換気)
③ノロウイルス感染症(手洗い、マスク、トイレ清潔)

感染症予防と空気環境の注意点(チラシ版)

上の画像をクリックすると、pdfが開き、印刷可能です。ご活用ください。

換気時刻の掲示(イメージ写真)

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。

次の内容につきましては、石川県薬事衛生課・能登中部保健所生活環境課・能登北部保健所生活環境課の皆様にも情報提供いたしました。

次のとおり、冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策の注意点(その5)を、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。

お役立てください。

国立感染症研究所のホームページでは、令和6年能登半島地震による石川県における被害・感染症に関するリスクアセスメント表(2024年1月5日現在)が掲載されています。

こちらからご覧いただけます
https://www.niid.go.jp/niid/images/disasters/noto2024/noto20240105.pdf 

このなかで、地域・避難所で流行する可能性の高いものとして挙げられているのは、次の3つです。

①避難所の過密状態に伴う感染症

 急性呼吸器感染症(インフルエンザ*、COVID-19*を含む)

②水系・食品媒介性感染症

 感染性胃腸炎/急性下痢症(黄色ブドウ球菌・サルモネラ・カンピロバクター・EHEC・ノロウイルス・ロタウイルス*など)

③感染症発生動向調査で流行がみられる疾患

 咽頭結膜熱

*ワクチンで防ぐことのできる感染症でもあると注意書きがあります。

発災5日後の1月6日(土)のテレビニュースでは、避難する女性の方が、集団生活で、インフルエンザや新型コロナ、ノロウイルスを心配だと話していました。

DMAT(災害派遣医療チーム)の医師の話では、予防策として、呼吸器系疾患のインフルエンザや新型コロナに対してはマスク着用が、消化器系疾患のノロウイルス感染症に対しては手洗いの励行が重要になります。

ここでは、インフルエンザ、新型コロナ、ノロウイルス感染症の3つを取りあげ、感染症予防と空気環境の視点でみていきます。

1 インフルエンザ

空気が乾燥すると、気道粘膜の防御機能が低下して、インフルエンザにかかりやすくなります。

室内では、マスク着用、湿度アップがインフルエンザ予防に大切です。

冬の室内の湿度の目安は、40~60%です。

小学校の教室や公民館の部屋などの天井が低く小さい空間では、濡れタオルを干すことや卓上型加湿器の使用が湿度アップに有効です。

石油ストーブに乗せたヤカンの湯気は、室内の加湿に有効です。しかし、地震の揺れによって、ヤカンの湯がこぼれて火傷のおそれがあります。要注意です。

過去の被災地の避難所では、ポリバケツに水を入れ、その中に筒状にした新聞紙10本の下側を漬けて、簡易加湿器をつくっていました。

水の毛細管現象と、水分の気化とを利用した加湿方法です。

新聞紙を利用した簡易加湿器

電気が使える状態ならば、卓上型加湿器が利用できます。

加湿器は、加熱式、超音波式、気化式の3つのタイプと、それぞれを組み合わせたハイブリッド型があります。

いずれのタイプも、毎日の水道水の入れ換えと定期的な水容器の清掃が必要になります。

別ページに、加湿器の仕組みや衛生管理の方法を詳細に説明しています。

こちらからご覧いただけます
https://kankan-mirai.com/2960/

石油ストーブなど開放型の暖房器具が完全燃焼するときには、二酸化炭素とともに水分が空気中にでます。

過去のスポーツ施設の避難所では、石油ストーブ前に洗濯物干し場をつくることで、適切な湿度の維持につながっていました。

ストーブ前の洗濯物干し場

室内の湿度の空気環境基準は次のとおりです。

建築物衛生法:相対湿度 40~70%

学校環境衛生基準:30~80%以下が望ましい

湿度は、温度・湿度計を壁につけて、確認するとよいでしょう。

避難所の温度湿度計

冬の室内の湿度の目安は、40~60%です。

※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

2 新型コロナ

マスク着用、最低2時間に1回は換気するのが大切です。

石油ストーブの使用もあり、2時間に1回以上、換気しましょう。

換気の方法は、対面の二方向の窓を開けると効果的です。

学校の教室や公民館の部屋など小さい空間であれば、30秒から1分間程度でも、空気を入れ換えることができます。

窓や扉の1カ所を開けることも有効です。

別ページに、石油ストーブと換気について詳細に説明しています。

こちらからご覧いただけます
https://kankan-mirai.com/3286/

写真のような、簡易な二酸化炭素濃度測定器があれば、室内の状態を常に確認することができます。

二酸化炭素濃度測定器(イメージ写真)
(乾電池の使用もできます)

冬季で、体の保温を第一に考えると、1,500~2,000ppm程度を超えたときが、換気の目安になります。

なお、過去の被災地の避難所では、朝食や昼食の食事後に換気の時間を設けるところがありました。

食事の時間帯は、避難所内に人が多くなり、食事に伴うニオイが漂います。

したがって、食事後の換気が、効果を高めます。

夕食後の換気は、夜間の外気の冷えの状況をみながら、実施するか判断してもいいでしょう。

電気が使えるならば、空気清浄機を補助的に使うことで、空気清浄機の近くの範囲でウイルス除去の助けになります。

※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

3 ノロウイルス感染症

手洗い、マスク着用、トイレの清潔が大切です。

東日本大震災のとき、大規模避難所で、嘔吐・下痢症の集団発生がありました。

国立感染症研究所の資料では、発災約1カ月後に発症者数のピークがありました。

約2,500人の避難者のなかで212人が、ノロウイルスが原因と考えられる嘔吐・下痢症になったのです。

資料では、感染が広がった背景が挙げられています。

・流行初期の各階は過密状態であり、汚物や汚染物の処理が不適切だった。

・手指衛生が十分に遵守されていなかった。

・生活用水の大半は共用トイレの水道を利用していたが、当初はトイレ清掃が不十分だった。

・乾燥してカーペットや毛布から粉じんが発生しやすい状態だったが、換気設備が不十分であり、効率的な換気を行うことが難しい状況だった。

こうした問題の解決として、ノロウイルス感染症の予防方法は次のとおりです。

①手洗い・手指消毒

②手洗い方法の掲示

③トイレの定期的清掃

④避難スペース・レイアウト
 トイレ近くに避難スペースをつくらない。

⑤保健係の配置

断水時には、トイレ後・食事前の手指消毒の徹底、トイレ近くに避難スペースをつくらないこと、下痢・嘔吐など消化器症状がある人の早期発見が大切になると思います。

私の連載中の『シルバー新報』(環境新聞社)の「介護現場で役立つ災害時の知識」第10回で、避難所・避難生活とノロウイルス感染症を詳細に書いています。

こちらからご覧いただけます
https://kankan-mirai.com/wp-content/uploads/2024/01/230926_10_介護現場で役立つ災害時の知識10.pdf

なお、日常時の例として、ホテル廊下の嘔吐物の除去が不十分だったため、乾燥して空気中に舞ったノロウイルスが口に入り、多数の感染者が出たと考えられる報告があります。

空気中へのウイルスの飛散を考えると、床を清掃した掃除機やホウキ、モップなど掃除用具について、ロッカーなどにしっかり保管することが大切です。

※ 避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。

チェックリスト一覧表

画像をクリックすると、pdfが開きます。

【ご案内】

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【実績】

・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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