【講演会Q&A・後編】災害時のトイレ対策(衛生管理・感染症対策・平時の備え)
今回は、講演会で出された質問をもとに、災害時のトイレ対策のうち、衛生管理と継続運用に関わる内容を整理しました。
後編では、し尿・ごみ・臭気・害虫への対応、感染症対策、ポータブルトイレの活用、簡易トイレや既存トイレの衛生管理、防犯、平時の備えをQ&A形式でまとめました。
【目次】
1.し尿・ごみ・臭気・害虫への対応
2.感染症が疑われる人がいる場合のトイレ管理
3.ポータブルトイレの活用と課題
4.簡易トイレ・既存トイレの衛生管理のポイント
5.防犯と利用しやすさへの配慮
6.自宅・職場で準備すべきもの
7.平時から確認しておきたいこと
8.環監の視点(衛生管理と継続運用)

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所の衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2026(令和8)年3月上旬に開催された第37回環監未来塾私塾・オンライン講演会では、森田昭氏(元 (一財)日本環境衛生センター、日本トイレ研究所アドバイザー)の「災害時のトイレの種類と衛生管理」のご講演がありました。
保健師、環境衛生監視員などの皆様、約110人のご参加がありました。
講演会では、災害時のトイレ対策について、現場に直結する質問が多く寄せられました。
前編では、避難所開設時の初動対応、既存トイレの使用可否、水の確保、トイレの種類ごとの考え方を整理しました。
まだお読みでない方は、前編もあわせてご覧ください。
後編では、し尿・ごみ・臭気・害虫への対応、感染症対策、ポータブルトイレの活用、簡易トイレや既存トイレの衛生管理、防犯、平時の備えをQ&A形式でまとめました。質問と森田氏のご回答を整理しました。
災害時のトイレ対策は、設置して終わりではありません。
し尿やごみをどう保管するか、臭気や害虫をどう防ぐか、感染症が疑われる人への対応をどうするか、防犯にどう配慮するかまで含めて考える必要があります。
保健師、環境衛生監視員をはじめ、自治体職員、保健所職員、避難所運営に関わる方の参考になれば幸いです。
1.し尿・ごみ・臭気・害虫への対応
(質問)
トイレに関連して、衛生害虫対策は、どのようにお考えでしょうか。
(回答)
被災地では、便袋やごみの保管方法、臭気対策、搬出体制が、害虫対策と深く関わります。
臭気対策としては、穴を掘って一時的に埋めることや、便袋やごみの置き方を工夫することが考えられます。
また、防臭袋は効果がありますが、厚手で高価です。
薄い袋は、ごみ収集車で破れることがあるため、運搬方法にも注意が必要です。パッカー車ではなく、平置きできる運搬車が適しています。
さらに、大量のごみを一度に焼却施設へ持ち込むのではなく、処理能力に応じて小分けにして運ぶこと、仮置き場や仮仮置き場を設けることも大切です。
災害時のトイレ対策は、し尿処理だけでなく、ごみ処理全体の計画と一体で考える必要があります。
(質問)
仮設トイレの、し尿発生量はどのくらい見ておけばよいでしょうか。
(回答)
目安として、1人1日あたり3リットル程度です。
内訳としては、し尿が約2リットル、トイレの流し水が約1リットルという整理です。
ただし、実際の量は年齢や状況、使い方によって変わります。
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2.感染症が疑われる人がいる場合のトイレ管理
(質問)
嘔吐・下痢など消化器感染症を考えなければならない方が発生した場合のトイレの管理、使用制限、清掃作業を担うのはどういう方で、その方への配慮など、専門家から伺いたいです。
(回答)
感染症が疑われる人専用のトイレを区分することが考えられます。
ただし、区分するだけでは不十分で、清掃や消毒を誰が担うのか、どういう管理体制で維持するのかが課題になります。
東日本大震災の避難所で、屋内に仕切りを設け、自動式簡易トイレを使っていた例もあります。
感染症対策では、「専用化」と「管理体制」をセットで考える必要があります。
3.ポータブルトイレの活用と課題
(質問)
事業所のケアマネージャーさんから、介護保険で購入したポータブルトイレについて、利用者の方がお亡くなりになった後の廃棄や引き取りの相談を受けることが多いそうです。ほとんど利用していないものや、しっかりした高価なものもあり、災害時に避難所などで高齢者の方々に活用できないか、との話がありました。使用しなくなったポータブルトイレの有効活用できる方法や、保管していただける先について、何か情報があれば教えてほしいです。
(回答)
最寄りの介護用品リース会社に確認したところ、ポータブルトイレはリースとして扱っておらず、新品買い取りとのことでした。助成制度を使うと、正価6万円の商品が1.5万円程度になる例もあるようです。
また、ポータブルトイレ製造メーカーの見解として、一度使用したものは、衛生上の懸念からリユースは考えていないとのことでした。
そのため、災害時に避難所等で再利用する仕組みは、現時点では簡単ではないようです。
実務上は、ポータブルトイレは高齢者や体の不自由な方への配慮として有効な場面がある一方、保管場所、衛生面、再利用の考え方、管理主体の整理が課題になります。
現時点では、自治体や関係機関が平時からその位置づけを整理しておくことが望まれます。
4.簡易トイレ・既存トイレの衛生管理のポイント
(質問)
簡易トイレ設置時または既存のトイレを活用した際の衛生管理のポイントを教えてもらいたいです。
(回答)
簡易トイレでは、履物の区分、手指洗浄、清掃、照明、安全、廃棄物保管に留意が必要です。
既存トイレでは、代替水の確保、手指洗浄、清掃、くみ取り対応に留意が必要です。
つまり、どちらのトイレでも、「排泄する場」としてだけでなく、「汚染を広げない場」として管理する視点が必要です。
(質問)
トイレ浸水時の衛生管理について具体的なお話をお伺いしたいです。
(回答)
問題になるのは、汚水が環境中へ広がることによる汚染と、水を介した感染症の広がりです。
初期対応としては、使用停止し、携帯トイレへ切り替え、貯留しているものを引き抜き、清掃・消毒を行うことになります。
5.防犯と利用しやすさへの配慮
(質問)
可能であれば、この機会に、防犯上のポイントにも触れていただけるとありがたいです。
(回答)
仮設トイレは男女別とし、女性用は男性用より目立つ配置が望ましいと考えられます。
そのほか、照明、施錠、警報設備なども重要です。
災害時のトイレ対策では、衛生面だけでなく、安全面や心理的負担への配慮も必要です。
また、トイレカーや仮設トイレでは段差が問題になりやすいため、高齢者や体の不自由な方が使いやすい工夫も欠かせません。
6.自宅・職場で準備すべきもの
(質問)
災害・停電時のトイレ対策として、自宅で準備すべきもの、職場で準備すべきものを、コスト・実効性の観点からお聞かせください。
(回答)
自宅では、携帯トイレ、廃棄袋、簡易便座の備蓄、家族への周知、廃棄物の一時保管場所の確保が基本です。
携帯トイレは耐用年限に応じた更新が必要です。
職場では、マニュアルの作成、携帯トイレや仮設トイレ、消耗品、清掃用具の備蓄に加え、防災訓練を通じた職員への周知が重要です。
携帯トイレは、備蓄しているだけでは十分ではなく、実際に使えるよう訓練しておく必要があります。
7.平時から確認しておきたいこと
(質問)
平時からできることと、大災害の際の注意点を教えていただきたいです。
(回答)
平時から確認しておきたいのは、貯水槽の容量、トイレ1回あたりの必要水量、排水ますの位置、仮設トイレの設置スペース、廃棄物の一時保管場所、くみ取りや収集の連絡先などです。
また、大規模災害では長期化を前提に考える必要があります。
初期は携帯トイレでしのげても、日数が経てば廃棄物処理、清掃、感染症対策、利用者の負担が大きくなります。
そのため、備蓄だけでなく、運用体制まで含めて確認しておくことが大切です。
8.環監の視点(衛生管理と継続運用)
災害時のトイレ対策では、「トイレを確保すること」と同じくらい、「衛生状態を保ちながら使い続けること」が重要です。
し尿、ごみ、臭気、害虫、感染症、防犯、高齢者への配慮は、それぞれ別の問題に見えて、実際にはトイレの管理体制の中でつながっています。
災害時のトイレは設置だけではなく、衛生面、保管、管理体制などまで整理されて、はじめて災害時に使える資源になるのではないでしょうか。
環境衛生監視員の視点は、それぞれの問題を個別に見るだけでなく、災害時の公衆衛生、避難所の衛生の観点で整理するところです。
災害時のトイレは、設置の問題であると同時に、衛生管理と運営管理の問題でもあります。
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【ご案内】
【2026(令和8)年度講座】
2026(令和8)年度のオフィス環監未来塾の研修講座の写真入り詳細をご覧いただけます。
・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。
・課題の解決につながる講座をご用意しています。
・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。
月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【活動実績】
(本・図書・出版物)
・2025年、介護保険専門紙『シルバー新報』(環境新聞社)で「介護現場のBCP 災害時の知識」を連載中です。
・2025年、月刊誌『クリンネス』(イカリホールディングス株式会社)で「衛生視点で感染症・災害時のBCPを考える」を連載中です。
・2022年、本『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
・2021年、専門誌『生活と環境』(一般財団法人日本環境衛生センター)で「災害時の居住環境 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」を連載しました。
・2020年、『災害時の保健活動推進マニュアル』(日本公衆衛生協会・全国保健師長会、令和2年3月)で「生活環境衛生対策」(避難所の環境衛生管理アセスメント)を分担執筆しました。
(活動)
被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
・2024年、能登半島地震(石川県、珠洲市、七尾市)
奥能登豪雨(石川県、珠洲市)
・2019年、令和元年台風19号(長野市、いわき市)
・2018年、西日本豪雨(倉敷市)
・2016年、熊本地震(熊本市)
・2011年、東日本大震災(気仙沼市)
(調査活動)
・1995年、阪神・淡路大震災
(講師)
・2025年、神奈川県公衆衛生協会平塚支部講演会「災害時の公衆衛生活動、~災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策、保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2025年、豊田市役所研修「災害時の避難所等における衛生対策に関する研修」
・2025年、豊橋市保健所研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~避難生活で健康を守るポイント~」
・2025年、日本災害食学会・災害食専門員研修会「災害時の水の安全・衛生」
・2024年、神奈川県公衆衛生学会「シンポジウム・避難所における健康危機管理」
・2024年、宮城県気仙沼圏域研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、宮城県登米地域災害対応研修「災害時における環境衛生対策」
・2024年、愛知県看護協会・研修会「災害時の生活環境衛生対策の課題と実際」
・2024年、福井県嶺南地域保健・福祉・環境関係職員研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会「災害時の避難所の衛生、感染症対策」
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会・特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」
(学会)
・2025年、第30回日本災害医学会総会・学術集会「サーモグラフィ画像を活用した避難所の環境衛生管理」
・2025年、第52回建築物環境衛生管理全国大会「能登半島地震被災地の公衆衛生活動者を支援するためのIT活用の成果」
・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、第48回建築物環境衛生管理全国大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の避難所の施設・空気環境の実態」奨励賞受賞
・2020年、第79回日本公衆衛生学会総会(オンライン開催) 「令和元年台風19号被災地の避難所における空気環境等の実態」
・2012年、第39回建築物環境衛生管理全国大会「東日本大震災被災地の避難所の施設・空気環境の実態」最優秀賞受賞






