【環監・保健師向け】レジオネラ・冷却塔の疑問に答える

【レジオネラ・冷却塔の疑問に答える】
1 冷却塔の採水
2 冷却塔の衛生管理
3 冷却水の試験検査
4 冷却塔の清掃方法
5 その他(万博の例ほか)
6 環監の視点(冷却塔への注目)

建築物衛生法による立入検査時の測定器類

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2025(令和7)年6月なかば、第34回環監未来塾私塾・オンライン無料講演会を開催しました。

テーマは、「レジオネラ、冷却塔のレジオネラ属菌対策・水質検査方法」です。

講師は、技術士(衛生工学部門)・アクアス株式会社技術顧問で、『レジオネラ症防止指針 第5版』(公益財団法人日本建築衛生管理教育センター)の編集委員会作業部会に所属した縣邦雄氏です。

全国の保健所・環境衛生監視員、保健師など、23名の皆様が参加されました。

ご講演では、冷却塔の構造、殺菌剤・剥離剤の種類、水質検査時の採水方法などのご説明がありました。

冷却塔は、屋上にあり、主に夏季の冷房に使用される冷却水が配管を循環するとき、熱交換されて温まった冷却水の温度を5℃程度下げる装置です。

衛生管理が不十分な場合、レジオネラ症の感染源となり得る箇所です。

参加者の声で、「冷却塔冷却水の採水検査に大変役立ちそう」「冷却塔と浴槽水の監視ポイントの違いがはっきりわかった」「仕組みを知ることができてとてもためになりました」とありました。

今回は、講演時におこなわれた質疑応答から、有用な情報をご紹介します。

回答は、縣邦雄氏のご協力をいただいて記載したものです。

なお、冷却塔の構造設備について、別ページに詳細な説明があります。

縣邦雄氏の前回講演会「空調設備・冷却塔のレジオネラ属菌対策」の内容が、別ページにあります。

1 冷却塔の採水

(質問)採水のタイミング
冷却塔の採水時期

(回答)
季節、運転条件など様々な時に、できるだけ多くの採水を行うことで全体像がわかってきます。一般には多数の検体の採水が難しいので、レジオネラ増殖のリスクが高いときに採水すると、危険性がわかって良いと考えます。

例:
1日の採水時刻:動きはじめたとき、朝いちばん、休止していた冷凍機や配管の中の水が動き始める。同様に、月曜日の朝は土・日に運転を停止していた冷却水が動き始めるので、採水の対象となる。

2 冷却塔の衛生管理

(質問)バイオフィルム対策
充填材に形成されるスケール、バイオフィルムに対してはどのような対策を講じればよいでしょうか?

(回答)
未然防止が大切です、濃縮調整と、適切な薬品処理を行います。充填材の洗浄はかなり大変な工事になります。(できないことではありませんが、、、)
バイオフィルムであれば、過酸化水素による洗浄
スケールであれば、酸性洗浄剤による洗浄
ですが、具体的な洗浄(手順)は専門業者に依頼することになります。

(質問)稼働停止中の取り扱い
冬場に使用を停止する冷却塔の場合、使用停止前と使用再開時の管理において、特に注意すべき点やチェックポイントなどありましたら教えていただきたいです。

(回答)
通常は使用停止時は、化学洗浄後、清水を張る。(主に配管、冷凍機)

清水には、殺菌剤、腐食防止剤を入れておいておく。(停止期間中、菌の増殖を防止、腐食を防止)このとき、冷却塔の水は抜いても良い。

水を抜けば良いように思うが、実際には水が全部抜けるのか、乾燥ができるかが課題。完全に乾燥はできず、湿った状態で保管される。この場合、腐食が発生、細菌類が増殖する。
 
北海道、等寒冷地:凍る可能性があるので、水を張っての保管は使えない可能性がある。

運転開始時は、(運転停止時にバイオフィルムを洗浄除去しており、保管用薬剤で処理しているのであれば)冷却水系内全体を殺菌する。


例:遊離残留塩素10~20ppm×数時間、など。その後通常運転を開始。

3 冷却水の試験検査

(質問)血清型の理解
レジオネラ属菌の血清型別について、環境衛生監視員はどの程度理解していく必要があるのでしょうか?次世代シーケンサーの理解ができず困っています。

(回答)
お客様に提示する検査結果は、レジオネラ属菌(基準値もレジオネラ属菌)なので、私どもとしては、通常の検査では血清型を深く追求していません。血清型の検査結果をどのように利用するかによって、必要に応じて、血清型や菌種の同定を行うのだと思います。

(質問)処理による違い
EMA処理が浴槽水と冷却塔水で差が出る要因は何と考えられてますか?

(回答)
あくまで私の想像ですが、培養不能菌の多い/少ない、または死菌の細胞膜が壊れている/壊れていない(塩素剤だと細胞膜が壊れる、有機系バイオサイドは壊れない)など、、、、全く個人的な考えです。

(質問)選択培地
講義の中で、検出不能時の対応として選択培地(CAT‐α培地)を推奨されていましたが、これはWYO‐α(レジオネラ指針 38ページ 冷却塔水に適している)とは性質の異なる培地でしょうか?
また、CAT‐α培地の組成や販売先等情報を確認できなかったことから、それらの情報をご教授いただけますと幸いです。

(回答)
CATα培地はWYOα培地よりも、レジオネラ以外の細菌類、真菌類の発育を抑制する組成になっています。
以前は「日研生物」で販売していましたが、現在は販売していません。
培地の組成は、『レジオネラ属菌を知る』レジオネラ研究者の会編著者(株式会社M’sクリエイト)P64にあります。
アクアスの特許組成でしたが、2025年3月に特許が切れていますのでどなたでも使用可能です。
但し市販されていないので培地を自作して使用する必要があります。

4 冷却塔の清掃方法

(質問)菌付着の充填材の清掃
宮城県の病院の冷却塔が原因とみられる集団感染例について、最初の患者発生後、冷却塔の高圧洗浄でエアロゾルが発生し、病院周辺の地域で患者が発生した可能性が考えられます。
菌が多量に充填材などについているとき、どのような方法で冷却塔を洗浄したらいいでしょうか。

(回答)
いきなり高圧洗浄は、リスクが大きいと思います。

たくさん付着しているときは、過酸化水素を入れて循環させる。5~10%(35%過酸化水素水として)を、投入して循環する。

保有水量が10トンの場合、35%過酸化水素水の使用量は500~1000kgになる。

保有水量は、施設管理者が把握している。

過酸化水素:酸素が発泡、泡でバイオフィルムをはがす。高圧洗浄に比較して、飛び散りが少ない。

過酸化水素で洗うとき、2~3時間循環する。

その後、残ったバイオフィルムを高圧洗浄などで除去する。

最後に塩素剤冷却水系内を殺菌する、次亜塩素酸ナトリウム、10~20ppm×数時間で殺菌する。

バイオフィルム程度が少なく過酸化水素で洗っていない場合:塩素濃度10ppm×最大24時間保持して殺菌する。

(質問)洗浄時の囲い
洗浄時に、冷却塔のまわりを囲う必要がありますか。

(回答)
囲うのは良いと思いますが、実際には、可能だけど、困難。(屋上なので設置が大変、場所の制約、囲いが大がかりになる、など)

(質問)高圧洗浄以外の方法
高圧洗浄以外の方法がありますか。

(回答)
前述のように、過酸化水素で洗浄します。

5 その他(万博の例ほか)

(質問)万博の例
大阪万博のレジオネラの詳細が分かれば教えてください。

(回答)
私のほうでは詳細は、わかりません。ニュースによれば、検査結果が出るのが早い(1日程度か?)ので、検査法はLC-EMAqPCRを使用していると思われます。測定した遺伝子の量を、CFU/100mLに換算しているのではないでしょうか。

(質問)水質基準値
浴槽水は、10 CFU/100mL 以上が不適
冷却水は、100 CFU/100mL 以上が不適
この違いの根拠は、どこにありますか。

(回答)
水系が人に近いか。遠いか。

(質問)水質基準値の記載
指針値:冷却水は、100 CFU/100mL 以上
『レジオネラ防止指針 第5版』のどこに記述がありますか。

(回答)
菌が出たときの対応、100 CFUは、「エアロゾルを直接吸引する可能性の低い人工環境水」を適用。防止指針の P63
水景施設は、指針のP133に、100CFUの記載がある。

6 環監の視点(冷却塔への注目)

冷却塔の冷却水の汚染を原因としたレジオネラ症の発生防止対策が、いま注目されています。

約40年前、私が保健所・環境衛生監視員として経験の浅いころ、レジオネラ症は、空調設備の冷却塔の冷却水汚染がもっとも注意すべきところとされていました。

いま、冷却塔の衛生管理が再び注目されることになりました。

環監にとって、適切な指導・助言ができるように、もう一度、冷却塔の構造設備や衛生管理方法、水質検査方法などを理解し、知識、スキルを身につける必要があると思います。

【レジオネラ症対策を学ぶ連続講座】では、配管洗浄(浴槽水)の作業工程の動画を見ながら、解説を詳しく聞くことができます。

ご活用ください。

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・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。

・課題の解決につながる講座をご用意しています。

・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。

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【活動実績】

(書籍・図書)

・2024年、専門誌『設備と管理』(オーム社)に「冷却塔の清掃方法とレジオネラ症 保健所・環境衛生監視員の視点から」を執筆しました。

・2023年、専門誌『設備と管理』(オーム社)に「老舗旅館の大浴場、湯の入れ換えが年2回 レジオネラ症対策を再考する」を執筆しました。

・2015年、専門誌『生活と環境』(一般財団法人日本環境衛生センター)に「公衆浴場・温泉・旅館業・スポーツ施設・介護保険施設のための 続・よくわかるレジオネラ症対策」を連載しました。

・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

(活動)

・2024年、厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「公衆浴場の衛生管理の推進のための研究」の研究協力者として活動しました。

・2024年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」改定検討の研究協力者として、元神奈川県衛生研究所・黒木俊郎先生らと共に活動しました。

・2022年、「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になりました。

2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。

 ①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
 ②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
 ③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)

(講師)

・2025年、石川県南加賀保健所、入浴施設衛生管理研修会「公衆浴場、旅館、ホテル等入浴施設のレジオネラ症対策」

・2025年、鹿児島市保健所、レジオネラ症感染防止研修会「入浴施設におけるレジオネラ症感染防止対策」

・2025年、港区みなと保健所、衛生講習会「レジオネラ症対策について」

・2024年、大分県 レジオネラ症発生防止対策研修会「入浴施設のレジオネラ症発生防止対策について」

・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」

・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)

・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」

(学会)

・2024年、第83回日本公衆衛生学会総会で、「レジオネラ症対策現場研修会の公衆衛生人材育成の成果」を発表しました。

・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会で、「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」を発表しました。

・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会(オンライン開催)で、「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」を発表しました。

・2012年、第56回生活と環境全国大会で、「文京区における公衆浴場等シャワー水のレジオネラ症発生防止対策の成果」を発表し、最優秀賞を受賞しました。

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