【環監向け】温泉プールのレジオネラ症対策
【環監の視点】
温水プールの源泉槽が、一番のチェックポイントになると思います。
源泉槽のレジオネラ症対策として、温度60℃以上あるいは殺菌のどちらかが必要になるでしょう。
こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2024(令和6)年4月下旬、都内の公衆浴場施設を会場に、「レジオネラ症対策・配管洗浄見学講座」(主催:オフィス環監未来塾)を開催しました。
中核市保健所の環境衛生監視員2名のかたが参加されました。
参加者のかたから、温泉プールのレジオネラ症対策でご質問がありました。
環監の業務に有用な内容ですので、ご紹介します。
(質問)温泉プールのレジオネラ症対策
当保健所で、温泉プールの水質検査を行いました。
遊離残留塩素濃度 0.6 mg/L
過マンガン酸カリウム消費量 40 mg/L
大腸菌群数 40 個/ml
検査結果をうけて、プールの清掃・消毒を指導しました。
その後の再検査では、大腸菌群がゼロになりました。
後日、源泉槽と温水プールの水質を比較するため、再々検査をしたところ、次のとおりでした。
・源泉槽
大腸菌群 300 個/ml
レジオネラ 1,600 CFU/100ml
・温水プール
大腸菌群 2 個/ml
レジオネラ 陰性
遊離残留塩素濃度 1.0 mg /L
過マンガン酸カリウム消費量 40 mg/L
源泉槽の結果と比較すると、温水プールでろ過や消毒(次亜塩素酸ナトリウム)の効果はあると考えます。
源泉槽の大腸菌群数やレジオネラ属菌数の評価、適切な指導内容について、アドバイスをいただきたいと思います。
(回答)
【源泉槽の水質】
・源泉槽のレジオネラ症対策として、温度60℃以上あるいは殺菌のどちらかが必要になると思います。
・水質検査結果の数値から見ると、対策がとられていない可能性があります。
・レジオネラ属菌の検出数値からすると、リスクが高いと考えられます。至急の対処が必要でしょう。
・対処として、源泉槽の衛生状態をリセットするため、源泉槽の清掃・消毒、及び源泉槽から温泉プールへの配管の洗浄が考えられます。
・源泉槽で殺菌剤の使用を考える場合、温泉の水質を把握して、たとえば、pHが中性付近であれば、次亜塩素酸ナトリウムが使用できます。ただし、鉄分、マンガン、フミン質など多く含まれていると、殺菌の前に消費されてしまうかもしれません。
・温泉の水質を見て、水中で安定的に作用するモノクロラミン消毒を採用するのが選択肢のひとつになるかもしれません。
・鉄分、マンガンが多い場合、塩素剤を加えて砂ろ過を行う前処理で、鉄やマンガンなどの量を減少させる方法があります。
【温泉プールのチェックポイント】
①フロー図
・源泉からプールまで、どのような流れか、フロー図で押さえるとわかりやすくなると思います。
・プールは、24時間循環ろ過をしているかが大切なチェックポイントです。
夏を中心に、利用者数が増えて、循環ろ過器の能力(1日あたりの処理容量)以上の負荷がないかを確認します。
通常、24時間循環ろ過をしているプールは、1日あたり4~6ターン(プール容量が4~6回、入れ替わっている)していると考えられます。
②温泉分析表
・カルシウム、マグネシウムなど、配管中にスケールをつける物質が多いのかを確認することが大切になります。
・消毒剤に何を使用するかは、上記の源泉槽に記述した内容と同じです。
③配管の状態
・15~20年以上、配管を使っていると、スケールがつき、微生物の付着が考えられます。
・配管は、スケールが付くことを想定して、15~20年に1回、交換するのが維持管理計画上、望ましいでしょう。
・最近の温泉地域では、源泉から各施設へ温泉を送る送泉管について、交換を前提に、地上に出した配管を施設することがあります。
管は、さや状になっていて、送泉管の外側に保護・保温のための管があり、二重の管の構造になっています(参考写真)。
【具体的対応】
温泉の流れに沿って、具体的な対応を考えてみます。
流れA、流れB、流れCの順に見ていきます。
◎流れA:源泉槽
※源泉槽が、今回の一番のチェックポイントになると思います。
・水質検査結果から、源泉槽で塩素消毒、熱消毒などレジオネラ症対策がおこなわれていない可能性があります。
・源泉槽での①または②のレジオネラ症対策が必要です。
①塩素消毒による管理:温泉の泉質によります。
例:pH値が中性の単純温泉:次亜塩素酸ナトリウムなど
例:pH値がアルカリ性の単純温泉:ブロム剤、モノクロラミン
②熱消毒による管理:60℃以上の温度管理
温度計を設置して、数値の記録をとります。
・源泉~源泉槽の送泉管についても、スケール等の付着を考慮して、定期的な配管の更新が望ましいでしょう。
◎流れB:源泉槽~温泉プール
・源泉槽~温泉プールの送泉管についても、スケール等の付着を考慮して、定期的な配管の更新が望ましいでしょう。
・1年に1回程度の送泉管の配管洗浄をする場合、管の循環がないので、管中に洗浄剤をつけ置きしたあと、すすぎの水を送ることになると思います。
◎流れC:温泉プールの循環処理
・循環処理する場合、流れに沿って各箇所の点検をするといいでしょう。
①ヘアキャッチャーの管理(交換・清掃・消毒の頻度)
②塩素注入器(稼働状況)
③ろ過器(ろ材の種類、前回のろ材の交換時期、ろ過器下部の水抜き管の有無など)
④加温装置(方式、熱交換部の漏水箇所の有無など)
・プール容量が大きい場合、循環処理配管の配管洗浄が、公衆浴場のように可能かは不明です。
水道水や地下水を使うプールでは、洗浄剤による配管洗浄を定期的にしているとは、私自身は聞いたことがないのですが。
【水質検査】
・源泉が源泉槽に入るところから、温泉水の流れに沿って、水質検査をすると、どの箇所で汚染の可能性があるかを確認することができるかもしれません。
・水質検査の箇所
①源泉(源泉槽に入る直前の水質)
②源泉槽
③温泉プールのプール水
④回収槽(存在する場合。オーバーフロー水をためて、循環使用するとき)
【環監の視点】
温水プールの源泉槽が、一番のチェックポイントになると思います。
源泉槽のレジオネラ症対策として、温度60℃以上あるいは殺菌のどちらかが必要になるでしょう。
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【ご案内】
【2024(令和6)年度講座】
2024(令和6)年度のオフィス環監未来塾の講座一覧表をご覧いただけます。
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・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。
・課題の解決につながる講座をご用意しています。
・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。
月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【実績】
(書籍)
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
(活動)
・2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。
①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)
(講師)
・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」の講師をつとめました。
・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。