【環監・保健師入門】レジオネラ症対策・過マンガン酸カリウム消費量に影響する温泉成分
【環監の視点】
過マンガン酸カリウム消費量に影響する温泉成分
①フミン質(腐植質)
黒湯は、過マンガン酸カリウム消費量が高くなり、条例の基準値を超えてしまうことがあります。
②チオ硫酸イオン
チオ硫酸イオンは、還元性物質であり、過マンガン酸カリウム消費量を高めます。
こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2023(令和5)年12月に、昨年6月に開催した「レジオネラ症対策を現場で学ぶ、基本とスキル習得講座・実践編2日間コース(会場開催、公衆浴場施設の現場見学付)」の受講者のかたから質問がありました。
質問
<浴槽水の水質検査で、温泉の泉質により過マンガン酸カリウム消費量の結果に影響を与えることがあるのでしょうか?>
環監業務に役立つ内容ですので、ご紹介いたします。
以下の説明につきまして、専門家の株式会社ヘルスビューティ・シニアテクニカルアドバイザーの藤井明氏のご意見を参考にしました。
【過マンガン酸カリウム消費量とは】
過マンガン酸カリウム消費量とは、入浴者の汚れ、すなわち浴槽中の有機物がどのくらいあるかを調べる水質検査項目です。
入浴者が多くなれば、浴槽中の有機物量が多くなります。
過マンガン酸カリウム消費量が高くなり、基準値を超える場合、浴槽水の水質が不適となります。
なお、文京区条例に規定する浴槽水の水質基準では、過マンガン酸カリウム消費量が25 mg/L 以下となっています。
循環ろ過式浴槽の場合、たとえば、砂ろ過器を通して汚れが除去されるとともに、新鮮な湯の補給や消毒剤の添加などで、浴槽水の過マンガン酸カリウム消費量が下がり、通常は基準値以下の水質が保たれているのです。
【過マンガン酸カリウム消費量に影響する温泉成分】
①フミン質(腐植質)
温泉施設に掲示されている温泉分析書に、腐植質として数値が記入されていることがあります。
植物成分などが土壌中で分解、縮合して生成した暗黒色あるいは暗褐色の物質です。
一例では、10万年くらい前の地層で、シダ植物や海藻類が地中で分解されてできたといわれています。
フミン質は有機化合物であり、それを含んだ温泉は過マンガン酸カリウム消費量が高くなります。
東京23区の銭湯でも見られる黒湯は、フミン質を多く含んでいます。
フミン質の濃度が濃いほど、黒色に近くなり、濃度が低いと褐色や薄茶色に見えるといわれています。
黒湯は、過マンガン酸カリウム消費量が高くなり、条例の基準値を超えてしまうことがあります。
なお、参考までに、水道水の浄水過程では、フミン質と塩素剤とが反応してトリハロメタンが生成される可能性があります。
②チオ硫酸イオン
温泉分析書に、チオ硫酸イオンの項目があります。
チオ硫酸イオンは、還元性物質であり、過マンガン酸カリウム消費量を高めます。
塩素の中和剤のチオ硫酸ナトリウムは、レジオネラ水質検査用の滅菌容器や細菌検査用容器に入っています。
かりに、チオ硫酸ナトリウムの入っている容器で採水した試料を使い、過マンガン酸カリウム消費量を測定すると、数値が高くなり、基準値を超える可能性があります。
【温泉成分以外で数値を上げるもの】
有機物があれば、過マンガン酸カリウム消費量の数値が高くなります。
①入浴者による汚れ
入浴者が多くなれば、浴槽中の有機物が多くなり、過マンガン酸カリウム消費量が高くなる原因になると考えられます。
②浴槽の汚れ
浴槽の清掃不足があると、過マンガン酸カリウム消費量を高めるかもしれません。岩や石の構造物のすき間、浴槽璧や浴槽床のタイルの剥離箇所は、バイオフィルムの温床になりやすいところです。
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【TOCと過マンガン酸カリウム消費量】
TOCとは、全有機炭素のことです。
過マンガン酸カリウム消費量と同様に、浴槽水の汚れをみる水質検査です。
厚生労働省の「公衆浴場における水質基準等に関する指針」では、水質基準のなかに、TOCまたは過マンガン酸カリウム消費量として、両方が書かれています。
①TOCの原理
有機物を酸化分解して全炭素を直接的に計測する方法です。
実質的な全有機炭素量を測定できるとされています。
②TOCと過マンガン酸カリウム消費量との違い
浴槽水の水質検査では、TOCと過マンガン酸カリウム消費量は、相関関係があると考えられます。
過マンガン酸カリウム消費量の測定に影響するものを考慮すると、TOC測定が優位にあるといえるでしょう。
ただし、前記の「公衆浴場における水質基準等に関する指針」の浴槽水の水質基準で、こう注意書きがあります。
<塩素化イソシアヌル酸又はその塩を用いて消毒している等の理由により有機物(全有機炭素(TOC)の量)の測定結果を適用することが不適切と考えられる場合は、過マンガン酸カリウム消費量の測定で、25mg/L以下であることとする>
③TOCの優位性
TOC測定では、過マンガン酸カリウム消費量測定時の分析測定者の個人差の影響がなくなるといわれています。
同一人が実施しても精度を保つことができるといわれています。
【現場での原因物質の確認】
かけ流し温泉の浴槽水のみの検査では、過マンガン酸カリウム消費量が高くなる原因を特定しきれない場合があります。
そのときは、
①温泉の汲み上げ時の試料
②源泉水槽内の試料
③浴槽の落とし込み口の試料
④浴槽水の試料
以上の箇所の過マンガン酸カリウム消費量を測定することで、浴槽に入る前のブランクに相当する数値の把握ができるとともに、どこで何が原因かの究明が可能になると考えられます。
【過マンガン酸カリウム消費量の適用除外】
東京都特別区のある区の公衆浴場条例には、こう記載があります。
< 浴槽水の水質基準については、次のとおりとすること。ただし、区長は、この基準(ウ及びエの基準を除く。以下この号において同じ。)により難く、かつ、公衆衛生上支障がないと認めるときは、この基準の一部又は全部を適用しないことができる。 >
ア 濁度は、5度以下とすること。
イ 過マンガン酸カリウム消費量は、1リットルにつき25ミリグラム以下とすること。
ウ 大腸菌群数は、1ミリリットル中に1個以下とすること。
エ レジオネラ属菌は、検出されないこと。
たとえば、フミン質が多い黒湯の場合、過マンガン酸カリウム消費量が基準値を超えることがあると思われます。
衛生上支障ないと判断されれば、過マンガン酸カリウム消費量の項目が適用除外されると考えられます。
【環監の視点】
【過マンガン酸カリウム消費量に影響する温泉成分】
①フミン質(腐植質)
黒湯は、過マンガン酸カリウム消費量が高くなり、条例の基準値を超えてしまうことがあります。
②チオ硫酸イオン
チオ硫酸イオンは、還元性物質であり、過マンガン酸カリウム消費量を高めます。
塩素の中和剤のチオ硫酸ナトリウムは、レジオネラ水質検査用の滅菌容器や細菌検査用容器に入っています。
かりに、チオ硫酸ナトリウムの入っている容器で採水した試料を使い、過マンガン酸カリウム消費量を測定すると、数値が高くなり、基準値を超える可能性があります。
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【実績】
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。