【注意】冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その7)

【感染症予防のための避難所の環境整備】
①段ボールベッド・段ボール仕切りを使う
②食事スペースをつくる(対面に座らない)
③土足禁止にする(くつ箱の利用)

感染症予防のための避難所の環境整備(チラシ版)

上の画像をクリックすると、pdfが開き、印刷可能です。ご活用ください。

避難所の食事スペース(イメージ写真)

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。

次のとおり、感染症予防のための避難所の環境整備について、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。

全国保健師長会に情報提供しています。

ご活用ください。

内閣府の資料によると、1月12日(金)6時00分現在で、石川県では、避難所が408カ所に設けられ、避難者数が24,044人です。

命・健康を守るための広域避難がはじまり、1.5次避難の金沢市スポーツ施設、2次避難の石川県内の旅館・ホテルなどが移動場所になっています。

ライフラインについて、石川県内の断水状況は、1月12日(金)7時40分現在で、約57,852戸になっています。断水の原因は、水道管の破損、配水池破損、停電などによります。

県の水道の復旧作業が進められています。七尾市まで復旧がされると、給水車の補給地が近接になり、水を運びやすくなると思われます。

現状では、断水によりトイレの清掃ができないことで、衛生環境が悪化しています。

ノロウイルス感染症の発生を聞きました。

新型コロナやインフルエンザの感染者も複数出ています。

被災地の避難所の状況は、場所により差があるように感じています。

新聞記事からは、避難所では日々を過ごすだけで精一杯で、感染症対策をやるだけの余裕がないことが伝わってきます。

知人の災害医療関係者の話では、「現地は報道で見るより過酷で、おっしゃる通り寒さ対策も極めて重要でした」とありました。

一方で、テレビニュースで紹介された避難所のひとつは、くつ箱の設置、定期的な換気の実施、室内の大掃除などが実施されていました。

断水のなか、避難者の方の命・健康を守るため、感染症予防のための避難所の環境整備が、次の大切なステップになると思います。

感染症予防のための避難所の環境整備を考えてみます。

1 段ボールベッド・段ボール仕切りを使う

段ボールベッド、段ボール仕切りを使うのが有効です。

※ 段ボールベッド・段ボール仕切りの導入、土足禁止開始の際には、避難者の方にいったん生活スペースから移動していただき、室内の大清掃、室内の次亜塩素酸ナトリウム0.1%液による消毒をすることが大切です。

消毒の後、腐食しやすい金属部分は、水拭きするといいでしょう。

(1)段ボールベッド

段ボールベッド(イメージ写真)

段ボールは、中に空気層があり、表面が温まると中の空気層に温かい空気をためることができます。

一定の強度とともに、保温性がいいのが特徴です。

冬季の避難所では、段ボールの使用が理にかなっていると思います。

段ボールベッドの床面からの高さは、約35cmです。

製品の一例では、段ボールの箱を床面に並べて、その上に天板となる1枚の段ボール板を置いて、寝るスペースをつくります。

天板を入れると、高さは約37cmになります。

その高さは、寝ている人が、体を起こし、床に足をつけて立ち上がる動作を容易にします。

段ボールベッドの利点は、次のとおりです。

①床面から舞いあがる埃を吸い込みにくくなります。

埃に含まれる可能性のある新型コロナウイルス、ノロウイルスなどの吸い込みを防ぎます。

②床面からの冷えを伝わりにくくできます。

床面からの距離と、段ボールの保温性で、冷えの防止につながります。

段ボールベッドの下部分の段ボール箱は、製品によって箱の中が収納スペースになっていて、使うことができます。

段ボールベッドの大量生産時の価格は、1人分約4,000円と聞いたことがあります。

(2)段ボール仕切り

仕切りは、複数のメリットがあります。

・飛沫感染予防ができる。

・プライバシーの空間をつくることができる。

・保温効果がある。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大時には、避難所・避難生活学会が飛沫感染予防に高さ140~150cm のパーティションを推奨しました

段ボールベッドに座って咳をしたとき、飛沫が外に拡散するのを防ぐ高さです。

2016年の熊本地震のとき、熊本市の避難所では、同じ高さの約150cmの段ボール仕切りが使われていました。

新型コロナの前の避難所で多く見たのは、高さ90cm 程度のパーティションです。

高さ90cm は、昼間には通路を歩く人から中の避難スペースが見え、夜に段ボールベッドで寝るときにはお互いが見えなくなる高さです。

犯罪防止とプライバシー確保の両面から利点があります。

保温と飛沫感染予防の点からは、高さがあるほうがいいかもしれません。

私が主宰する自主研究「環監未来塾私塾」でご講演いただいた、日本赤十字看護大学附属災害救護研究所・災害救助技術部門客員研究員の栗栖茜氏のご意見を理解すると、次のとおりです。

冬季の避難所では、体からの放熱を使い、体のまわりを暖めるには、段ボール製パーティションができるかぎり接近しているほうがいいとされます。

体の放熱により、パーティションを温めることができるからです。

段ボールは、空気層があり、熱が逃げやすく温めやすい構造になっています。

パーティションの壁は温まりやすく、低体温症になりにくい環境をつくることができます。

※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

2 食事スペースをつくる

寝るスペースとは別に、食事スペースをつくることが大切です。

避難所の食事スペース(イメージ写真)

食事スペースをつくる利点は、次のとおりです。

①感染防止

食事前の手指消毒の徹底に目が届きやすく、感染防止につながります。

椅子に座って食事をすることで、床面からのウイルスを含んだ埃を吸い込みにくくなり、感染防止につながります。

②寝るスペースを清潔に保つ

食事の際に、まわりに食べ物や飲み物がこぼれると、ダニやカビを増やしてしまいます。

避難所が長期化すると、ダニやダニの糞、カビなどを吸い込んで呼吸器系疾患を誘発する可能性があります。

③食中毒を防ぐ

寝るスペースで食事をすると、食べ残しを手元に置いて、数時間後に食べることがあるかもしれません。

時間経過で細菌が増殖して、食中毒につながってしまう可能性があります。

食事スペースをつくることで、食べ残しを回収し、食中毒の防止につなげます。

※ 食事スペースは、新型コロナ感染防止の対応が必要です。

新型コロナ感染拡大時の取組を教訓にして、食事スペースづくりの注意点は対面に座らないことです。

具体的な食事スペースづくりの例は、次のとおりです。

①椅子を対面に置かない

食事のとき、正面で飛沫を受けないように、お互いが斜め前に座るように椅子を配置します。

②円卓を使う、テーブルをロの字型にする

正面で飛沫を受けないことが目的です。

サッカーのワールドカップのとき、日本チームは飛沫感染防止のため、円卓で食事をとったと聞きました。

③補助的に空気清浄機を使う

近い距離であれば、新型コロナウイルス除去に有効です。

なお、消毒用エタノールを多量に使用して空気中に残存していると、エタノールの影響で、空気清浄機のフィルター除去性能が低下することがあります。

避難所で新型コロナ感染が深刻なときは、パーティションや黙食の徹底も考えられます。しかし、心的ストレスの可能性があり、慎重に考えたほうがいいかもしれません。

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3 土足禁止にする

くつ箱を設置して、室内を土足で歩かないことが大切です。

避難所のくつ箱(イメージ写真)

東日本大震災の被災地の大規模避難所では、ノロウイルス感染症が100人を超えて発生しました。

感染が広がった背景は、次のとおりです。

・流行初期の各階は過密状態であり、汚物や汚染物の処理が不適切だった。

・手指衛生が十分に遵守されていなかった。

・生活用水の大半は共用トイレの水道を利用していたが、当初はトイレ清掃が不十分だった。

・乾燥してカーペットや毛布から粉じんが発生しやすい状態だったが、換気設備が不十分であり、効率的な換気を行うことが難しい状況だった。

別ページに、ノロウイルス感染症の詳しい記述があります。
こちら https://kankan-mirai.com/3308/

※ トイレで履いた靴、サンダル、スリッパなどは、避難スペースに持ちこまないことが大切です。

断水で、トイレの床を掃除できない場合、排泄物が床に付着しているなどしていて、靴に排泄物を着けたまま避難スペースに戻り、何らかの経路で口からノロウイルスが入ってしまう可能性があり、発症につながってしまいます。

室内履きをすることで、感染防止につなげます。

避難スペースでは、スポーツシューズ等の室内履きを使うことで、転倒しにくく、床からの冷気が伝わりにくくなります。

※ 土足禁止は、ノロウイルス感染症の予防とともに、靴の泥付着に伴うレジオネラ肺炎の原因菌の浮遊を抑えることにもつながります。

※ 避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。

チェックリスト一覧表

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【ご案内】

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【実績】

・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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