【注意】冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その1)
【避難所の衛生面の注意】
①トイレ(清潔、清掃・消毒の実施)
②手指消毒(トイレ後・調理前・食事前・外出後ほか)
③土足禁止(室内履きをはく)
上の画像をクリックすると、pdfが開き、印刷可能です。ご活用ください。
元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。
次のとおり、冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策の注意点(その1)<冬季の地震断水時の衛生面での注意点1>を、保健所・環境衛生監視員の視点からまとめています。
ご活用ください。
1 トイレ
小学校・中学校・公民館などの避難所では、断水時には当初、備蓄の携帯トイレや簡易トイレなど防災トイレが使用されます。
防災トイレは、既存のトイレ内のスペースに設置ができれば管理がしやすくなります。
※避難所を開設してすぐ、30分以内に男女各3個ずつ、計6個の備蓄品の簡易トイレをつくりましょう。
下水道が使用可能であれば、マンホールトイレが使用できます。
発災4日目までをめどに、仮設トイレが設置されていきます。
私の連載中の『シルバー新報』(環境新聞社)の「介護現場で役立つ災害時の知識」第14回で、避難所・避難生活と防災トイレ①を書いています。
(1)防災トイレの4種類
①携帯トイレ
携帯トイレは、断水時に排水ができない洋式便器等に設置して使用します。
便器に袋を二重にして便器にかけ、内側の袋を利用して排泄します。
携帯トイレは2種類あります。
ひとつはし尿を袋に溜めたあとに凝固剤を入れるタイプで、もうひとつはペットのトイレ用と同様な水分吸収剤が袋内に入ったタイプです。
②簡易トイレ
防災型で段ボールを組み立てて、腰掛けることができる簡易トイレがあります。
携帯トイレと組み合わせて、使います。
また、電気を使う機械式の簡易トイレは、ボタンの操作で、排泄後に個包装の形で自動的に袋の口が結ばれて切り離されるタイプのものがあります。
簡易トイレを設置するときは、1人分のスペースを覆うようなビニール仕切りやテントがあるといいでしょう。
③マンホールトイレ
マンホールトイレは、下水道管に接続する排水設備のマンホール上に設置するものです。
災害時にマンホールの蓋を外し、その上に便器や仕切り用のテントなどを設置します。
組み立て設置が比較的容易で、し尿を下水道管に直接、流すことができます。
ただし、下水道に損傷がある場合、使用ができません。
過去の災害現場で使用の際、夜間に中の明かりで人影が見えるなどしたことがありました。
現在は、テント生地が改良されているものもあります。
実際の確認が必要でしょう。
また、風によるテントの転倒が考えられるので、ロープ等での固定が必要になります。
④仮設トイレ
工事現場で使われているような仮設トイレです。
最近では、洋式のものが増えています。
男女別のほか、誰でもトイレの設置が大切です。
使用上及び防犯上、トイレ内の明かりの設置や、トイレまでの動線の明かりの設置が必要です。
風による転倒防止のため、ロープ等での固定が必要になります。
仮設トイレの下部には、排泄物を溜める便槽があり、容量は330~450L 程度です。
容量 450L とすると、仮に1人1日2L で計算して、225人1日分を溜めることができる計算です。
ここで、避難所の避難者を450人と想定して、仮設トイレが10台入り、すべて仮設トイレを使用すると仮定し、いつ満杯になるかを計算してみましょう。
仮設トイレの総容量は、450L × 10台 = 4,500L
1日あたりの排泄物量は、450人 × 2L = 900L
よって、何日可能かは、4,500L ÷ 900L/日 = 5日
計算上、避難所の避難者が450人の場合、仮設トイレ10台は、5日間で満杯になります。
※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください
(2)排泄物の保管
排泄物は、1人1日5~7回あり、1日量が1.5~2kg になるといわれています。
100人の避難者がいれば1日200kg、500人で1日1,000kg(1トン)になる可能性があります。
運搬車で収集がされるまで、どこに保管するかも大切です。
臭いや衛生上の問題があり、校舎の後ろ側や、砂を取り除いた砂場、空きになった動物飼育小屋などにシートを被せて保管するのが一案です。
その際、防臭袋があれば、臭いの抑止につながります。
(3)トイレの個数
「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和4年4月改定、内閣府・防災担当)によると、トイレの数の目安は次のとおりです。
災害発生当初:約50人あたり1個
避難が長期化するとき:約20人あたり1個
男女別、誰でもトイレのそれぞれの割合は、避難者の状況に応じてきめ、過去の災害例をみて女性用の数を多めにするのが実用的です。
(4)トイレの清掃
熊本地震被災地の益城町の避難所では、保健師の助言により、午前2回、午後2回、夕方1回の計5回のトイレ清掃がおこなわれていました。
清掃者は、感染症予防の観点から、清掃用の服やマスク、使い捨て手袋を着用するのが望ましいでしょう。
ノロウイルス感染症の予防の点からは、清掃後の消毒として、白雑きんやペーパー類に次亜塩素酸ナトリウム0.1%液(1,000ppm)を浸み込ませて、手が触れる扉の取っ手や水流しハンドルなどを拭くことが大切です。
次亜塩素酸ナトリウム使用後の金属部分の腐食防止を考えて、消毒5分後に水拭きするといいでしょう。
発災当初、たとえば、自主防災組織の方たちが清掃を受けもつことが考えられます。
一部の人に負担が片寄らないように、早い段階で、災害ボランティアや避難者の協力者の方といっしょに実施可能なしくみができるといいでしょう。
トイレの清掃手順の一例は、次のとおりです。
※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください
2 手指消毒
断水で手洗いができない場合、消毒用エタノールやベンザルコニウム塩化物液のスプレー剤を利用するのが現実的です。
手指消毒は、トイレ後・調理前・食事前・外出後ほかに実施しましょう。
設置場所は、トイレの洗面台付近、避難所の出入り口、食事提供の場所など、きめ細かく置くことができるといいと思います。
消毒剤が十分にないときは、ウェットティッシュを使い、手指を拭くことで代用します。
発災当初、人的余裕があれば、手指消毒設置場所に保健係の人を配置して、手指消毒の徹底を呼びかけるのも大切でしょう。
3 土足禁止
令和6年能登半島地震の被災地の避難所の光景を、ニュース画面で見ました。
体育館の床に敷かれたシート・畳類の脇に、土足が並んでいました。
過去の災害時の感染症発生事例で、感染者数が多かったのはノロウイルス感染症です。
トイレが発災当初に排泄物の床への付着など汚れることが多くあり、靴に排泄物を着けたまま避難スペースに戻り、何らかの経路で口からウイルスが入ってしまう可能性があり、発症につながってしまいます。
避難スペースでの土足禁止が、有効な衛生対策になります。
次のような対応が、衛生・感染症対策として有効です。
・発災当初の混乱時、ビニール袋(レジ袋)に土足を入れて、各自が管理する。
・避難スペースでは、スポーツシューズ等の室内履きを使う。
足にフィットした室内履きは、転倒しにくく、床からの冷気を伝えにくくします。
・室内履きがない場合、スリッパを使用する。
・落ち着いた段階で、下足箱を利用して、靴の管理をする。
なお、土足禁止は、ノロウイルス感染症の予防とともに、靴の泥付着に伴うレジオネラ肺炎の原因菌の浮遊を抑えることにもつながります。
『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。避難所のアセスメントでお使いください。
画像をクリックすると、pdfが開きます。
【ご案内】
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【実績】
・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。