【環監・保健師入門】レジオネラ症対策・冷却塔の衛生管理
【環監の視点】
冷却塔からのエアロゾル飛散によるビル周辺のレジオネラ症感染者の発生をみると、清掃時には飛散防止の措置が必要と考えられます。
すなわち、冷却塔の清掃前に、高圧洗浄等によるエアロゾルが飛散しないように、冷却塔の外側を覆うようにシート類を張ることが大切です。
こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員(環監)で、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2023(令和5)年11月中旬、都内で開催された第5回 Hospital Water Hygiene 研究会学術集会(主催:Hospital Water Hygiene 研究会、会場及びオンライン)に会場で参加しました。
学術集会は、レジオネラ症対策など、医療機関の Water Hygiene(水の衛生) 対策を考える内容です。
レジオネラ研究者、病院関係者、行政関係者など、全国から100人を超える参加者がありました。
内容は、講演、シンポジウム、一般演題の発表でした。
シンポジウム「設備・管理・対策」のなかで、「冷却水系のレジオネラ対策」井上浩章氏(抗レジオネラ用空調水処理剤協議会)の報告がありました。
今回は、井上氏の講演内容を理解したうえで、レジオネラ症対策・冷却塔の衛生管理を解説します。
【宮城県の事故事例】
今年、宮城県内の病院の冷却塔が汚染源と考えられるレジオネラ症の集団発生事例がありました。
宮城県の集団発生事例は、次のリンク先に資料があります。URLをコピーしてご確認ください。
https://www.pref.miyagi.jp/documents/48529/legionnaire_03_20230911.pdf
【冷却塔の仕組み】
別ページに説明があります。
こちらからご覧いただけます
https://kankan-mirai.com/2946/
【冷却塔のレジオネラ汚染がどのように起こるか】
冷却水は、配管を循環していると、蒸発して濃縮され、冷却水中の物質も濃縮されていきます。
冷却塔が大気と接触している構造なので、塵、埃が取り込まれていきます。
冷却水系が20~40℃程度の環境のなかで、清掃や殺菌剤使用がないと、汚れが増え、微生物が増殖していくのです。
冷却塔の水が流れ落ちる充填材にも、汚れがついていきます。
演者の井上氏の写真では、充填材に黒色の生物膜(バイオフィルム)や緑色の藻類がびっしり着いていました。
充填材の汚れ、下部水槽の汚れのなかに、レジオネラ属菌が生息している可能性があるのです。
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【冷却塔からの飛散】
冷却塔からのレジオネラ属菌を含んだエアロゾルの飛散で、フィラデルフィアの事例では、ビル周囲200mで患者が出ています。
ロンドンの事例でも同様でした。
イギリスでは、サーベランスにより半径500mの範囲で調査、その範囲終了後半径1,000mに拡大されるとのことです。
前述の宮城県の病院の集団感染事例では、半径3キロの範囲で感染者が出ていると報告がありました。
【冷却塔の清掃時の注意点】
冷却塔からのエアロゾル飛散によるビル周辺のレジオネラ症感染者の発生をみると、清掃時には飛散防止の措置が必要と考えられます。
すなわち、冷却塔の清掃前に、高圧洗浄等によるエアロゾルが飛散しないように、冷却塔の外側を覆うようにシート類を張ることが大切です。
目視で、冷却塔の充填材や下部水槽に汚れが確認できるときは、こうした措置を実施することが今後、大切になると考えます。
【殺菌剤の使用】
レジオネラ属菌の増殖を抑えるため殺菌剤の使用が有効です。
殺菌剤の投入には、2つの方式があります。
①タイマー注入方式
タイマーをセットして、定期的に下部水槽に注入します。
②補給水比例注入方式
蒸発等で減少した水量を下部水槽に補給するとき、同時に下部水槽に薬剤を注入します。
2つの方式で稼働しても、下部水槽等で汚れがひどい場合、殺菌剤が消費されてなくなるケースがあります。
そのときは、下部水槽へ手投入します。
殺菌剤使用で、9割以上の施設がレジオネラ属菌不検出になっています。
【殺菌剤を使用してもレジオネラの抑制効果が弱い場合】
次の原因が考えられます。
①殺菌剤の添加量や濃度が計画より少ない
ポンプ故障等の薬注装置の不良や、下部水槽の量に比べて添加量が少なく濃度が低いケースが考えられます。
②殺菌剤の有効成分濃度が低下
バイオフィルム多量により殺菌剤が消費されたり、水質成分と反応したりして濃度が下がることが考えられます。
自然に、徐々に分解する可能性もあります。
③レジオネラの生息に好適な環境の存在
バイオフィルムやアメーバ類が多く存在するケースです。
下部水槽に土砂が沈澱すると、バイオフィルムがつきやすくなり、菌が増える傾向があります。
【冷却水系のレジオネラ検出状況】
冷却水のレジオネラ属菌検査では、PCR陽性率が97.6%となっていて、生菌を調べる平板培養法(培養法)を使うのが一般的です。
抗レジオネラ用空調水処理剤協議会のデータでは、冷却水からレジオネラ属菌が検出されるのは1割少しとなっています。
通年このような傾向があるとされています。
【環監の視点】
冷却塔からのエアロゾル飛散によるビル周辺のレジオネラ症感染者の発生をみると、清掃時には飛散防止の措置が必要と考えられます。
すなわち、冷却塔の清掃前に、高圧洗浄等によるエアロゾルが飛散しないように、冷却塔の外側を覆うようにシート類を張ることが大切です。
目視で、冷却塔の充填材や下部水槽に汚れが確認できるときは、こうした措置を実施することが今後、大切になると考えます。
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【実績】
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。