【地震断水時】避難所・避難生活の水の衛生
【地震断水時】避難所・避難生活の水の衛生
1 水質レベルと利用用途
2 水の種類と水質
3 トイレの衛生
4 公衆浴場等の衛生
5 環監の視点(日常業務を活かす)
上の画像をクリックすると、pdfが開きます。ご活用ください。

(1995年、阪神・淡路大震災被災地の避難所)
こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所の衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2026(令和8)年1月6日(火)に、島根県東部で地震が起きました。
気象庁の資料によると、震源が深さ11km、地震の規模(マグニチュード)が6.4 でした。
地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。
鳥取県南部町では、地震の影響で水源地の水が濁り、当初、一部の地域で水道水の供給ができなくなりました。
報道で理解したのは、約1,000世帯が断水の影響を受けたことです。
給水車により水の供給がされている映像を見ました。
南部町のホームページでは、水洗トイレについて、お風呂にためてある水や、バケツに入れておいた水、または河川の水などを使用してくださいという旨の内容が書かれています。
1月8日夜のニュース映像では、小学校のトイレ入り口に、水をくんだポリバケツが並べられているのを見ました。
学校の教諭が、大便器でポリバケツを使った水の流し方を、子どもたちに見せていました。
1月8日には、水の濁りがあるものの、送水が再開されました。
南部町のホームページの映像を見ると、透明な茶色の水です。土が入りこんだような色に見えます。鉄分が入りこんだときも同様の色になります。
保健所・環境衛生監視員の視点から、濁度が水道法水質基準を超えて、飲料水として不適合になっていると推測されました。
南部町から、飲み水や料理に使用しないでくださいと呼びかけられています。
また、南部町のホームページに、「入浴施設の無料開放について」が掲載され、複数の入浴施設、温泉施設が挙がっています。
今回は、【地震断水時】避難所・避難生活の水の衛生について、これまでの私の被災地での避難所衛生対策活動を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。
別ページに、能登半島地震関連で【地震断水時の生活用水と衛生】を書いたページがあります。
>>能登半島地震関連の【地震断水時の生活用水と衛生】のページはこちら
1 水質レベルと利用用途
衛生を考えた水質のレベルは、次のとおりです。
私の共著『雨の建築学』(日本建築学会、北斗出版)の「水質レベル別に見た利用用途」を参考にしました。
(水質レベル別に見た利用用途)
水質レベル(水質レベルの高い順)
①飲用、料理
健康被害のない水質
例:水道法水質基準に適合した水
②洗面、手洗い、入浴
感染症予防を考えた衛生が確保された水
③洗濯
皮膚にふれる(間接)
汚染や濁りがない水が望ましい
④掃除
汚れが移行しない水質が望ましい
⑤便器洗浄、散水
エアロゾル(水滴のミスト)の発生がほとんどない状況ならば、低い水質でも使用可能と考える。
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2 水の種類と水質
(1)水道水
①水質基準
水道法関係の水質基準に関する省令では、こう書かれています。
<水道により供給される水は、次の表の上欄に掲げる事項につき・・・・・・基準に適合するものでなければならない。>
2026年1月10日現在、水質基準は、51項目があります。
主な項目は、次のとおりです
・一般細菌 :100/mL 以下
・大腸菌 :検出されないこと
・有機物(TOC):3 mg/L 以下
・pH値 :5.8~8.6(中性付近)
・味 :異常でないこと
・臭気(におい):異常でないこと
・色度(いろ) :5度以下
・濁度(にごり):2度以下
・塩化物イオン :200 mg/L 以下
地方公共団体の水道局の水道水、湧き水や地下水などを処理して供給する簡易水道の水などは、水質基準に適合していることになります。
②給水車の水
浄水場から水道水を運ぶ給水車の水は、基本的に水質基準に適合した水ということができます。
③水道水の消毒
水道水は、経口の感染症を防ぐため、給水栓の末端で、消毒の遊離残留塩素濃度が 0.1 mg/L 以上保つこととされています。
浄水場で塩素消毒がされ、通常、給水栓の末端で 0.3~0.4 mg/L程度の濃度があります。
ため置きをすると、濃度が下がっていきます。
給水タンクに、ため置いて使用する場合、定期的に測定器で遊離残留塩素濃度を確認することが大切です。
(2)井戸水(地下水)
①家庭用の井戸・飲むかは自己責任の範囲
浅井戸といわれる深さ10m前後の井戸水は、地表の排水や雨の影響を受けやすいといわれています。
深井戸といわれる深さ100m前後の井戸水は、地層のろ過を経ているので、比較的良好な水質を得られます。
井戸水の場合、水道法が適用されません。
井戸水を飲む場合、最低限、水道水と同じように、水道法の水質基準51項目に適合することが必要になるでしょう。
通常、家庭用の井戸水について、飲むときは自己責任の範囲となります。
②水質の注意点
井戸所有者は、前記した水質項目の、目安となる10項目程度の水質基準の検査を受けているケースがあります。
重要なのは、大腸菌が検出されないことです。
大腸菌不検出は、人や動物のし尿による汚染がない井戸水ということです。
③井戸水の使用用途
飲み水や調理以外で使う場合、トイレの流し水、洗濯、浴槽水など広い用途で使用可能だと思います。
(3)その他
①雨水
能登半島地震の被災地の映像では、川の水、雨水が洗面器やたらいなどに入れられ、生活用水に使われているのを見ました。
雨水は、水源としては、水道水の河川水より良質な水質です。
雨水の水質検査結果の一例は、次のとおりです。
・一般細菌:20/mL
・大腸菌 :不検出
・pH値 :7.6
屋根に降った雨を貯めることで、良質な水を確保することができます。
②工業用水
阪神・淡路大震災のときには、小学校の避難所で、校門を入ったところに、5m3くらいのシート製の生活用水タンクがありました。
タンクには、工業用水が入っていました。
主にトイレの流し水に使われていました。
工業用水は、水源が河川やダム湖などです。
水質については、たとえば、愛知県工業用水の水質基準は次のとおりです。
・濁度(にごり):15度以下
・pH値 :6.0~7.5(中性付近)
③河川水、湧き水、プール水など
たとえば、河川水は、場所により、生活排水や農業排水、工場排水、下水処理水などが入りこんでいて、水質の状況を正確に把握するのは難しいと思います。
河川水、湧き水、夏季以外にプールに溜まった水など、水質がはっきりしないものは、トイレの流し水・清掃に使うことができると考えられます。
なお、学校プールの水は、消防用の防火水槽を兼ねている場合があります。
災害時に使用可能かを、事前に確認できるといいでしょう。
3 トイレの衛生
(1)トイレ使用後の手洗い
水道水に濁りがあっても、石けんを使い流水で手の汚れを洗い落とすことに利用が可能だと思います。
(2)バケツ排水と感染症
断水時のトイレのバケツ排水について、能登半島地震の被災地で、問題点を感じた医師がいました。
発災当初、避難所のひとつは、プールの水をバケツリレーで運んで使い、トイレを流していました。
しかし、トイレ内に水が散るため、ポリ袋に凝固剤を入れるやり方に変えたのです。
バケツ排水により、水とともに排泄物が便器まわりに飛び散ると、履き物や手、衣服に付いて、ノロウイルス感染症の発生や感染拡大につながる可能性を感じたのだと思います。
家庭用トイレでは、便器の奥に置かれて水をためるロータンクがあれば、ロータンクの中に水をためる方法がいいでしょう。
ロータンクに水を入れたあとは、通常どおり、レバーを倒して水を流せば、トイレを排水することができます。
(3)トイレの清掃
断水で、バケツ排水を使っている場合、感染症予防を考え、定期的なトイレの清掃・消毒が大切だと思います。
熊本地震被災地の益城町の避難所では、保健師の助言により、午前2回、午後2回、夕方1回の計5回のトイレ清掃がおこなわれていました。
清掃する人が限られていれば、午前1回、午後1回、夕方1回の計3回のトイレ清掃でもいいと思います。
ご参考までに、日本トイレ研究所のホームページで、衛生面に配慮した避難所等でのトイレそうじ方法が紹介されています。
次のURLをコピーして検索すると当該ページに行きます。
https://www.toilet.or.jp/dtinet/311/seisou.pdf
宮城県など東北感染制御ネットワークの作成した、トイレの清掃方法のポスターがあります。
次のURLをコピーして検索すると当該ページに行きます。
http://www.tohoku-icnet.ac/shinsai/images/pdf/hotline07.pdf
4 公衆浴場等の衛生
私のこれまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験や調査によると、災害時の無料開放施設の公衆浴場等に、1日あたり、通常の利用人数の5倍以上になる可能性があります。
日常どおりの衛生管理、循環ろ過処理などでは、水質の維持が難しいケースがあるかもしれません。
公衆浴場等のレジオネラ症対策を踏まえて、私が推奨する衛生管理は次のとおりです
(1)毎日換水
利用者が5倍以上になると、循環ろ過による浴槽水の浄化が難しくなります。
水質がわるくなった湯を翌日まで使うのではなく、浴槽の湯を毎日抜いて、新鮮な湯と取り換えるのが大切です。
浴槽の換水をすることで、浴槽自体の清掃が可能になります。
(2)浴槽水の消毒の注意点
レジオネラ症対策では、一般的に条例で、消毒に有効な遊離残留塩素濃度を、0.4 mg/L以上に保つことが規定されています。
消毒の塩素は、入浴者が増えることで汚れにより消費がされ、濃度が下がります。
日常の浴槽水の塩素濃度を、0.4~0.6 mg/L くらいにする施設があります。
災害時には、通常より高めの、1.0 mg/L 程度の濃度を目安にするといいと思います。
5 環監の視点(日常業務を活かす)
飲み水に関係する水道法や、入浴施設の衛生管理に関係する公衆浴場法・旅館業法の業務をおこなっているのが、保健所・環境衛生監視員です。
そうした日常業務の知識・スキル・経験を、災害時の衛生対策活動で活かすことができると思っています。
日常であっても、災害時であっても、市民の健康をまもる使命は、保健所・環境衛生監視員にとって変わらないと思います。
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【活動実績】
(本・図書・出版物)
・2025年、介護保険専門紙『シルバー新報』(環境新聞社)で「介護現場のBCP 災害時の知識」を連載中です。
・2025年、月刊誌『クリンネス』(イカリホールディングス株式会社)で「衛生視点で感染症・災害時のBCPを考える」を連載中です。
・2022年、本『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
・2021年、専門誌『生活と環境』(一般財団法人日本環境衛生センター)で「災害時の居住環境 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」を連載しました。
・2020年、『災害時の保健活動推進マニュアル』(日本公衆衛生協会・全国保健師長会、令和2年3月)で「生活環境衛生対策」(避難所の環境衛生管理アセスメント)を分担執筆しました。
(活動)
被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
・2024年、能登半島地震(石川県、珠洲市、七尾市)
奥能登豪雨(石川県、珠洲市)
・2019年、令和元年台風19号(長野市、いわき市)
・2018年、西日本豪雨(倉敷市)
・2016年、熊本地震(熊本市)
・2011年、東日本大震災(気仙沼市)
(調査活動)
・1995年、阪神・淡路大震災
(講師)
・2025年、神奈川県公衆衛生協会平塚支部講演会「災害時の公衆衛生活動、~災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策、保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2025年、豊田市役所研修「災害時の避難所等における衛生対策に関する研修」
・2025年、豊橋市保健所研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~避難生活で健康を守るポイント~」
・2025年、日本災害食学会・災害食専門員研修会「災害時の水の安全・衛生」
・2024年、神奈川県公衆衛生学会「シンポジウム・避難所における健康危機管理」
・2024年、宮城県気仙沼圏域研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、宮城県登米地域災害対応研修「災害時における環境衛生対策」
・2024年、愛知県看護協会・研修会「災害時の生活環境衛生対策の課題と実際」
・2024年、福井県嶺南地域保健・福祉・環境関係職員研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会「災害時の避難所の衛生、感染症対策」
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会・特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」
(学会)
・2025年、第30回日本災害医学会総会・学術集会「サーモグラフィ画像を活用した避難所の環境衛生管理」
・2025年、第52回建築物環境衛生管理全国大会「能登半島地震被災地の公衆衛生活動者を支援するためのIT活用の成果」
・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、第48回建築物環境衛生管理全国大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の避難所の施設・空気環境の実態」奨励賞受賞
・2020年、第79回日本公衆衛生学会総会(オンライン開催) 「令和元年台風19号被災地の避難所における空気環境等の実態」
・2012年、第39回建築物環境衛生管理全国大会「東日本大震災被災地の避難所の施設・空気環境の実態」最優秀賞受賞

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