【冬季の避難所】空気環境とインフルエンザ対策・加湿

【空気環境とインフルエンザ対策・加湿】
1 インフルエンザ感染と湿度
2 建築物衛生法の視点
3 加湿方法のいろいろ
4 加湿器の衛生管理のポイント
5 環監の視点(日常業務と災害時活動を結びつける)

上の画像をクリックすると、pdfが開きます。ご活用ください。

加湿器の水タンクほかの洗浄・殺菌
(2019年、台風19号被災地の避難所で)

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所の衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2025(令和7)年11月18日(火)に、大分市佐賀関で大規模な火災が発生しました。

火災地域の皆様へお見舞い申しあげます。

令和7年12月15日(月)付の大分県災害対策連絡室「令和7年11月18日 大分市佐賀関の大規模火災 災害情報について(第23報)」によると、12月15日12時時点で、佐賀関公民館(佐賀関市民センター内)に48世帯、67人のかたが避難しています。

最大避難者数は、11月18日(火)23時時点の121世帯、180人のかたでした。

11月25日(火)昼のテレビニュースを見て理解したのは、24日時点で、避難所でインフルエンザ患者14人が確認されたということです。

別のニュース映像では、予防内服として希望者にタミフルを配布しているのを見ました。

今回は、冬季の避難所の空気環境とインフルエンザ対策・加湿について、これまでの私の被災地での避難所衛生対策活動を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。

別ページに、【大規模火災】避難所の空気環境とインフルエンザ対策について、詳しく書いています。

その1は、温度・湿度の視点から考えました。

その2は、飛沫感染対策の視点から考えました。

今回は、【冬季の避難所】空気環境とインフルエンザ対策・加湿を考えていきます。

1 インフルエンザ感染と湿度

(1)厚生労働省のインフルエンザQ&A

厚生労働省ホームページのインフルエンザQ&Aで、「インフルエンザの予防・治療のについて」の「適度な湿度の保持」に、こう記述があります。

<空気が乾燥すると、気道粘膜の防御機能が低下し、インフルエンザにかかりやすくなります。特に乾燥しやすい室内では、加湿器などを使って適切な湿度(50~60%)を保つことも効果的です>

湿度を含めて、予防の有効な方法として、次の項目が挙げられています。

①流行前のワクチン接種
②外出後の手洗い等
③適度な湿度の保持
④十分な休養とバランスのとれた栄養摂取
⑤人混みや繁華街への外出を控える

⑤のなかで、ある程度、飛沫感染等を防ぐことができる不織布製のマスク着用が、一つの防御策として挙げられています。

(2)東京都の建築物衛生のページ

ビル利用者のインフルエンザの予防について、ページがあります。

<インフルエンザ流行時には、換気量を確保しウィルスを外に排出するとともに、喉や鼻の粘膜を乾燥から保護するため、適正な湿度の保持が重要です>

空気の乾燥は、鼻・喉・気管などにある粘膜の繊毛の働きを弱めて、ウイルスによる感染が起こりやすくなるといわれています。

興味深いのは、湿度ごとのインフルエンザウイルスの生存率の折れ線グラフ(Harper 1961)です。

温度10℃、温度22℃のとき、湿度が20%であれば、インフルエンザウイルスの生存率が60%を超えています。

ちなみに、温度22℃、湿度50%では、生存率が10%を下回ります。

湿度が低いと、インフルエンザウイルスの生存率を高めてしまうのです。

感染者のくしゃみや咳により、気道分泌物の小粒子に含まれて飛散したウイルスの一部は、空気中に浮遊したり、床に落ちたあと再び埃とともに空気中に舞ったりします。

湿度が低い状態がつづけば、ウイルスの生存とともに、感染の機会が増えてしまいます。

冬季の室内では、湿度アップが大切になります。

また、換気をして、空気中のウイルスを除去することも大切です。

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2 建築物衛生法の視点

(1)空気環境の基準

二つの基準があります。

①建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)

・温度      18~28 ℃
・湿度      40~70 %
・二酸化炭素濃度 1,000 ppm 以下
・一酸化炭素濃度   6 ppm 以下
・浮遊粉じん量   0.15 mg/L 以下

②学校環境衛生基準

・温度      18~28 ℃ 望ましい
・湿度      30~80 % 望ましい
・二酸化炭素濃度 1,500 ppm 以下 望ましい
・一酸化炭素濃度   6 ppm 以下
・浮遊粉じん量   0.10 mg/L 以下

建築物衛生法の対象の、床面積3,000m3の事務所・店舗などのビルは、空調設備・換気設備をもつ施設がほとんどです。

基本的に、機械的な調整によって、空気環境が保たれています。

一方、学校環境衛生基準は、窓開けの自然換気による教室も対象になっています。

したがって、建築物衛生法と比べて、幅が広い基準値があります。

※避難所では、厳密な空気環境基準はありません。

(2)温度・湿度の目安

冬の暖房時の室温の目安は、18~22℃です。

冬の暖房時の室内湿度の目安は、40~50%です。

温度・湿度は、東京都の「健康・快適居住環境の指針」を参考にしています。

(3)相対湿度

通常、私たちが湿度と言っているのは、相対湿度のことです。

空気中にこれ以上水分をもてない状態を湿度100%として、どのくらいの水分量があるのかを示したのが、相対湿度です。

温度によって、その空気がもてる水分量がきまっています。

温度が高いほど多くの水分を含むことができます。

たとえば、気温10℃のとき、空気は 1 m3あたり最大 9.4 gの水分量をもつことができます。

気温 20 ℃のときは、17.3 gの水分量をもつことができます。

空気中に同じ水分量があっても、温度により湿度の数値が変わります。

夜、寝るとき、気温 20 ℃、湿度 50 %として、夜中から明け方にかけて室内の温度が下がると、湿度が80~90 %になることがあるのです。

3 加湿方法のいろいろ

(1)建物内の加湿

空調機の一部に加湿装置を設けています。

空調機の空気調和の工程で、加温したあとに加湿するやり方です。

加湿の一例は、気化式の原理を使い、エレメントといわれる、小さな穴が多数あいたプラスチック板に水を流し、温めた空気をエレメントに触れさせて加湿する方法です。

空調機に加湿装置が組み込まれたタイプのほか、比較的に小さな空間の事務室や会議室などでは、天井に単独で加湿装置を埋め込むこともあります。

別ページに、天井埋込型の加湿機の写真があります。

高齢者施設のなかには、適切な湿度を保つため、フロアごとに専用の加熱式加湿装置を設けているところもあります。

(2)家庭の卓上型加湿器

家庭用の卓上型加湿器は、四つのタイプがあります。

①加熱式:ヤカンでお湯を沸かす原理です。

②気化式:濡れタオルに風をあてる原理です。

③超音波式:水分子に超音波をふれさせて、水分子を空気中に出す原理です。

超音波式は、過去に、レジオネラ肺炎の感染源と考えられた報告例があります。

④ハイブリッド型:上記の三つの方式の二つを、組み合わせたものです。

別ページに、加湿器のイラストと詳しい解説があります。

4 加湿器の衛生管理のポイント

家庭用の卓上型加湿器の衛生管理のポイントは、次のとおりです。

<加湿器のタンク>

・ 毎日残留塩素を含んだ水に入れ替える。

・ タンクを洗浄・殺菌する。(週1回以上)

・ 長期間使用しないときは水を抜き、洗浄してから乾燥させる。

<使用水>

・ 水道法の水質基準に適合していること。

・ 湯水やミネラルウォーターなど、残留塩素が含まれない水を使用しないこと。

<加湿フィルター>

・ 定期的に洗浄し、必要に応じて交換する。

◎加湿機能のある以下の設備についても衛生管理が重要です

・ 空気調和設備の加湿装置

ドレンパン(結露水の受け皿)を定期的に清掃する。

・ 加湿機能付きの空気清浄機

加湿器に準じて衛生管理を行う。

5 環監の視点(日常業務と災害時活動を結びつける)

先日、私が講師をつとめた研修会「災害時・避難所の衛生対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」に参加した保健師のかたが、こんな話をしていました。

「現場で、環境衛生上の問題点に気がつけば、自分で解決できなくても、詳しい担当者につなぐことができる」

保健所・環境衛生監視員(環監)は、日常業務で建築物衛生法や、関係法令などに空気環境の基準がある理容師法・美容師法・興行場法等を担当しています。

日常業務で空気環境の測定にふれている環監は、災害時活動で保健師に協力して、避難所の空気環境の改善のために、空気環境の測定・解析、改善策の提案をすることができると思っています。

これまでの私の災害時の避難所衛生対策活動の経験から、環監の日常業務の延長線上に災害時活動があると感じています。

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【活動実績】

(本・図書・出版物)

・2025年、介護保険専門紙『シルバー新報』(環境新聞社)で「介護現場のBCP 災害時の知識」を連載中です。

・2025年、月刊誌『クリンネス』(イカリホールディングス株式会社)で「衛生視点で感染症・災害時のBCPを考える」を連載中です。

・2022年、本『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

・2021年、専門誌『生活と環境』(一般財団法人日本環境衛生センター)で「災害時の居住環境 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」を連載しました。

・2020年、『災害時の保健活動推進マニュアル』(日本公衆衛生協会・全国保健師長会、令和2年3月)で「生活環境衛生対策」(避難所の環境衛生管理アセスメント)を分担執筆しました。

(活動)

被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。

・2024年、能登半島地震(石川県、珠洲市、七尾市)  
      奥能登豪雨(石川県、珠洲市)
・2019年、令和元年台風19号(長野市、いわき市)
・2018年、西日本豪雨(倉敷市)
・2016年、熊本地震(熊本市)
・2011年、東日本大震災(気仙沼市)

(調査活動)

・1995年、阪神・淡路大震災

(講師)

・2025年、神奈川県公衆衛生協会平塚支部講演会「災害時の公衆衛生活動、~災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策、保健所・環境衛生監視員の視点から~」

・2025年、豊田市役所研修「災害時の避難所等における衛生対策に関する研修」

・2025年、豊橋市保健所研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~避難生活で健康を守るポイント~」

・2025年、日本災害食学会・災害食専門員研修会「災害時の水の安全・衛生」

・2024年、神奈川県公衆衛生学会「シンポジウム・避難所における健康危機管理」

・2024年、宮城県気仙沼圏域研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」

・2024年、宮城県登米地域災害対応研修「災害時における環境衛生対策」

・2024年、愛知県看護協会・研修会「災害時の生活環境衛生対策の課題と実際」

・2024年、福井県嶺南地域保健・福祉・環境関係職員研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」

・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」

・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会「災害時の避難所の衛生、感染症対策」

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会・特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」

(学会)

・2025年、第30回日本災害医学会総会・学術集会「サーモグラフィ画像を活用した避難所の環境衛生管理」

・2025年、第52回建築物環境衛生管理全国大会「能登半島地震被災地の公衆衛生活動者を支援するためのIT活用の成果」

・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」

・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」

・2021年、第48回建築物環境衛生管理全国大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の避難所の施設・空気環境の実態」奨励賞受賞

・2020年、第79回日本公衆衛生学会総会(オンライン開催) 「令和元年台風19号被災地の避難所における空気環境等の実態」

・2012年、第39回建築物環境衛生管理全国大会「東日本大震災被災地の避難所の施設・空気環境の実態」最優秀賞受賞

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