【環監・保健師向け】大雨浸水地の感染予防対策
2025(令和7)年8月11日現在、前線や低気圧の影響、線状降水帯の発生で、九州地方や中国地方などで記録的な大雨となりました。熊本県に大雨特別警報が発表されました。大雨による浸水被害が考えられる為、過去の対策記事を一部加筆修正して再掲載します。
【大雨浸水地】注意する主な感染症
①レジオネラ:土埃の吸込(マスク着用)
②破傷風:外傷(頑丈な靴底)
③レプトスピラ:汚水の接触(防水ズボン等着用)
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元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
大雨の地域の皆様へお見舞い申しあげます。
今回は、大雨浸水地の感染予防対策についてふれます。
過去の水害で、避難所・ボランティア作業での感染症発生リスクについて、国立感染症研究所のホームページに「令和3年夏季の水害に関して被災地域において注意すべき感染症について(2021年7月9日現在)」として掲載されています。
掲載ページのURLは、次のとおりです。コピーして検索してください。
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/disaster/r3-7/10512-44378.html
このなかで、泥、土、汚水などから感染の可能性のある三つの感染症、レジオネラ、破傷風、レストスピラに注目します。
①レジオネラ
奥能登豪雨のとき、2024(令和6)9月28日(土)のテレビのニュース映像で、床上浸水した仮設住宅での清掃ボランティアの様子がありました。
インタビューを受ける高校生のまわりで風が吹いて、後ろがかすむくらいに土埃が舞っていました。
私は、高齢者のかたのレジオネラ肺炎感染のリスクを感じました。
(感染例)
レジオネラ属菌は、レジオネラ肺炎の原因菌で、土壌中にいる常在菌です。
高齢者や基礎疾患のあるかた、過労など、免疫力が下がった状態で、感染リスクが高まります。
潜伏期間2~10日間で、レジオネラ肺炎は、高熱、全身倦怠感、筋肉痛、吐き気、下痢、意識障害などがおもな症状です。
令和元年台風19号被災地で、レジオネラ肺炎の感染例がありました。
浸水被災地で業務をしていた男性が、土埃を吸い込み、レジオネラ肺炎に感染したのです。
東日本大震災に関連するレジオネラ症の報告では、がれき撤去作業や浸水建造物清掃が感染経路と考えられるものが4例ありました。
河川氾濫や堤防越水等の水害被災地では、市街地等に広がった浸水に伴い、河川の底や堤防付近等の泥が多量に運ばれた後、乾燥して土埃となって空気中に舞い、レジオネラ症を引き起こす可能性があるのです。
(水害浸水地のレジオネラ属菌の存在)
私の調査で、令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥からレジオネラ属菌の生菌が検出されました。
令和4年台風15号による大雨被災地の泥からもレジオネラ属菌の生菌が検出されました。
(対応)
・屋外の着替えスペース:避難所では、衣服の土埃や泥が室内に持ち込まれないように、屋外に衣服の着替えスペースを設ける。
・靴箱と靴洗いスペースの屋外設置:避難所では、衣服と同様に、土や泥を室内に持ち込まない。
・玄関周りの水撒き:定期的に水撒きをして、土埃が立ちにくいようにする。
・マスクの着用:土埃が舞う可能性があるとき、屋外ではマスクを着ける。屋内で、外から土埃が入る可能性があれば、マスク着用が推奨される。
②破傷風
破傷風菌がつくる毒素によって起こる感染症です。
潜伏期間は3~21日で、筋肉のけいれん、硬直などの症状があります。
破傷風菌は、土壌などの環境に広くいます。
傷口から侵入して、傷のなかの酸素のないところで増殖し、毒素を産生します。
毒素は、神経のはたらきを抑制する神経に作用して、筋肉のけいれんや、こわばりの原因となります。
(対応)
・頑丈な靴底:傷口をつくらないように、がれき類のある被災地を歩くときは、靴底が固く厚いものを履くことが大切です。
・ワクチン接種:ワクチンによる予防効果が大きいとされています。
③レプトスピラ
レプトスピラ症は、病原性レプトスピラ感染に起因する人獣共通の細菌(スピロヘータ)感染症です。
病原性レプトスピラは、ドブネズミなど保菌動物の腎臓に保菌され、尿中に排出されます。
人への感染は、保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的あるいは経口的に起きます。
潜伏期間は5~14日間で、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、腹痛、結膜充血などの症状があります。
(対応)
・汚水に入らない:汚染された水との経皮的な接触をさける。
・防水ズボン等の着用:汚染された水や土壌との直接的な接触をさける。
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【活動実績】
(本・図書・出版物)
・2025年、介護保険専門紙『シルバー新報』(環境新聞社)で「介護現場のBCP 災害時の知識」を連載中です。
・2025年、月刊誌『クリンネス』(イカリホールディングス株式会社)で「衛生視点で感染症・災害時のBCPを考える」を連載中です。
・2022年、本『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
・2021年、専門誌『生活と環境』(一般財団法人日本環境衛生センター)で「災害時の居住環境 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」を連載しました。
・2020年、『災害時の保健活動推進マニュアル』(日本公衆衛生協会・全国保健師長会、令和2年3月)で「生活環境衛生対策」(避難所の環境衛生管理アセスメント)を分担執筆しました。
(活動)
被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
・2024年、能登半島地震(石川県、珠洲市、七尾市)
奥能登豪雨(石川県、珠洲市)
・2019年、令和元年台風19号(長野市、いわき市)
・2018年、西日本豪雨(倉敷市)
・2016年、熊本地震(熊本市)
・2011年、東日本大震災(気仙沼市)
(調査活動)
・1995年、阪神・淡路大震災
(講師)
・2025年、神奈川県公衆衛生協会平塚支部講演会「災害時の公衆衛生活動、~災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策、保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2025年、豊田市役所研修「災害時の避難所等における衛生対策に関する研修」
・2025年、豊橋市保健所研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~避難生活で健康を守るポイント~」
・2025年、日本災害食学会・災害食専門員研修会「災害時の水の安全・衛生」
・2024年、神奈川県公衆衛生学会「シンポジウム・避難所における健康危機管理」
・2024年、宮城県気仙沼圏域研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、宮城県登米地域災害対応研修「災害時における環境衛生対策」
・2024年、愛知県看護協会・研修会「災害時の生活環境衛生対策の課題と実際」
・2024年、福井県嶺南地域保健・福祉・環境関係職員研修「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会「災害時の避難所の衛生、感染症対策」
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会・特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」
(学会)
・2025年、第30回日本災害医学会総会・学術集会「サーモグラフィ画像を活用した避難所の環境衛生管理」
・2025年、第52回建築物環境衛生管理全国大会「能登半島地震被災地の公衆衛生活動者を支援するためのIT活用の成果」
・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
・2021年、第48回建築物環境衛生管理全国大会(オンライン開催)「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の避難所の施設・空気環境の実態」奨励賞受賞
・2020年、第79回日本公衆衛生学会総会(オンライン開催) 「令和元年台風19号被災地の避難所における空気環境等の実態」
・2012年、第39回建築物環境衛生管理全国大会「東日本大震災被災地の避難所の施設・空気環境の実態」最優秀賞受賞