【環監・保健師向け】レジオネラ・最近の現場事情を知る

【レジオネラ・最近の現場事情を知る】
1 源泉かけ流しの配管洗浄
2 源泉タンクの殺菌効果
3 ろ材の定期的交換
4 ATP検査を用いた洗浄の清浄度評価
5 レジオネラの検出基準値
6 環監の視点(根拠を知る)

現場で使用するATP測定器

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2025(令和7)年6月なかば、都内で開催された、第45回レジオネラ対策シンポジウム(主催:NPO入浴施設衛生管理推進協議会)に参加しました。

浴場関連企業、研究者、行政関係者など約50人のかたが参加しました。

シンポジウムの内容は、次のとおりでした。

・報告:最近の現場事情

 鳥井良太氏(株式会社お風呂のシンドー)
 小比賀勝氏(和協サービス株式会社)
 八重樫英樹氏(株式会社アイシーシーSPサポート)

・基調講演:レジオネラ対策にたずさわって

 古畑勝則氏(麻布大学名誉教授)

・基調講演:安全な環境のために、レジオネラ対策アドバイザーの視点

 中島有二氏(NPO浴衛協・会長)

中島会長のご講演では、長年のレジオネラ対策への熱意が伝わってきました。

次に、シンポジウムで私が理解した内容をご紹介します。

1 源泉かけ流しの配管洗浄

事例:源泉かけ流し、pH 8.6、源泉温度 45℃

過酸化水素を使った配管洗浄が実施されました。

洗浄剤の流れは、次のとおりです。

源泉タンク → 配管 → 浴槽

循環ではなく、一方通行の配管洗浄です。

報告者の鳥井氏の話によると、通常の倍の濃度にして、1.5倍の時間をかけたそうです。

具体的には、作業3時間のなかで、管中の流れを止めた洗浄剤の漬け置き工程と洗浄剤を流す工程とを、繰り返しました。

漬け置きは、一方通行の作業のなかで、十分に洗浄剤を配管に接触させて、管内の生物膜(バイオフィルム)を剥離させるためです。

この施設では、半年ごとに配管洗浄がされました。

そのたびにバイオフィルムが多量に排出されました。

もともと、源泉タンクで消毒がされていなかったので、泉質のアルカリ性を踏まえて、アルカリ側で消毒効果をもつ臭化塩素剤、モノクロラミンの消毒剤の導入が提案されました。

しかし、コストの面で、選択されませんでした。

次に提案されたのが、自動塩素殺菌装置の導入です。

別ページに、源泉かけ流しの配管洗浄の詳しい説明があります。

2 源泉タンクの殺菌効果

前記につづいて、源泉かけ流し施設の対応です。

最終的に、源泉タンクに自動塩素殺菌装置が導入されました。

使用される薬剤は、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムです。

日光の紫外線で分解されにくく、屋外プールや露天風呂での使用がされているものです。

塩素臭が少なく、粉末で、取り扱いが容易なのがメリットです。やけどのリスクが小さくなります。

薬剤の費用面については、液体の次亜塩素酸ナトリウムと比べて差がややある程度か、ほとんどないとのことです。

目標の塩素濃度は、0.6~1.0 mg/L で設定されました。

報告者の鳥井氏によると、装置の導入後、半年ごとの配管洗浄時に多量のバイオフィルムの剥離が見られなくなったとのことです。

源泉タンク内部も、バイオフィルムがほとんど付着しなくなりました。

導入後、レジオネラ属菌の検出がなくなったそうです。

源泉タンクの殺菌が、レジオネラ属菌の抑制につながり、レジオネラ症対策として有効なのが伝わってきました。

逆に考えると、源泉タンクでの対応ができていないと、レジオネラ対策の根本的な解決につながらないということですね。

3 ろ材の定期的交換

小比賀氏から、温泉施設でレジオネラ属菌 47万 CFU/100mL が検出された例が報告されました。

次のとおり、ろ過器関係の問題点が挙がりました。

①自動5方弁の薬液の漏れ
②逆洗不良によるろ材の固着
③充填材の過度の着色
④支持材の砂利不足によるろ過不良
⑤ろ過器下部に多量の毛髪の塊

こうしたろ過器の問題が、多量の菌検出につながったと考えられました。

ろ過器での主な改善点は、次のとおりです。

①充填材の撤去

②新規充填材の導入

ろ過器内で浴槽水の汚れを主に除去するのは、最上層部にある砂部分になります。

砂の下には、石の支持材が入っています。

支持材の石は、下部に向かって徐々に大きくなっていき、小、中、大、特大のサイズで各層に分かれています。

4 ATP検査を用いた洗浄の清浄度評価

八重樫氏からは、ATP検査を用いた利点が説明されました。

①現場で汚染箇所をすぐに特定できる。

②施設への指導にすぐフィードバックできる。

浴槽水からレジオネラ属菌が検出された例を聞きました。

男女の浴槽の水位を保つためにつながっている連通管に着目して、ATP検査が実施されました。

単位のRLU は、試薬を加えて発光したときの量を表しています。

汚れの度合いをみる数値で、大きいほど汚れがあると考えられます。

洗浄前:11万 RLU

高濃度塩素消毒での2回洗浄後:15 RLU

『第5版 レジオネラ症防止指針』(公益財団法人 日本建築衛生管理教育センター)を理解すると、清浄度の目安として、10cm四方を綿棒で拭き取ったとき、1,000 RLU を超えないこととなっています。

11万 RLU は、多量の汚れと推測できます。

洗浄消毒後に15 RLU となり、汚れが除去できたと考えられます。

洗浄消毒の効果があったのです。

こうした洗浄前後の評価には、ATP検査が有効だと感じました。

5 レジオネラの検出基準値

古畑先生から、前述した『第5版 レジオネラ症防止指針』について解説がされました。

もともと、レジオネラ属菌数は、基準となる数値がひとり歩きしないように、レジオネラ属菌が検出されたときの対応のなかで、文章表現のなかに数値を入れたとのお話がありました。

①人がエアロゾルを直接吸引する恐れのあるもの

例:浴槽水、シャワー水など

レジオネラ属菌数の目安値が、10 CFU/100mL 未満とされています。

試験検査でレジオネラ属菌が検出されたときは、すぐに菌数を減らすために、清掃や消毒などの対策をとるとされています。

エアロゾルは、空気中にまう細かい水滴をさします。

CFU は、培地上の菌のかたまりの数です。

②人がエアロゾルを直接吸引する可能性の低いもの

例:冷却塔の冷却水など

100 CFU/100mL 以上のレジオネラ属菌が検出されたときは、前記と同じように、すぐに菌数を減らすために、清掃や消毒などの対策をとるとされています。

6 環監の視点(根拠を知る)

浴槽水について、条例で「浴槽水は、レジオネラ属菌が検出されないこと」と規定されることが多いと思います。

一方で、冷却塔の冷却水については、条例のなかに明記されている例は聞いた記憶がありません。

平成11年の厚生省(現・厚生労働省)からの通知「建築物等におけるレジオネラ症防止対策について」のなかで、レジオネラ属菌の繁殖の抑制について、「レジオネラ症防止指針」を参考にされたいとあります。

冷却塔の冷却水のレジオネラ属菌数を評価する根拠は、『第5版 レジオネラ症防止指針』にあると思われます。

【レジオネラ症対策を学ぶ連続講座】では、配管洗浄(浴槽水)の作業工程の動画を見ながら、解説を詳しく聞くことができます。

ご活用ください。

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・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。

・課題の解決につながる講座をご用意しています。

・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。

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【活動実績】

(書籍・図書)

・2024年、専門誌『設備と管理』(オーム社)に「冷却塔の清掃方法とレジオネラ症 保健所・環境衛生監視員の視点から」を執筆しました。

・2023年、専門誌『設備と管理』(オーム社)に「老舗旅館の大浴場、湯の入れ換えが年2回 レジオネラ症対策を再考する」を執筆しました。

・2015年、専門誌『生活と環境』(一般財団法人日本環境衛生センター)に「公衆浴場・温泉・旅館業・スポーツ施設・介護保険施設のための 続・よくわかるレジオネラ症対策」を連載しました。

・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

(活動)

・2024年、厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「公衆浴場の衛生管理の推進のための研究」の研究協力者として活動しました。

・2024年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」改定検討の研究協力者として、元神奈川県衛生研究所・黒木俊郎先生らと共に活動しました。

・2022年、「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になりました。

2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。

 ①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
 ②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
 ③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)

(講師)

・2025年、石川県南加賀保健所、入浴施設衛生管理研修会「公衆浴場、旅館、ホテル等入浴施設のレジオネラ症対策」

・2025年、鹿児島市保健所、レジオネラ症感染防止研修会「入浴施設におけるレジオネラ症感染防止対策」

・2025年、港区みなと保健所、衛生講習会「レジオネラ症対策について」

・2024年、大分県 レジオネラ症発生防止対策研修会「入浴施設のレジオネラ症発生防止対策について」

・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」

・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)

・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」

(学会)

・2024年、第83回日本公衆衛生学会総会で、「レジオネラ症対策現場研修会の公衆衛生人材育成の成果」を発表しました。

・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会で、「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」を発表しました。

・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会(オンライン開催)で、「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」を発表しました。

・2012年、第56回生活と環境全国大会で、「文京区における公衆浴場等シャワー水のレジオネラ症発生防止対策の成果」を発表し、最優秀賞を受賞しました。

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