【保健師・環監向け】避難所の衛生・低体温症対策

【避難所の衛生・低体温症対策】
1 低体温症とは
2 避難所で体温が奪われるとき
3 避難所の低体温症対策
4 環監の視点(可視化・数値化する)

厳冬期災害演習(2025年1月、日本赤十字北海道看護大学、北見市)

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所の衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2025(令和7)年1月下旬に、第31回環監未来塾私塾・無料講演会(オンライン)を開催しました。

テーマは、「避難所の衛生・低体温症対策」です。

講師は、日本赤十字看護大学付属研究所の栗栖茜氏です。

全国から、保健師、環境衛生監視員など約70名の皆様が参加しました。

冬季の災害時、避難所の衛生に有用な情報ですので、ご講演について私が理解した内容をご紹介します。

講演会の際の質疑応答で、厳冬期対応の避難所備蓄品、冬用カセットコンロのボンベ、冬の避難生活の配慮事項などについて、栗栖氏よりご回答がありました。

別紙に、質問と回答の詳細があります。

また、別ページに、栗栖氏の前回ご講演をまとめています。

【参考図書】栗栖氏の著書です。
『あなたの身近な低体温症を防ぐには・・・』
 栗栖 茜 著、海山社(1,000円+税)

1 低体温症とは

体のなかで、つくった熱より失われる熱が多くなる現象です。

次のとおり、分けることができます。

・軽症 :体温35℃以下
・重症 :体温32℃以下
・最重症:体温28℃以下

◎低体温症の症状、訴え
 
・震え:体の芯からの震えが起きる。止められない。

・細かい手の作業ができない

・スマホを操作できない

・靴のひもを結べない
  
・さもない所で転ぶ

・思考力が低下する
   
・けんかっ早くなる

・静かになる、だまっている

(重症)

・震えが止まる
  
・寒さを防ぐのに無関心
  
・脱衣:服を脱いでしまう。裸になる
  
・錯乱状態
  
・突然、昏睡状態になる
 
・命を落とす可能性がある

◎体温測定

電子体温計は、測ることができるのが、下が32℃までです。

通常の体温計で重症かはわからないので、症状で判断することになります。

病院では、食道、直腸に体温計を入れて、32℃以下を測定することができます。

最重症の28℃以下は、命を落とすリスクが高くなります。

2 避難所で体温が奪われるとき

熱が失われるのは、伝導、蒸発、対流、放射の四つの現象です。

(1)伝導

地面に横になったとき、体から熱が奪われます。

たとえば、山登りで岩に座るのは、伝導で体温が奪われます。

物を敷くことが、熱の損失を防ぎます。

避難所の体育館では、床に段ボール、断熱マットを敷くと、伝導による熱の損失が減ります。

(2)蒸発

気化熱のことで、水が蒸発するとき、まわりの熱を奪います。

一例は、夏の打ち水で、まいた水が蒸発することで、まわりの熱を奪い、涼しくなるのです。

水害で服が濡れたとき、汗をかいて肌着が濡れるとき、蒸発で体温を奪われます。

(3)対流

風で熱を奪われます。

夏には、扇風機、うちわで風をつくるのは、熱を奪うためです。

風速の2乗に比例して熱が奪われていきます。

登山のとき、強風が吹くと、急速に熱が奪われます。

(4)放射

冬に日なたぼっこで暖かくなるのは、太陽の放射熱をうけているからです。

放射は、物体から熱が出る現象です。
  
体から熱が外へばらまかれていることになります。

体育館で、体熱の損失の60%が放射です。

体育館の遠くの冷たい壁に向かって、体から放射熱が大量に放出されます。

体が冷え、体温症になるリスクを高めるのです。

服を着て、放射を減らすのはきわめて難しいとされています。
 

3 避難所の低体温症対策

(1)避難所でのチェック

①体が濡れている→乾いた衣服に着替えさせる(丁寧にそっと)

②低体温症が疑われるとき→段ボールベッドに寝かせて毛布をかけ、体温低下を防ぐ。(少しずつ体温上昇する)経過観察する。

(2)備蓄品を活かす、トイレの屋内配置

・防寒シート、毛布、衣類、エマージェンシーブランケットを利用する

・プロパンガスなどでお湯を沸かす

・トイレ:厳冬期には当初、屋外に設置するのはやめたほうがいい

ぎりぎりに体温を維持している人が、さらに体温が低下するリスクが大きくなります。

(3)避難スペースの作り方

※段ボールベッド、段ボールの仕切り、気泡緩衝材の天井で、避難スペースをつくる。

①なぜ、パーティション、ベッドに段ボールが有効なのか

段ボールは、板紙(ライナ)に挟まれた中しんがあって、空気層ができるからです。

断熱効果が高く、ベッドから身体の熱が伝導によって逃げていかないのです。

人体から出る熱がパーティション内部にとどまる率が高くなります。

②なぜ、段ボールが温まるのか

放射熱は、距離の二乗に反比例して減少します。

パーティション内で、人と壁の距離を2mと考えてみます。

人体から出た放射熱は、壁に届くときに1/4減少、25%残ります。

段ボールの壁が段々と温かくなります。

失われる放射熱が減っていき、低体温症のリスクが減ってくるのです。

一方、体育館では、人と壁の距離が10mあるとします。

人体から出た放射熱は、壁に向かって放射され、壁に届くときに1/100 まで減少します。

したがって、体熱で体育館の壁を温めることはできないのです。

放射による莫大な熱の損失が、いつまでもつづくことになります。

③パーティションのメリット

風が吹き込むことないので、対流による熱の損失がありません。

段ボールベッドは、伝導で体の熱が奪われることがありません。

したがって、低体温症のリスクを減少させられるのです。

(4)低体温症を考えたパーティションの例

面積を、3m×4.5m、高さ2mとします。

例:家族で四つの段ボールベッドを並べます。

1人あたり3.375m2となり、スフィア基準に近い数値になります。

(5)その他

①炊き出しの注意

立って調理するのも、低体温症のリスクがあります。

当初、レトルト食品にお湯をそそいでもらうだけにするやり方があります。

温かいお茶など、水分をしっかりとることが大切です。

②寒冷地から外へ出る

24時間以内、少なくとも48時間以内に、乳幼児と母親、高齢者、透析患者など、寒冷地から避難することが、命をまもる観点から大切になります。

自治体は、被災者の移動を可能にするため、日常に、避難先となり得る複数の自治体と協定を結ぶことが必要でしょう。

③避難所で体を動かす

体を動かして、熱をつくる必要があります。

大腿などの深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)から肺塞栓症を引き起こさないためにも、ラジオ体操、歩行などをしましょう。

4 環監の視点(可視化・数値化する)

私は、避難所の衛生対策の調査をするとき、カバンの中に、物の表面温度を測る赤外線放射温度計とサーモグラフィカメラを入れています。

最近は、サーモグラフィカメラを使う機会が多くなっています。

たとえば、撮影すると、温度が高いところが赤~白、温度の低いところが青~紫に色分けされます。

冬の体育館では、窓付近、屋外に接した鋼鉄製の扉、壁、床の温度が低いことがわかります。

このように視覚化することで、どの箇所が冷えているのかがわかります。

冷えた場所から離れる、段ボールで小さく囲む、段ボールベッドで床面から離れるなど、対処が明確になってきます。

測定器の活用から、避難所・避難生活の環境改善につなげることができると考えています。

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【2025(令和7)年度講座】

2025(令和7)年度のオフィス環監未来塾の講座一覧表をご覧いただけます。

・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。

・課題の解決につながる講座をご用意しています。

・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。

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【実績】

(書籍)

・2022年、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

・2020年、全国保健師長会・作成『災害時の保健活動推進マニュアル』の生活環境衛生対策の分担執筆をしました。

(活動)

・被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
 2011年 東日本大震災、気仙沼市
 2016年 熊本地震、熊本市
 2018年 西日本豪雨、倉敷市
 2019年 令和元年台風19号、長野市、いわき市
 2024年 能登半島地震、七尾市、珠洲市

(講師)

・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」の講師をつとめました。

・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」の講師をつとめました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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