【環監・保健師向け】レジオネラ・温泉のDPD測定で白濁

【温泉のDPD測定で白濁】
1 温泉分析書を読み込む
2 温泉の泉質を理解する
3 DPD測定で白濁する理由
4 測定の解決法
5 環監の視点(DPD測定を使いこなす)

残留塩素測定器(イメージ写真)

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員(環監)で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2025(令和7)年2月上旬に、鹿児島市・令和6年度レジオネラ症感染防止研修会(オンライン)の講師をつとめました。

現地会場には、市内の公衆浴場・旅館業・福祉施設等の約40施設の皆様が集まりました。

事前の質問に、「消毒の塩素濃度を維持する方法は」「バイオフィルムの除去方法は」「レジオネラ菌に効く塩素剤は」「菌が発生したときの対応は」などがあり、お答えしました。

そのなかに、温泉の浴槽水の、残留塩素濃度を測るためDPD試薬を使うと、測定容器の中の浴槽水が白濁してしまう。原因は何ですかとありました。

今回は、環監業務に有用な内容ですので、温泉のDPD測定で白濁する原因を考えましょう。

下記の記述は、専門家の株式会社ヘルスビューティ・シニアテクニカルアドバイザーの藤井明氏のご意見を参考にしました。

1 温泉分析書を読み込む

「温泉法改正のあらまし」(環境省、平成19年10月)をみると、温泉利用事業者が掲示しなければならない項目が挙げられています。

源泉名、温泉の泉質、温泉の成分などです。

温泉の脱衣場に掲示される温泉分析書には、温泉1kg中の成分、分量、組成が載っています。

陽イオンは、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガンなどです。

陰イオンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硫酸、炭酸水素、炭酸などです。

そのほか、メタケイ酸、メタホウ酸などがあります。

温泉のうち、特に治療の目的にも使われる療養泉について、温度や含まれる物質で泉質が分類されています。

東京都保健医療局のホームページには、こう記述されています。

< 単純温泉

温泉1キログラム中に溶存物質(ガス性のものを除く。)が1,000ミリグラム未満で、温度が摂氏25度以上の温泉をいいます。また、湧出地でのpH測定値が8.5以上の場合は、「アルカリ性単純温泉」といいます。

塩類泉

温泉1キログラム中に溶存物質(ガス性のものを除く。)を1,000ミリグラム以上含むものをいいます。主成分により「塩化物泉」「炭酸水素塩泉」「硫酸塩泉」に分類され、「ナトリウム-塩化物泉」「マグネシウム-硫酸塩泉」などの泉質名があります。

特殊成分を含む療養泉

特定の物質を限界値以上含む温泉をいいます。「硫黄泉」「二酸化炭素泉」「放射能泉」などがあり、その他の成分によって、「単純硫黄泉」「含硫黄-ナトリウム-塩化物泉」などの泉質名があります。>

2 温泉の泉質を理解する

A温泉の表示は、塩化物泉(ナトリウムー塩化物強塩泉)(高張性、中性、高温泉)とあります。

成分を見ると、温泉1kg中、ナトリウムイオン(Na⁺)が6,000mg、塩化物イオン(Cl⁻)が11,000mgあります。

したがって、溶存物質の総量が1,000mg以上あって、ナトリウムと塩化物が多量に含まれ、塩化物が主成分であることから、泉質は、塩化物泉(ナトリウムー塩化物強塩泉)となります。

表記の「高張性」は、体液の食塩濃度約0.9%(生理食塩水)より濃度が高いものです。

ちなみに、海水の塩分濃度は、約3.4%といわれています。

温泉の蒸発残留物は、温泉1kg中、19g(19,000mg)でした。

蒸発残留物の量は、温泉成分の総量に近いと考えられます。

海水成分に相当する、ナトリウムイオンと塩化物イオンの合計量が17gとなり、蒸発残留物の約9割が海水成分と考えることができるかもしれません。

食塩の化学式の組成を考慮すると、温泉の食塩濃度が約1.5%となり、体液の約0.9%を上回るので、高張性となるのです。

3 DPD測定で白濁する理由

簡単に言ってしまうと、DPD試薬に含まれる緩衝剤が温泉中のカルシウム、マグネシウムと反応して、白濁するのです。

緩衝剤には、水のpHを一定に保つための物質が入っています。

現在、市販されているほとんどのDPD試薬は、発色剤と緩衝剤とが合わさった1剤式です。

以前、販売された2剤式では、A剤に遊離残留塩素濃度を測る発色用の試薬、B剤に緩衝剤が入っていました。

2剤式のA剤のみを使用すると、白濁せずに、ピンクに着色し、比色板で数値を読み取ることができたのです。

緩衝剤の成分について、メーカーの資料を理解すると、リン酸塩のひとつで、リン酸二水素カリウムとなっています。

緩衝剤が、たとえば、カルシウム、マグネシウムの成分が多い温泉と反応すると、リン酸カルシウムができます。

リン酸カルシウムは、水に溶けにくい物質ですので、水が白濁するのです。

前記のA温泉の成分は、カルシウム(Ca²⁺)が800mg、マグネシウム(Ma²⁺)300mgとなっていて、多量に存在しています。

遊離残留塩素濃度を測るとき、緩衝剤を含むDPD試薬を加えると、リン酸カルシウムができて、白濁すると考えられます。

4 測定の解決法

白濁すると、ピンクの着色の濃淡から遊離残留塩素濃度を測ることが難しくなります。

他の方法を考えてみます。

次の方法は選択肢のひとつで、使用可能かは実際の温泉で試してみる必要があります。

(1)SBT法

酢酸塩系の緩衝剤を使うので、DPD法のように白濁しないと考えられます。

試薬を加えると、水中の遊離残留塩素と反応し、青緑に発色します。

色の濃淡で濃度を測ります。

メーカーの説明文をみると、結合型塩素とは反応しないとされています。

(2)電極法

理論的に、色の干渉を受けずに、電気的な反応を基に塩素濃度を測定することができるとされています。

水に浸した二つの電極に電流を流し、電圧と電流の関係から塩素濃度を導くものです。

三つの電極を使うタイプもあります。

現場では、他の測定法との比較、測定器のメンテナンスが大切になります。

試薬を使わない利点があります。

DPD法やSBT法と比べると、機器が高価になるかもしれません。

5 環監の視点(DPD測定を使いこなす)

前記のA温泉では、アンモニウム(NH₄⁺)が20mgありました。

アンモニアが多量の温泉で、消毒に次亜塩素酸ナトリウムを多量に使った場合、結合塩素のモノクロラミンができている可能性があります。

別ページで、アンモニア成分と次亜塩素酸ナトリウムとの関係に詳しく触れています。

さらに、塩素剤を過剰に入れると、ジクロラミンが生成されて、塩素臭がつよくなるでしょう。

残留塩素濃度測定で、DPDの試薬を加えて5秒以内にしっかり色がつけば、遊離残留塩素の形で存在していると考えられます。

試薬を加えてすぐに色がつかず、5秒程度経過して徐々に色がついてくると、結合塩素の形で存在しているかもしれません。

試薬・ヨウ化カリウムを入れて、結合塩素濃度を確認するやり方があります。

【ご案内】

【2025(令和7)年度講座】

2025(令和7)年度のオフィス環監未来塾の講座一覧表をご覧いただけます。

『レジオネラ症対策のてびき』の概要はこちらから確認できます。ご購入をお考えのかたも、こちらから注文ができます。

・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。

・課題の解決につながる講座をご用意しています。

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【実績】

(書籍)

・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。

・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

(活動)

・2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。


 ①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
 ②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
 ③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)

(講師)

・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」の講師をつとめました。

・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。

・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。

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