【保健師・環監向け】災害時トイレを知る
1 通常の排泄物のごみ
2 災害時のトイレの種別(概要)
3 トイレ設置計画
4 仮設トイレの容量(いつ一杯になるか)
5 仮設トイレの進化
6 環監の視点(設置場所、避難スペースとの距離・方位)
元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2025(令和7)年1月中旬、豊田市の災害対応研修で、「災害時の避難所等における衛生対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点~」の講師をつとめました。
保健師活動に役立つ3点セット、メジャー、方位磁石、非接触型体温計の具体的使い方など、実践を含めてお話ししました。
保健師の皆様をはじめ市職員ほか114人のかたが参加しました。
2024(令和6)年12月上旬には、都内で災害時・避難所衛生リーダー養成講座(基礎編、主催:一般財団法人日本環境衛生センター)が開催されました。
私が委託をうけて企画調整した講座です。
全国から、保健師、環境衛生監視員、防災危機管理担当者の17名の皆様が参加されました。
講座内容は、次のとおりです。
① DHEATの概要・取組・研修・実績
② 災害時トイレ・し尿廃棄物
③ 能登半島地震活動報告-1
保健師活動と避難所・避難生活
④ 能登半島地震活動報告-2
避難所衛生対策活動と保健所環境衛生監視員
⑤ 能登半島地震被災地での日赤活動と避難所の環境整備
⑥ ワークショップ ~避難所の衛生対策を考える~
参加者の声では、「トイレ、し尿処理がよくわかりました」「トイレについて深く知りたい」「もう少しトイレ問題を聞きたかった」とあり、災害時のトイレについて関心度が高い傾向でした。
今回は、講座で私が理解した内容を含めて、災害時のトイレを整理して、詳しく見てみたいと思います。
なお、国の資料「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定、内閣府・防災担当)は、次のURLをコピーして検索すると、ヒットします。
こちら https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/2412hinanjo_toilet_guideline.pdf
1 通常の排泄物のごみ
(1)公共下水道
各家庭の排水管が下水道へつながっている場合、排泄物は道路下の公共下水道をへて、下水処理場へ流れます。
通常、下水は、1,000分の1の傾斜の下水管を自然流下しています。
長い距離を流れる場合、途中で、下水を地表近くまで汲み上げて、再び流すためのポンプ場があります。
災害時は、地震による下水管や下水処理施設の損壊、停電によるポンプ場の停止などにより、下水道へ排泄物を流せなくなることがあります。
(2)浄化槽
人口の約2割が、浄化槽を使用していると言われています。
浄化槽は、トイレと台所などの排水をいっしょにする合併処理浄化槽の設置が進められてきました。
既存で、トイレのみの単独処理浄化槽もあります。
浄化槽は、各家庭の敷地内に埋設されているのを見かけます。
排泄物は、浄化槽で、ろ材処理、微生物による分解、沈殿、塩素消毒されます。
処理後の排水は、川などの公共水域へ流されます。
災害時は、地震による浄化槽の損壊、液状化による浄化槽の浮き上がりなどで、浄化槽が使えなくなることがあります。
応急仮設住宅の団地では、地上置き型の浄化槽が設置されることがあります。
2 災害時のトイレの種別(概要)
災害時に、水道や下水道のライフラインが止まったとき、次の4種類のトイレの活用が考えられます。
別ページに、4種類のトイレの写真があります。
最近では、車の移動式共同トイレのトレーラートイレが、被災地へ運ばれて使用されている例があります。
(1)携帯トイレ
二つのタイプがあります。
①凝固剤式
排泄物をためたビニール袋に粉末の凝固剤を入れて、固めます。
②吸収剤式
液体を吸収する高分子吸水ポリマーが入っています。ペット用トイレと同じ原理です。
(2)簡易トイレ
災害用で見るのは、二つのタイプです。
①組み立て式
段ボールやその他の素材で組み立てて、便座をつくるものです。携帯トイレと組み合わせて使用します。
②電動式
ラップ式とも呼ばれていて、スイッチを押すと、袋の口が閉じて、下へ袋が落ちます。
(3)マンホールトイレ
公園や学校敷地などに設置されていて、下水道と直結した専用のマンホールの蓋を開け、マンホールの上にトイレと覆いのテントを設置します。
(4)仮設トイレ
工事現場に置かれるような仮設のトイレです。下に便槽がついています。
3 トイレ設置計画
一例では、次のとおりです。
(1)発災直後
携帯トイレ、簡易トイレが使われます。
個人的には、避難所開設30分後までに、備蓄品を使い、少なくとも、男女各3個の簡易トイレ設置が大切だと感じています。
(2)3日目以降
仮設トイレ、マンホールトイレが使われます。
「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定、内閣府・防災担当)によると、トイレの数の目安は次のとおりです。
災害発生当初:50人あたり1個
避難が長期化するとき:20人あたり1個
男女別、誰でもトイレのそれぞれの割合は、避難者の状況に応じてきめ、過去の災害例をみて女性用の数を多めにするのが実用的です。
(3)中長期
地上置型の仮設浄化槽が使用されることがあります。
4 仮設トイレの容量(いつ一杯になるか)
仮設トイレの下部には、排泄物を溜める便槽があり、容量は330~450L 程度です。
便槽にたまる量は、仮に1人1日5回の排泄回数として、排泄物量2L、流し水1回200cc で計1L、合計1人1日3Lになると試算されます。
便槽容量350Lの仮設トイレの場合、116人1日分を溜めることができる計算です。
ここで、避難所の避難者を300人と想定して、仮設トイレが6台入り、すべて仮設トイレを使用すると仮定し、いつ満杯になるかを計算してみましょう。
仮設トイレの便槽総容量は、350L × 6台 = 2,100L
1日あたりの便槽にたまる量は、300人 × 3L = 900L
よって、何日可能かは、2,100L ÷ 900L/日 = 2.3日
計算上、避難所の避難者が300人の場合、仮設トイレ6台は、2.3日で満杯になります。
バッキュームカーによる回収が必要になります。
※避難所では、避難者とともに、車中避難や周辺の住民のかた、支援者も仮設トイレを使用すると考えられます。
仮設トイレの配置のとき、数の算定で考慮が必要です。
※紙を多量に流すと、紙詰まりのトラブルが発生します。
そのために、紙は流さず、別設置のビニール袋や箱に入れるやり方があります。
5 仮設トイレの進化
能登半島地震の断水地域で、3月なかば頃、新しいタイプの仮設トイレが入りました。
内部は、マンションのトイレと変わりない雰囲気です。
屋外に設置された給水タンクの水を使い、お尻洗いや便器の水流しができます。
使い方は、家のトイレと同じです。
清潔で日常と変わりないトイレは、使う人の心をほっとさせてくれます。
こうしたトイレが災害時に普及できるといいと感じました。
6 環監の視点(設置場所、避難スペースとの距離・方位)
問題となるのは、臭いだと思います。
2024(令和6)年4月に、能登半島地震の被災地を訪れて、避難所の衛生調査をしたとき、トイレの片隅の段ボール箱に入った携帯トイレごみ1個で、トイレ内に強い便臭を感じました。
精神的ストレスになります。
仮設トイレの設置には、避難スペースとの距離や方位を考えることが大切です。
方位を考えると、冬は北風、夏は南風の流れで、風下に避難スペースがあると、臭いが影響するかもしれません。
また、仮設トイレの設置場所は、排泄物の回収のためバッキュームカーが入ることができる動線の確保が必要になります。
次に問題になるのは、排泄物の保管です。
排泄物は、1人1日5~7回あり、1日量が1.5~2kg になるといわれています。
100人の避難者がいれば1日200kg、500人で1日1,000kg(1トン)になる可能性があります。
運搬車で収集がされるまで、どこに保管するかも大切です。
臭いや衛生上の問題があり、校舎の後ろ側や、砂を取り除いた砂場、空きになった動物飼育小屋などにシートを被せて保管するのが一案です。
能登半島地震の被災地では、校庭の隅に、ブルーシートを被せて保管するところがありました。
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【実績】
(書籍)
・2022年、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
・2020年、全国保健師長会・作成『災害時の保健活動推進マニュアル』の生活環境衛生対策の分担執筆をしました。
(活動)
・被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
2011年 東日本大震災、気仙沼市
2016年 熊本地震、熊本市
2018年 西日本豪雨、倉敷市
2019年 令和元年台風19号、長野市、いわき市
2024年 能登半島地震、七尾市、珠洲市
(講師)
・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」の講師をつとめました。
・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」の講師をつとめました。
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。