【環監・保健師向け】レジオネラ・源泉かけ流し施設のチェックポイント

【源泉かけ流し施設のチェックポイント】
1 温泉の流れ
2 温泉成分表からわかること
3 レジオネラ症対策のチェックポイント
4 環監の視点(源泉かけ流しと循環ろ過式は変わりない)

源泉かけ流しの浴槽(イメージ写真)

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2024(令和6)年12月中旬に、大分県・令和6年度レジオネラ症発生防止対策研修会の講師をつとめました。

会場で、県内の保健所・環境衛生監視員、市町の温浴施設担当者、温泉施設の設備担当者など約40名の皆様が参加しました。

講演後、県内の源泉かけ流しの公衆浴場施設を視察し、現場でレジオネラ症対策のチェックポイントを確認しました。

今回は、源泉かけ流し施設に焦点をあてて、保健所・環境衛生監視員の視点から、レジオネラ症対策のチェックポイントを考えてみます。

「温泉成分表からわかること」については、専門家の株式会社ヘルスビューティ・シニアテクニカルアドバイザーの藤井明氏のご意見を参考にしました。

1 温泉の流れ

温泉の流れの一例を見てみましょう。

源泉井戸(施設敷地内、例:深さ300m)
→ 源泉槽1 ※1(温泉と地下水を混合)
→ 源泉槽2 ※2(複数の源泉槽1を混合)
→ 調整槽  ※3(源泉槽2+塩素消毒の地下水)
→ 浴槽

※1 約90℃の温泉と地下水を混合して約70℃にする。

※2 たとえば、3本の源泉井戸を混合する。湯の温度は、65~70℃になる。

※3 源泉槽2の温泉(65~70℃)と、次亜塩素酸ナトリウムの塩素消毒がされた地下水とを混合して、45℃程度にして浴槽へ送る。

2 温泉成分表からわかること

温泉分析表から成分量の多いものを見てみます。

一例は、次のとおりです。

・メタケイ酸:肌がつるつるする成分とされています。

・遊離炭酸:白いスケールが着くかもしれません。

・pH5.8の酸性側の場合:次亜塩素酸ナトリウムの消毒が有効に働きます。

なお、透明な薄茶色の温泉は、鉄やマンガン、フミン質が影響していると考えられます。

3 レジオネラ症対策のチェックポイント

源泉かけ流し施設の、レジオネラ症対策の観点からチェックポイントを考えていきましょう。

(1)源泉井戸

①井戸のセメンチング

温泉を汲み上げる井戸について、地表近くの井戸周囲は、井戸の保護と周囲の土壌が入り込まないように、セメントで固める施工法があります。

こうした施工が省かれると、地表付近のレジオネラ属菌を含んだ土壌が井戸に入り、温泉からレジオネラ属菌が検出される原因となる可能性があります。

井戸から汲み上げられた温泉について、レジオネラ属菌の有無を確認する水質検査の実施が大切になると考えます。

②土壌の巻き込み

以前、温泉の浴槽水からレジオネラ属菌の検出が続いた施設では、営業者のかたが「温泉が自噴して地表にあふれることがありました」と話していました。

レジオネラ属菌は、土壌の表層ちかくに存在すると考えられています。

自噴して地表にあふれた事実から、土壌を巻き込んで温泉が汲み上げられた時期があったと推測したのです。

すなわち、土壌中のレジオネラ属菌を含んだ温泉水が、源泉槽に入ったと考えられます。

密閉型の源泉槽であれば、源泉槽で菌が増える可能性があると思いました。

(2)配管

源泉汲み上げから源泉槽への配管、源泉槽から調整槽や浴槽への配管が、10年、20年と経過すれば、泉質により成分が管の内側に付着・堆積していく可能性があります。

私の経験では、鉄分が多い温泉施設で、サンプリングした配管の断面を見たとき、鉄成分の付着が進み、管の半分以上が閉塞していました。

菌検出が認められた施設です。

付着物の表面で、アメーバやレジオネラ属菌など微生物の増殖が進んだと考えられました。

泉質で、カルシウムやマグネシウムなどの成分が多いときも、スケールがつきやすくなると思われます。

配管は、ビル・マンションの給水管の修繕計画と同じように、15~20年程度に1回以上、更新(交換)が望ましいでしょう。

更新計画を踏まえると、地上に配管をすることで、維持管理が容易になります。

別ページに、温泉を運ぶ配管の写真があります。

(3)温泉水槽

配管と同様に、泉質により、壁面や底に成分の付着や堆積の可能性があります。

水槽内側に付着物があると、微生物の増殖の機会を与えてしまいます。

菌検出施設の水槽壁面を調べたとき、アメーバの検出が認められたときがありました。

温泉水槽の内側を、微生物が付着しにくいように、清掃により滑らかな状態にしておくことが大切です。

温泉施設の一例では、月に1回程度、温泉水槽を清掃しています。

レジオネラ症対策のひとつに、水槽内の湯の温度を60℃以上に維持することがあります。

温度計を設置して、毎日、温度の確認と記録をすることが大切です。

(4)浴槽

汚れを確認するとき、ATPの拭き取り検査を用いる方法があります。

別ページに、ATPの拭き取り検査の説明があります。

①タイルや岩・石の間の目地

目地が減ると溝ができて、汚れの付着がしやすくなります。

掃除による汚れの除去が難しくなることがあります。

目地を定期的に確認して、減っているときは目地の修理をすることが大切です。

②浴槽のあふれ縁

あふれ縁は、浴槽水の水面の湯が流れる箇所です。

アカや髪の毛など汚れを多く含んだオーバーフロー水が、触れる箇所になります。

菌検出例で、木製の浴槽縁がオーバーフローで汚染されたのが原因の例がありました。

清掃時には、ブラシ類による丁寧な作業が必要な箇所になるでしょう。

あふれ縁の消毒例として、清掃時に次亜塩素酸ナトリウム10~50 mg/L 液をスプレーしていた施設がありました。

③岩と岩の間

浴槽縁に、岩を並べている施設があります。

岩と岩の間に、線状の溝を見たことがあります。

この溝を、浴槽水の水面の湯が、行ったり来たりして流れることで、汚れの付着が起きる可能性があります。

清掃のポイントです。

④タイル類の剥がれ

浴槽内側のタイル類が剥がれかかると、タイルの裏側にすき間にでき、汚れ、微生物がたまる可能性があります。

早めの補修が大切です。

⑤温度計センサー管など配管類

温度計センサーの配管が、浴槽の壁につながっていることがあります。

さや管の状態で、センサーの周りに保護する管があるケースがあります。

さや管の内側に汚れ、微生物の付着が考えられます。

清掃や洗浄が構造的に難しい場合もあります。

年に1回以上の配管洗浄のとき、ポイントになる箇所のひとつです。

(5)露天風呂

露天風呂は、屋外にあるので、自然に土埃が入ってしまいます。

微量ではあっても、常に、レジオネラ属菌が浴槽水にいる可能性があるでしょう。

注意するのは、浴槽まわりが植栽の土に接近していないかです。

浴槽の湯があふれたとき、浴槽近くの植栽の土まで及び、その湯が土とともに浴槽に戻るような状況は要注意です。

湯と土とが接しないように、改修が必要でしょう。

4 環監の視点

源泉かけ流しの浴槽水のレジオネラ属菌検出率は、循環ろ過式の浴槽水と変わりないとの報告を聞いたことがあります。

源泉かけ流しであっても、レジオネラ属菌検出の可能性を踏まえて、衛生管理に取り組むことが大切です。

上記のチェックポイントを中心に、点検してみましょう。

最終的なゴールは、利用者の安全・安心をまもるため、浴槽水のレジオネラ属菌を抑えて不検出にすることです。

【ご案内】

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【実績】

(書籍)

・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。

・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

(活動)

・2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。


 ①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
 ②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
 ③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)

(講師)

・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」の講師をつとめました。

・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。

・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。

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