【環監・保健師向け】トコジラミの対処
【目次】
1 【トコジラミとは】
2 【かゆさ】
3 【トコジラミはどこから】
4 【大発生させてしまう理由のひとつ】
5 【トコジラミ調査の服装】
6 【調査道具の例】
7 【調査ポイント】
8 【調査手順】
9 【潜む場所・洋室】
10【潜む場所・和室】
11【調査の方法】
12【殺虫剤の抵抗性】
13【市販殺虫剤の成分】
14【市販殺虫剤】
15【専門業者の施工】
16【化学物質過敏症】
17【専門業者の手順】
18【駆除の難しさ】
19【業者選定のポイント】
元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所の衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2024(令和6)年10月中旬、千葉県内で開催された令和6年度千葉県環境衛生職員東葛ブロック研修会「トコジラミの防除法」に参加しました。
講師は、株式会社シー・アイ・シーの小松謙之氏です。
千葉県、千葉市、船橋市、柏市の保健所・環境衛生監視員の30名の皆様が参加されました。
環監業務に有用な内容でしたので、小松氏のご講演について、私が理解した内容をご紹介します。
保健師の皆様も、ご活用ください。
1【トコジラミとは】
吸血性の昆虫で、カメムシの仲間です。
体長は、5~6ミリです。
刺されると、かゆみと紅斑が出ます。
夜に刺されて、刺された箇所が赤くなることがあります。
衣類の縁の皮膚と接したところが刺される傾向が見られます。
驚異的な生命力で、絶食で2年間生きていて、産卵することがあります。
天敵がいないのも特徴です。
2【かゆさ】
はじめて刺された人は、かゆくなりません。
実験結果の例では、トコジラミに刺されて3回目までは無症状で、アレルギー反応がありませんでした。
4回目以降、皮膚にかゆみと紅斑が出現しました。
3【トコジラミはどこから】
有機塩素系殺虫剤、有機リン系殺虫剤の普及により、1964年の東京オリンピックの頃に、一時、姿を消しました。
再び、日本では、2009年頃から問題になりました。
近年、日本でトコジラミが増えた原因のひとつは、訪日外国人の荷物から持ち込まれて、宿泊施設で荷物を広げたときに、部屋に落ちると考えられています。
海外からの侵入は、継続的になっていると思われます。
いま国内で、増加して蔓延している場所があると推測されます。
4【大発生させてしまう理由のひとつ】
トコジラミの知識の不足です。かゆいとダニを頭に浮かべる人が多いといわれています。
5【トコジラミ調査の服装】
①作業服に着替える。靴下も含めて。シューズカバーを持っていって、室内ではサンダルにシューズカバーをかけて歩く。
②使い捨てのカッパを着る。すべるので、トコジラミは上れない。
③手荷物:安いカバンでツルツルの素材。淡いカラフルな色のカバンを使うことで、カバンにトコジラミがついたとき発見しやすい。ビニールシートを敷いて、道具を置く。
6【調査道具の例】
ライト
ピンセット(2000~3000円程度)
ドライバー(畳を上げる)
ゴキブリ用粘着トラップ(1~2週間の生息調査用)
ゴム手袋
カメラ
養生テープ(虫体採集用)
ゴミ袋
ウェットティッシュ等
7【調査ポイント】
次のものが室内にあるか、目視で確認します。
①血糞(黒い点)
②脱皮殻
③卵
④虫体
8【調査手順】
玄関で確認する手順は、次のとおりです。
①玄関扉を開ける前、扉の四隅を見る。
②扉を開くとき、枠、室内を観察する。
③扉を閉めるとき、扉を観察する。
④玄関で靴を脱ぐとき、床付近を観察する。
9【潜む場所・洋室】
※黒い点があると、それがトコジラミと考えられます。
小松氏は、旅行時のホテル利用のとき、部屋に入って、まず天井の四隅を見て、トコジラミの存在がないかを確認してから、部屋を使用するとお話しされていました。
潜む場所の例は、次のとおりです。
①カーテン
②ソファ裏側
③家具:接合部分、金属の接合部分
④ベッド:ベッドボード裏、ベッドボトム
⑤絵や鏡の裏側
⑥カーペット:巾木とカーペットの隙間、カーペット裏
⑦電話機の裏
⑧部屋の天井の隅
10【潜む場所・和室】
※和室は、洋室より隙間が多く存在して、トコジラミが潜みやすくなります。
①ふすま・障子の隙間
②壁紙の剥がれ
③コンセント
④畳
⑤テーブル
⑥絵や鏡の裏
11【調査の方法】
①捕獲器を使う。ゴキブリトラップを使う。
②小さなトラップを、室内に数多く配置する。
③探知犬を使う。嗅覚は、人の1000倍以上である。
トコジラミがいると、伏せて知らせる。
12【殺虫剤の抵抗性】
殺虫剤が効かないと報告があります。
ピレスロイド系:韓国、フランス、アメリカで効かないと報告があります。
国内では、ピレスロイド系(ペルメトリン、水性乳剤)の3日後の致死率が低い報告があります。効きにくいということです。
ただし、1匹ごとに噴霧すれば、ピレスロイド系でも殺すことができます。
残留噴霧では、ピレスロイド系は効きにくいということです。
有機リン系(フェニトロチオン、乳剤)の3日後の致死率は100%です。
専門業者の現場の施工では、有機リン系が使われているとのことです。
13【市販殺虫剤の成分】
容器の表示で確認することができます。
医薬品あるいは医薬部外品です。
名称の○○○リンは、一般にピレスロイド系で、トコジラミに効きにくいとされています。
市販品に、ピレスロイド系+オキサジアゾール系(メトキサジアゾン)、カーバメート系(プロポクスル)、メタジアミド系(ブラフラニリド、残留性高い)があります。
14【市販殺虫剤】
トコジラミ用は、ハエ・ゴキブリ用のエアゾール剤と比べて、高価です。
薬局より、ネットで比較的、購入しやすくなっています。
臭気が少ない、ピレスロイド系+オキサジアゾール系(イミプロトリン+メトキサジアゾン)は、1200円~4200円程度で、ネットで購入ができるとされています。
臭気が強いタイプのものが、比較的に効果があるといわれています。
空間噴霧剤は、ベッドの隙間などに薬剤がとどくかはわかりません。
殺虫剤を、トコジラミの歩く箇所に散布することで効果が出ます。
15【専門業者の施工】
薬剤をハケで施工する場合があります。
隙間に施工します。
16【化学物質過敏症】
微量の化学物質で、咳、頭痛、気持ちの悪さなど、症状が出ることがあります。
化学物質過敏症といわれることがあります。
健康面を考慮して、殺虫剤の処理ではなく、物理的な施工を優先する考え方があります。
17【専門業者の手順】
①作業スケジュール
防除1回目→1週間後→防除2回目→1週間後→効果判定
②防除方法
ケース1:殺虫剤使用
ケース2:IPM防除(総合防除、次のとおり)
・加熱乾燥車による乾熱殺虫:60~100℃
・スチームクリーナーによる温熱殺虫:100℃の水蒸気
・冷凍機材による冷凍殺虫:電気製品等対象
・掃除機による吸引:トコジラミ駆除に必須、紙パック使用
・コーキング:やっていない
・廃棄処分
(総合防除で、必要最小限の殺虫剤を使用することがあります)
③総合防除の施工費
50~100万円程度から
18【駆除の難しさ】
・根絶する必要がある。
・トコジラミ用の食毒剤がない。
・捕獲トラップがない。
・整理・整頓・清掃しても駆除に結びつかない。
19【業者選定のポイント】
次の点が大切です。
・ペストコントロール協会に加入している。
・会社の所在地がすぐわかる業者である。
・複数の業者から見積もりをとる。
【環監の視点】
私は、ホテル・旅館に滞在するとき、上記の写真のようにベッド周りを点検して、トコジラミの存在がないことを確認してから、部屋を使用しています。
ただし、これまで、トコジラミに遭遇したことはありません。
トコジラミの生態をよく理解して、行動することが大切だと思います。
これからも、宿泊時の点検をつづけるつもりです。
【ご案内】
・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。
・課題の解決につながる講座をご用意しています。
・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。
月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【実績】
(書籍)
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
(活動)
・2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。
①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)
(講師)
・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」の講師をつとめました。
・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。