【環監・保健師向け】大雨浸水地の感染予防対策
【環監の視点】
大雨浸水地で注意する主な感染症は次のとおりです。
①レジオネラ:土埃の吸込(マスク着用)
②破傷風:外傷(頑丈な靴底)
③レプトスピラ:汚水の接触(防水ズボン等着用)
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9月21日、前線や低気圧の影響で、石川県では記録的な大雨となり、気象庁から、石川県輪島市、珠洲市及び能登町に大雨特別警報が発表されました。
各地で大雨による浸水被害がありました。
大雨の地域の皆様へお見舞い申しあげます。
元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
能登半島地震・水害に関連して、「避難所・避難生活の衛生対策」について、これまでの被災地での避難所衛生対策活動等の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点で、継続して書いています。
全国保健師長会に情報提供しています。
今回は、大雨浸水地の感染予防対策についてふれます。
過去の水害で、避難所・ボランティア作業での感染症発生リスクについて、国立感染症研究所のホームページに「令和3年夏季の水害に関して被災地域において注意すべき感染症について(2021年7月9日現在)」として掲載されています。
このなかで、泥、土、汚水などから感染の可能性のある三つの感染症、レジオネラ、破傷風、レストスピラに注目します。
①レジオネラ
9月28日(土)のテレビのニュース映像で、床上浸水した仮設住宅での清掃ボランティアの様子がありました。
インタビューを受ける高校生のまわりで風が吹いて、後ろがかすむくらいに土埃が舞っていました。
私は、高齢者のかたのレジオネラ肺炎感染のリスクを感じました。
(感染例)
レジオネラ属菌は、レジオネラ肺炎の原因菌で、土壌中にいる常在菌です。
高齢者や基礎疾患のあるかた、過労など、免疫力が下がった状態で、感染リスクが高まります。
潜伏期間2~10日間で、レジオネラ肺炎は、高熱、全身倦怠感、筋肉痛、吐き気、下痢、意識障害などがおもな症状です。
令和元年台風19号被災地で、レジオネラ肺炎の感染例がありました。
浸水被災地で業務をしていた男性が、土埃を吸い込み、レジオネラ肺炎に感染したのです。
東日本大震災に関連するレジオネラ症の報告では、がれき撤去作業や浸水建造物清掃が感染経路と考えられるものが4例ありました。
河川氾濫や堤防越水等の水害被災地では、市街地等に広がった浸水に伴い、河川の底や堤防付近等の泥が多量に運ばれた後、乾燥して土埃となって空気中に舞い、レジオネラ症を引き起こす可能性があるのです。
(水害浸水地のレジオネラ属菌の存在)
私の調査で、令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥からレジオネラ属菌の生菌が検出されました。
令和4年台風15号による大雨被災地の泥からもレジオネラ属菌の生菌が検出されました。
(対応)
・屋外の着替えスペース:衣服の土埃や泥が室内に持ち込まれないように、屋外に衣服の着替えスペースを設ける。
・靴箱と靴洗いスペースの屋外設置:衣服と同様に、土や泥を室内に持ち込まない。
・玄関周りの水撒き:定期的に水撒きをして、土埃が立ちにくいようにする。
・マスクの着用:土埃が舞う可能性があるとき、屋外ではマスクを着ける。屋内で、外から土埃が入る可能性があれば、マスク着用が推奨される。
②破傷風
破傷風菌がつくる毒素によって起こる感染症です。
潜伏期間は3~21日で、筋肉のけいれん、硬直などの症状があります。
破傷風菌は、土壌などの環境に広くいます。
傷口から侵入して、傷のなかの酸素のないところで増殖し、毒素を産生します。
毒素は、神経のはたらきを抑制する神経に作用して、筋肉のけいれんや、こわばりの原因となります。
(対応)
・頑丈な靴底:傷口をつくらないように、がれき類のある被災地を歩くときは、靴底が固く厚いものを履くことが大切です。
・ワクチン接種:ワクチンによる予防効果が大きいとされています。
③レプトスピラ
レプトスピラ症は、病原性レプトスピラ感染に起因する人獣共通の細菌(スピロヘータ)感染症です。
病原性レプトスピラは、ドブネズミなど保菌動物の腎臓に保菌され、尿中に排出されます。
人への感染は、保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的あるいは経口的に起きます。
潜伏期間は5~14日間で、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、腹痛、結膜充血などの症状があります。
(対応)
・汚水に入らない:汚染された水との経皮的な接触をさける。
・防水ズボン等の着用:汚染された水や土壌との直接的な接触をさける。
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月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【実績】
(書籍)
・2022年、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
・2020年、全国保健師長会・作成『災害時の保健活動推進マニュアル』の生活環境衛生対策の分担執筆をしました。
(活動)
・被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
2011年 東日本大震災、気仙沼市
2016年 熊本地震、熊本市
2018年 西日本豪雨、倉敷市
2019年 令和元年台風19号、長野市、いわき市
2024年 能登半島地震、七尾市、珠洲市
(講師)
・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」の講師をつとめました。
・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」の講師をつとめました。
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。