【環監・保健師向け】大雨浸水時の家屋内の消毒方法
9月21日現在、前線や低気圧の影響で、石川県では記録的な大雨となり、気象庁から、石川県輪島市、珠洲市及び能登町に大雨特別警報が発表されました。大雨による浸水被害が考えられる為、過去の対策記事を一部加筆修正して再掲載いたします。
【環監の視点】
水害時の家屋内の消毒のポイントは、次のとおりです。
①可能なかぎり水道水で洗い流す
②家具、便器など、塩化ベンザルコニウム液0.1%を使用する
③注意:消石灰の取り扱い
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元文京区文京保健所・環境衛生監視員(環監)で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2024(令和6)年7月25日、山形県の市町村に大雨特別警報が発表されました。
山形県、秋田県などで大雨による浸水被害がありました。
大雨の地域の皆様へお見舞い申しあげます。
水害のときに、浸水した家屋内の消毒をどのようにするかについて、保健所に相談が寄せられることがあります。
水害時の家屋内の消毒をとりあげます。
①水道水で流す
消防関係者から、タンクローリー横転による道路上の劇物流出での処理を聞いたことがあります。
とにかく、多量の水で流すとのことでした。
私が所属していた保健所では、水害時の消毒の相談を受けたとき、まず浸水した箇所を可能なかぎり水道水で流すことをアドバイスしました。
水道水は、清浄であるだけではなく、コレラや赤痢の経口感染症を防ぐために消毒用の塩素剤が添加されています。
通常、消毒に有効な遊離残留塩素濃度が0.3~0.4mg/L程度あります。
塩素を含む水道水で、汚れた箇所を洗い流すことが大切です。
家の周囲や床下は、洗い流したあとに、十分に乾燥させることが必要です。
床下の乾燥のとき、状況によっては、扇風機やサーキュレーターの使用が有効です。
②塩化ベンザルコニウム液
私の保健所では、床下・床上浸水時に、家屋内の浸水箇所の消毒を希望するときには、逆性せっけん液(塩化ベンザルコニウム液)を勧めていました。
最近の水害時の家屋内の消毒には、塩化ベンザルコニウム液が使われることが多いように思います。
手元にある広島市の資料を参考に使用方法をご説明します。
通常、塩化ベンザルコニウム液の原液は10%です。
原液を100倍希釈して使用します。
汚れがあるものは、洗い流してから、希釈した消毒液をきれいな布などに含ませて拭くか、噴霧して使います。
家具や便器などに使うことができます。
取り扱いのとき、手袋などを使うといいでしょう。
③注意:消石灰の取り扱い
2015年の常総水害、2018年の西日本豪雨、2019年の令和元年台風19号、過去の水害浸水地の家屋の現場で、私は、消毒に消石灰が使われたのを見ました。
災害医療の関係者の話によると、西日本豪雨被災地で結膜炎や湿疹などの症状の患者が出ました。
あとになって、原因が消石灰とわかったということです。
(『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)に、家屋内の消毒についての詳しい記述があります)
過去の被災地では、畳が上げられ、床下の土が露出した部分に、白色の消石灰の粉が多量にまかれている現場を幾度も見ました。
消石灰の主成分は、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]で強いアルカリ性です。
皮膚、口、呼吸器等を刺激し、炎症を起こしたり、目に対して腐食性があり視力障害を起こしたりする場合があります。
汗をかいた腕に消石灰の粉がふれて、赤くただれてしまったという声を聞いたことがあります。
取り扱いをするときは、保護メガネ、保護手袋、保護マスクを着用することが必要です。
消石灰は、取り扱いに注意が必要なだけではなく、復旧時に扱いに困ることがあります。
2019年の令和元年台風19号被災地の長野市保健所で、保健師がうけた市民からの相談はこうでした。
「床下にまかれた消毒用の消石灰を、建物のリフォームのとき、どうしたらいいのですか?」
保健師のかたは、「行政で配布した消石灰を自宅で使ってもらい、時間が経過したら、飛散を防ぐために土で覆ってくださいとは言いづらい」と話していました。
そのとき、正直、私は取り扱いが難しいと感じました。
白色の粉状に残る消石灰が風にふかれて家のなかで舞ったとき、目に入ったり皮膚についたりして健康被害の可能性があると思いました。
それを防ぐには、消石灰を土で覆ってしまうか、取り除くしか頭にうかんできませんでした。
【環監の視点】
水害時の家屋内の消毒のポイントは、次のとおりです。
①可能なかぎり水道水で洗い流す
②家具、便器など、塩化ベンザルコニウム液0.1%を使用する
③注意:消石灰の取り扱い
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【実績】
(書籍)
・2022年、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
・2020年、全国保健師長会・作成『災害時の保健活動推進マニュアル』の生活環境衛生対策の分担執筆をしました。
(活動)
・被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
2011年 東日本大震災、気仙沼市
2016年 熊本地震、熊本市
2018年 西日本豪雨、倉敷市
2019年 令和元年台風19号、長野市、いわき市
2024年 能登半島地震、七尾市、珠洲市
(講師)
・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」の講師をつとめました。
・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」の講師をつとめました。
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。