【環監・保健師入門】レジオネラ症対策・検査法を知る

【環監の視点】
私の経験から、施設では、保健所が検査に来ると予想すると直前に消毒の塩素濃度を高めることがありました。
培養法と迅速法を組み合わせて検査をすると、菌が元々いた場合では、迅速法で菌の有無・菌量を調べることができます。
このように、迅速法を併用することで、見過ごしてしまいかねないレジオネラ属菌の存在をつきとめることが可能になります。

コロニーが現れた培地(イメージ写真)

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員(環監)で、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2023(令和5)年11月中旬、都内で開催された第5回 Hospital Water Hygiene 研究会学術集会(主催:Hospital Water Hygiene 研究会、会場及びオンライン)に会場で参加しました。

学術集会は、レジオネラ症対策など、医療機関の Water Hygiene(水の衛生) 対策を考える内容です。

レジオネラ研究者、病院関係者、行政関係者など、全国から100人を超える参加者がありました。

内容は、講演、シンポジウム、一般演題の発表でした。

シンポジウム「設備・管理・対策」のなかで、レジオネラ肺炎の原因菌であるレジオネラ属菌の検査法にふれた報告がありました。

今回は、レジオネラ属菌の検査法を解説します。

解説については、国立感染症研究所・倉文明先生のご意見を参考にしました。

レジオネラ属菌の検査法には、大きく分けて2種類あります。

培地培養法(培養法)と迅速検査法(迅速法)です。概略は、次のとおりです。

なお、検査法の詳細や写真の掲載は、『レジオネラ症対策のてびき』中臣昌広著、倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)P18~P21にあります。

検査法の公的な記述は、<厚生労働省・令和元年9月19日付通知 公衆浴場における浴槽水等のレジオネラ属菌検査方法について>にあります。

【培養法】

生きた菌を培養して検査するのが培養法です。

栄養源を含んだ寒天培地を用意し、培養します。

培養法では、まず検査対象となる浴槽水やシャワー水をフィルターに通します。

菌は水分子より大きく、フィルターにひっかかる仕組みになっているので、そのフィルターにとまった菌を培地に植えつけます。

培養には7日間を要し、もしそこにレジオネラ属菌がいれば、培地の上に小さな白い菌が生えてきます。

この菌を数えて検査結果としています。

【行政と民間検査機関との検出率の違い】

行政検査による試料検体数あたりの検出率が、民間検査機関より高いと聞いたことがあります。

以前に聞いた地方衛生研究所関係者の話によると、レジオネラ属菌を対象にした選択分離培地について、行政では2種類、民間検査機関では1種類を用いて検査をしている影響があるとのことでした。

それ以外に、試験検査の精度管理の実施・徹底なども関係があるといわれています。

レジオネラ症対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

レジオネラ症対策の講師ご依頼につきまして、お気軽にお問い合わせください

【迅速法】

迅速法には、PCR法、LAMP法などがあります。

PCR法は、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)のことで、遺伝子情報のDNAを増幅させるための手法です。

LAMP法は、Loop-mediated Isothermal Amplificationの略で、遺伝子の増幅法の一つです。

一般的に、迅速法は、すでに死んでしまった菌も対象にして確かめる検査です。

遺伝子的に、菌を構成する化学物質が存在するかを調べるものになります。

迅速法の利点は、1日かからずに検査結果が出ることです。

菌検出後、浴槽使用を停止している施設が配管洗浄を終えたあと、再び使用を再開できるかどうかを判断するときに用いられています。

【保健所の現場検査に有効な手法】

私の所属した文京区文京保健所では、行政検査で浴槽水のレジオネラ属菌の有無を調査するとき、培養法と迅速法(PCR定量法)とを組み合わせて実施していました。

迅速法は、培養法を補完する役割があります。

浴槽水に消毒の塩素が十分にあるケースでは、培養法で陰性、迅速法で陽性のときがあります。

これは、すでに塩素によって殺菌がされているためで、培養法では不検出になる一方、死菌まで遺伝子的に調べることができる迅速法では検出となることがあるのです。

私の経験から、施設では、保健所が検査に来ると予想すると直前に消毒の塩素濃度を高めることがありました。

培養法と迅速法を組み合わせて検査をすると、菌が元々いた場合では、迅速法で菌の有無・菌量を調べることができます。

このように、迅速法を併用することで、見過ごしてしまいかねないレジオネラ属菌の存在をつきとめることが可能になります。

【塩素消毒の迅速法への影響】

消毒の塩素剤が、遺伝子情報の分子を壊してしまう可能性はないのでしょうか。

塩素の影響はあります。

ただし、遺伝子情報の痕跡がまったくなくなることはないと考えられます。

通常の浴槽水の遊離残留塩素濃度は、基準の0.4mg/L以上を維持するため、0.6~0.8mg/L程度で管理されることが多いでしょう。

国立感染症研究所の倉文明先生の資料によると、実験室的なデータで、レジオネラ属菌について、消毒に有効な遊離残留塩素濃度が、通常よりやや高めの 1.25mg/L のときには、PCR検査の遺伝子情報が1日でおよそ3/4 になると推測されます。

かりに、実験室的に同じ状態で7日間経過すると、PCR検査の遺伝子情報は1/10程度になると考えられます。

当初に存在する菌が多量であれば、迅速法により十分に検出可能だと考えていいと思います。

【環監の視点】

私の経験から、施設では、保健所が検査に来ると予想すると直前に消毒の塩素濃度を高めることがありました。

培養法と迅速法を組み合わせて検査をすると、菌が元々いた場合では、迅速法で菌の有無・菌量を調べることができます。

このように、迅速法を併用することで、見過ごしてしまいかねないレジオネラ属菌の存在をつきとめることが可能になります。

レジオネラ症対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

レジオネラ症対策の講師ご依頼につきまして、お気軽にお問い合わせください

【ご案内】

【来年度講座】

2024(令和6)年度のオフィス環監未来塾の講座一覧表ができました。

【現場力アップ講座】

【オンライン講座】保健所・環境衛生監視員対象、環監の現場の指導・助言に活かすコミュニケーション・スキル講座(信頼関係をつくる)を開催します。

【環監育成講座・オンライン】

保健所・環境衛生監視員対象、現場へ行くのが楽しくなる! 講義とワークショップを通じて、専門性と現場実践力をアップさせる講座を開催します。

『レジオネラ症対策のてびき』の概要はこちらから確認できます。ご購入をお考えのかたも、こちらから注文ができます。

・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。

・課題の解決につながる講座をご用意しています。

・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。

月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。

所属(必須)

職種(必須)

自治体名(任意)

担当者名(必須)

メールアドレス(必須)

【実績】

・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。

・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。

Follow me!