【環監・保健師入門】レジオネラ症対策・冷却塔とレジオネラ症
【環監の視点】
行政の、病院への医療監視の場面で、建築物衛生法のビル衛生検査の知識・スキルを持ち、レジオネラ症対策の視点を有する環監の協力が欠かせないと考えます。
こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2023(令和5)年9月下旬、環監未来塾私塾・無料講演会(主催:オフィス環監未来塾、オンライン)を開催しました。
全国・保健所環境衛生監視員他13名のかたが参加されました。
テーマは、レジオネラ症対策「空調設備・冷却塔のレジオネラ属菌対策」です。
宮城県内の病院の冷却塔が汚染源と考えられるレジオネラ症の集団発生事例をうけての内容でした。
宮城県の集団発生事例は、次のURLに資料があります。URLをコピーしてご確認ください。
https://www.pref.miyagi.jp/documents/48529/legionnaire_03_20230911.pdf
講師は、アクアス株式会社・技術顧問の縣邦雄氏です。
冷却塔のレジオネラ属菌対策の第一人者のかたです。
参加者のご感想では、「冷却塔の専門家から貴重な話を聞けたため。今後の業務にかなり活かせそうでした」「相談があったときに、今回の知識が参考になると思いました」と声をいただきました。
ご講演の後半で、参加者のかたから質問があり、縣氏からご回答いただきました。
私が理解した内容とともに、私が理解したご回答内容として、環監業務に有益な内容ですので、ご紹介します。
【冷却塔の仕組み】
冷却塔は、屋上にあり、主に夏季の冷房に使用される冷却水が配管を循環するとき、熱交換されて温まった冷却水の温度を5℃程度下げる装置です。
再び水を冷却する前に冷却塔に通すことで、熱効率を良くし、省エネルギーにつながります。
仕組みは、次のとおりです。
①冷却塔の上部から散水
②充填材(板状プラスチック、約2cm間隔)を流れ落ちる
③空気が横から入ってくる
④水が蒸発して潜熱を奪う
⑤冷却水の温度が下がる
冷却水温の一例:37℃→32℃
気温、湿度の違いで負荷が変化する
⑥循環することで水が節約できる
⑦循環水量の約1%が蒸発するので補給する
⑧溶解塩類や空気の汚れが冷却水に濃縮される
⑨冷却水処理が必要になる
【冷却塔の維持管理】
東京都健康安全研究センターのホームページでは、こう説明されています。
①使用期間中はレジオネラ属菌の増殖を抑えるため、殺菌剤等を継続的に添加する。
②月1回程度、冷却塔の点検、清掃を行う。
③冷却塔の使用開始時及び終了時には、冷却水管も含めて殺菌剤を用いた化学的洗浄を行う。
④定期的にレジオネラ属菌検査を行う。
なお、エアロゾルを直接吸引する可能性が低い場合、100 CFU/100mL 以上検出された場合は直ちに清掃、消毒等の対応を行い、実施後は、検出限界(10CFU/100mL)以下であることを確認するとされています。
ちなみに、宮城県の病院の冷却塔採水検体からは、 9,700 万 CFU/100ml が検出されました。
【レジオネラ症対策のご相談】
レジオネラ症対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください
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【来年度講座】
2024(令和6)年度のオフィス環監未来塾の講座一覧表ができました。
【質疑応答】
【冷却塔からの飛散距離】
(質問)
冷却塔からのエアロゾルが、ビル周囲どのくらいの距離まで飛んで感染が起きていますか?
(回答)
フィラデルフィアの事例では、ビル周囲200mで患者が出ています。ロンドンでも同様でした。
イギリスでは、サーベランスにより半径500mの範囲で調査、その範囲終了後半径1,000mに拡大されるとのことです。
【水処理剤の排水基準】
(質問)
水処理剤バイオサイドの化学物質を使用するとき、排水基準、排水時の処理方法はありますか?
(回答)
特にありません。
自主基準により、排水基準に配慮されています。
洗浄剤の場合、過酸化水素は中和剤が使われています。
【過去の冷却塔の感染事例】
(質問)
今回の宮城県の事例以外で、日本での冷却塔の感染事例を教えていただけますか?
(回答)
①1980年、福岡の病院でレジオネラ集団発生が起き、冷却塔の疑いがもたれました。
②1994年8月、都内の企業の研修施設で45人(研修生全員と職員2人)がポンティアック熱(レジオネラ症)になりました。その後、軽快しました。
屋上の冷却塔が原因と考えられ、冷却水からレジオネラ属菌が検出されました。
③2003年9月、京都のごみ処理施設で2人が感染しました。
【冷却塔の菌検出時の緊急対応】
(質問)
冷却塔の菌検出時の緊急対応を教えてください。
(回答)
緊急洗浄の一例は、次の手順になります。
①補給水を止める
②次亜塩素酸ナトリウム20 mg/L の濃度で、冷却水の系統を循環させる
③24時間循環する
10 mg/L 以上を維持する
化学洗浄後に水洗を実施し、迅速法(PCR法)及び培養法の検査をおこない、菌検出限界(10CFU/100mL)以下であることを確認する必要があります。
銅管がある場合、腐食に配慮が必要です。
状況に応じて、過酸化水素(薬品の準備に手間がかかる)の使用も選択肢の一つになります。
【冷却水の水質検査項目】
(質問)
月1回実施の冷却水水質分析はどのような項目について実施し、結果をどのように活用されるのでしょうか?
(回答)
冷却水の水質検査は、10項目です。
pH、電気伝導率、カルシウム、マグネシウム、酸消費量(pH4.8)、塩化物イオン、硫酸イオン、シリカ、鉄、銅、
薬剤(防食防スケール剤)濃度、冷却水処理(スケール防止、スケール防止)が適切に行われていることの確認をし、水質が基準値を外れた場合は、是正を行う必要があります。
冷却水のレジオネラ検査の目安は、年に2回です。設備が大きいところでは、毎月実施のケースがあります。
【環監の視点】
宮城県の事例から、冷却塔のリスクを再認識させられました。
問題は、建築物衛生法の特定用途に該当しない病院施設や、床面積が3,000m2未満で特定建築物に該当しない施設が多くあることです。
特に、病院では、免疫力の下がった患者や通院者の存在があり、レジオネラ属菌がエアロゾルで舞う状況が生じれば、より感染リスクが高くなる可能性があります。
行政の、病院への医療監視の場面で、建築物衛生法のビル衛生検査の知識・スキルを持ち、レジオネラ症対策の視点を有する環監の協力が欠かせないと考えます。
【レジオネラ症対策のご相談】
レジオネラ症対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください
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【ご案内】
【来年度講座】
2024(令和6)年度のオフィス環監未来塾の講座一覧表ができました。
【環監育成講座・オンライン】
保健所・環境衛生監視員対象、現場へ行くのが楽しくなる! 講義とワークショップを通じて、専門性と現場実践力をアップさせる講座を開催します。
・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。
・課題の解決につながる講座をご用意しています。
・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。
月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【実績】
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。