【環監・保健師入門】災害時の衛生・水害被災地の泥とレジオネラ肺炎
【環監の視点】
水害被災地では、広範囲に泥が残ることで、広い面積に土埃が舞う可能性があり、通常より土埃によるレジオネラ肺炎感染のリスクが高まると考えられます。
こんにちは 元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、避難所の衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2023(令和5)年8月30日(水)に、大阪府で開催された日本防菌防黴学会・第50回年次大会で、「令和4年台風15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」を発表しました。
共同発表者は、国立感染症研究所・前川純子先生とアクアス株式会社・つくば総合研究所・井上浩章先生です。
2022(令和4年)9月の台風15号の水害直後の静岡市清水区を訪れて、市内を流れる巴川の遊歩道浸水箇所及び堤防越水箇所で泥を採取しました。
約1カ月間の検査のあと、巴川の遊歩道及び堤防越水場所の計2試料からレジオネラ属菌が検出されました。
泥が、乾燥して土埃となって空気中に舞うとき、土埃の小さな粒子にレジオネラ属菌が含まれていれば、吸い込んだ口から肺まで運ばれて、肺炎を引き起こす可能性があります。
糖尿病や病気治療をされているかた、高齢者のかたが罹りやすい傾向があります。
何より、水害被災地では、広範囲に泥が残ることで、広い面積に土埃が舞う可能性があり、通常より土埃によるレジオネラ肺炎感染のリスクが高まると考えられます。
ご参考までに、大会要旨集の抜粋を掲載します。
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「令和4年台風15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」
○中臣昌広1、井上浩章2、前川純子3
1オフィス環監未来塾、2アクアス(株)つくば総研、3国立感染研・細菌1
本研究は厚生労働科学研究費(健康安全・危機管理対策総合研究事業)(JPMH22LA1008,研究代表者:泉山信司氏)の補助を受けて実施されたものです。
【目的】
これまでの東日本大震災に関連するレジオネラ症の報告のうち、がれき撤去作業や浸水建造物清掃が感染経路と考えられるものが4例あった。
また、第48回年次大会で報告したとおり令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥からレジオネラ属菌の生菌が検出された。
今回は、前回の令和元年台風19号被災地に続き、実際の水害被災地で、泥のなかにレジオネラ属菌が生息しているかを調査したので、その結果について報告する。
【方法】
2022年9月23日夕方から24日明け方に、令和4年台風第15号の影響で静岡県では猛烈な雨が降り、河川の堤防越水があった。
同月25日に静岡県清水区で、浸水地域の泥を採取して試料とし、試料中のレジオネラ属菌を検査した。
静岡市清水区を流れる巴川の遊歩道及び堤防越水場所で8試料を採取した。
泥試料からのレジオネラ属菌検出方法は、アメーバ共培養法を用いた。
【結果】
8試料中、巴川の遊歩道及び堤防越水場所の計2試料からレジオネラ属菌の生菌が検出された 。
菌種は全て Legionella pneumophila であった 。
遊歩道からserogroup 8(ST1324)と10(ST1547)が、堤防越水場所からserogroup 5(ST2908)が検出された。
なお、L. pneumophila serogroup 5、8、10は、2008~2016年にそれぞれ4株、1株、3株の臨床分離株があったと報告されている。
【まとめ】
水害被災地では、レジオネラ感染への注意喚起をするとともに、土壌、泥等の土埃からのレジオネラ症感染予防のためにマスクの着用が重要だと考える。
今後も、被災地の泥に生息するレジオネラ属菌の調査を継続し、日常時の啓発活動及び水害被災地の避難者等の健康管理につなげていく。
【環監の視点】
何より、水害被災地では、広範囲に泥が残ることで、広い面積に土埃が舞う可能性があり、通常より土埃によるレジオネラ肺炎感染のリスクが高まると考えられます。
免疫力が落ちて感染リスクが高いと考えられる高齢者のかたは、災害時に避難所、介護施設、病院などにいると思われます。
そうした施設では、泥や土埃を人が室内に持ちこまないように、着替場所や靴箱の屋外設置や、土埃を抑えるために玄関まわりの水まきなどが大切になります。
詳しい対処は、別ページでご紹介しています。
こちら https://kankan-mirai.com/2517/
また、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)に、水害被災地の泥の状況など詳しい説明があります。
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【実績】
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。