【環監・保健師入門】レジオネラ症対策・感染源を特定する手法
【私の視点】
今後、レジオネラ症の感染源特定には、パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)法に代わり、SBT法などが使われていきます。
行政機関で、SBT法など感染源特定の検査手法の習得が急がれると感じました。
こんにちは 元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2023(令和5)年5月下旬、環監未来塾私塾・講演会をオンライン開催しました。
テーマは、「公衆浴場等のレジオネラ症対策、レジオネラ感染事例と感染源特定SBT法」です。
講師は、神戸市健康科学研究所・感染症部・副部長の中西典子氏です。
全国の保健所・環境衛生監視員等、14人が参加しました。
ご講演から、私が理解した内容をご紹介します。
【感染源特定の手法】
『レジオネラ症防止指針 第4版』(公益財団法人日本建築衛生管理教育センター)によると、レジオネラ症の感染源特定の手法に、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)やSBT(sequence-based typing)などがあります。
感染源特定とは、たとえば、患者の喀痰の培養菌と、患者が利用した浴槽水由来の培養菌とが一致することで、感染源を特定することです。
中西先生の話では、レジオネラ症感染源特定のためのPFGEの機器や試薬はすでに販売中止になっていて、これからの感染源特定でSBTなどが使われていく状況になっているとのことです。
昨年の神戸市のレジオネラ症感染事例では、神戸市健康科学研究所により、わが国で初めてとされるSBT法及び全ゲノム解析による感染源特定がされました。
SBT法は、病原遺伝子を含む7つの遺伝子の配列パターンからST(sequence type、配列型)を特定するものです。
SBT法の特徴は、異なる地域・ラボ間での比較が容易なこと。国際間の比較ができること。世界共通のST比較ができることです。
【レジオネラ症調査の手引き】
中西典子氏から情報提供のあった参考資料です。
「公衆浴場等入浴施設が原因と疑われるレジオネラ症調査の手引き」
公開されている資料です。
厚生労働科学研究 (健康安全・危機管理対策総合研究事業)
公衆浴場におけるレジオネラ症対策に資する検査・消毒方法等の衛生管理手法の開発のための研究(令和元年~)
次のURLから、内容を見ることができます。
https://sites.google.com/view/legionella-resgr/about
そのなかに、レジオネラ症調査の手引きがあります。
講義中に説明された箇所の抜粋は、次のとおりです。
(6-3-2. 分子疫学解析)
患者及び施設から同一種・血清群のレジオネラ属菌が分離された場合に行う。
当該施設が感染源であると判断するためには、分子疫学解析を実施することが望ましい。
パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法、Sequence Based Typing(SBT)法、MLVA(multiple-locus variable-number tandem-repeat analysis)法などがある。
(7. 検査結果の解釈)
(7-1. 患者からも施設からも菌が分離された場合)
患者及び施設から同一種・血清群のレジオネラ属菌が分離された場合は、当該施設が感染源の可能性があるので、患者調査及び施設調査の結果(潜伏時間と施設利用の関係等)から総合的に判断する。
その際、分子疫学解析の結果を補完的に用いることができる。PFGE法、SBT法、MLVA法など複数種の解析方法を組み合わせることが望ましい。
【質疑応答】
参加者と講師との質疑応答から、環監業務に参考になる内容をご紹介します。
【パルスフィールドゲル法とSBT法との違い】
質問:
パルスフィールドゲル電気泳動法とSBT法との違いは?
回答:
パルス法は、ゲノム、遺伝情報、染色体全体を見ています。
SBT法は、一部の遺伝子の数百塩基の違いを調べる方法です。
【投薬後の尿中抗原の陽性】
質問:
尿中抗原は服薬後、どのくらいの間、検出されるか?
回答:
尿中抗原の検出は長期間、陽性の結果を維持しやすいといわれています。
【私の視点】
私が環監として関わり、感染源特定に至った例が二つあります。
そのいずれも、パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)法によるものでした。
衛生研究所など試験検査部門に残るPFGE試薬が期限を迎えれば、感染源特定の手法はSBT法などへ移行せざるを得ません。
そう考えると、今後、レジオネラ症の感染源特定には、パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)法に代わり、SBT法などが使われていきます。
行政機関で、SBT法など感染源特定の検査手法の習得が急がれると感じました。
【ご案内】
【講座】保健所・環境衛生監視員対象、レジオネラ症対策を現場で学ぶ、基本とスキル習得講座・実践編2日間コース(会場開催、公衆浴場施設の現場見学付)を開催します。
【講座】保健所・環境衛生監視員対象、効果的な指導・助言に活かすコミュニケーション・スキル講座・実践編2日間コース(会場開催、理容所実習付)を開催します。
・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。
・課題の解決につながる講座をご用意しています。
・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。
月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【実績】
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。