【環監・保健師向け】避難所に段ボールベッドを導入するとき
【避難所の段ボールベッド】
①能登半島地震被災地での導入
②値段
③規格
④温度データ
⑤段ボールベッド導入前の説明会
⑥コーディネーターの存在
⑦導入時の優先順位
⑧段ボールベッド導入の協定書
⑨段ボールベッド導入の相談先
⑩段ボールベッドの劣化
元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2024(令和6)年3月下旬、第26回環監未来塾私塾・講演会をオンライン開催しました。
テーマは、「災害時の衛生、段ボールベッドと避難所の環境整備」です。
講師は、Jバックス株式会社 代表取締役、避難所・避難生活学会 常任理事の水谷嘉浩氏です。
全国の保健所・環境衛生監視員、保健師等、11名の皆様が参加しました。
災害時の避難所・避難生活の衛生対策に有用な内容ですので、ご講演から、私が理解した内容をご紹介します。
全国保健師長会に情報提供しています。
①能登半島地震被災地での導入
水谷氏は、1月上旬から中旬にかけて、能登町で活動しました。
防災協定により、1/13 に要請をうけた3日後の1/16 に新品の段ボールベッドが能登町に入りました。
1週間で、12カ所の全避難所に入りました。
現場の保健師から、導入があと1週間早かったら、血栓の発生をもう少し抑えられたと声があったそうです。
1/20 以降、水谷氏は、輪島市へ入り、2月上旬まで、避難所・避難生活学会の立場で、5~6カ所の避難所の段ボールベッド導入に関わったとのことです。
②段ボールベッドの値段
段ボールベッド1人用の値段は、13年くらい前は約4,000円と聞きました。
現在、材料費高騰の影響で、1人用が約1万円とのことです。
③段ボールベッドの規格
水谷氏が関わる業界団体として、次のとおり標準仕様があります。
縦(幅)194cm × 横(奥行)90cm × 高さ 35cm
製造の会社がいくつもあり、各社が独自の仕様をとっているのが実情です。
12種類以上の段ボールベッドがあると見られています。
自治体の市区町村それぞれで、調達のやり方が違い、同じ県内でも、違うタイプが入ってしまうことがあります。
いま標準化が望まれています。
④段ボールベッドの温度データ
水谷氏の実験データがあります。
過去の3月に、北海道の室温5℃の体育館に段ボールベッドを置き、寝袋で寝たときのデータです。
床面に敷かれたブルーシートと比較して、段ボールベッド上の温度変化を計測しました。
最高温度が約24℃となり、ブルーシートとの温度差が最大で9℃高くなっていました。
⑤段ボールベッド導入前の説明会
避難所に段ボールベッドを導入するとき、避難者のかたに利点・使用上の注意点など理解していただくために、導入前に説明会をすることがあります。
説明会で大切な内容は、次のとおりです。
・協力をお願いする。
・雑魚寝の健康被害を考えて、ベッド導入が必要な旨を伝える。
・希望しない人のほか、全員に提供する。
・私物をいったん撤去して、スペースを空けてもらう。
説明会を開催したあと、避難者のかたが設置に協力してくれることがありました。
説明は、医療関係者から行われると、健康面から段ボールベッド導入が望ましいことが伝わり、導入がスムーズになるといわれています。
行政からの説明は、上からの強制とうけとられ、反発をうむことがあるそうです。
⑥コーディネーターの存在
段ボールベッド導入には、水谷氏のようなコーディネーターがいると円滑に進むことができます。
なぜなら、段ボールベッド導入には、導入計画、調達、ベッド配置のゾーニング、設置に必要なマンパワーの確保などが必要になるからです。
段ボールベッドの運搬は、ベッド100台分を運ぶにあたり、4トン・トラック1台が必要です。
水谷氏は、「ベッド設置の日の朝、避難所への導入がうまくいくのか緊張する」と話していました。
平時に段ボールベッド導入の計画をしておくことが重要になります。
⑦段ボールベッド導入時の優先順位
一般的に、必要度の高い順に導入がされます。
たとえば、生活環境が劣悪、人数が多いなどです。
大規模な避難所が優先されます。大きい順に順番となります。
避難所1カ所を全員分ベッド化するには、1日を要するかもしれません。
翌日に、別の避難所に導入をしていきます。
小規模な避難所は、1日に複数箇所の設置ができると思われます。
⑧段ボールベッド導入の協定書
水谷氏から提供された、協定書の見本があります。
※画像をクリックすると、pdfを開くことができます。ご活用ください。
⑨段ボールベッド導入の相談先
災害時・平時の段ボールベッド導入の相談先は、避難所・避難生活学会事務局になります。
メールアドレスは、次のとおりです。
info(at)dsrl.jp
*(at)部分を@に変更してください。
避難所・避難生活学会のホームページのトップページで、上のMENUバーから「入会案内」ページに移動すると、 避難所・避難生活学会事務局の電話番号を確認できます。
⑩段ボールベッドの劣化
水谷氏の話によると、日常生活の場で10年以上の使用に耐えた段ボールベッドがあるとのことです。
能登半島地震被災地の避難所で、2カ月以上使用している段ボールベッドが崩れて、使用者が骨折した事例があったと聞きました。
被災地で見られた段ボールベッドは、12種類以上あったといわれています。
製造会社により段ボールの材質や形状が異なり、形状の維持や耐久性が違ってくると想像されます。
強固な形状の種類がある一方、接合部のずれが生じる種類があったのかもしれません。
湿気や使用状況により、強度が下がってくる可能性もあると思います。
段ボールベッドの弱点は、湿気をもつと強度がさがり、変形しやすくなることです。
実際に、2016年の熊本地震被災地の熊本市の避難所で使われていた段ボール仕切りが、梅雨に湿気をもって、変形して傾いている光景を見ました。
2018年の西日本豪雨被災地の避難所では、避難所運営者が「段ボールベッドを2カ月使うと、段ボールがかなり傷むので、退出時に段ボールベッド希望の人には新しい物を渡している」と話していました。
段ボールベッドの種類によっては、経時的に耐久性が下がるものがあるようです。
2カ月程度以上の経過時に、段ボールベッドの傷み具合を点検してもいいかもしれません。
一定強度・適切なサイズ等が保証される段ボールベッドの標準化・規格化の浸透が今後の課題だと思います。
災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください
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『災害時・避難所の衛生対策のてびき』ご購入をお考えのかたは、こちらから注文ができます。
【ご案内】
【2024(令和6)年度講座】
2024(令和6)年度のオフィス環監未来塾の講座一覧表をご覧いただけます。
【自治体職員対象】無料講演会
「夏季災害時の避難所・避難生活の熱中症対策」
第29回環監未来塾私塾「災害時の衛生」無料講演会を開催します。
(1) 日時 2024年9月13日(金)18時00分~19時30分
(2) 場所 オンライン(Zoomを使用します)
(3) 対象 自治体職員(保健所・環境衛生監視員ほか)30人
申込多数の場合、枠を広げる可能性があります。
(4) 内容 夏季災害時の避難所・避難生活の熱中症対策
(5) 講師 松本孝朗氏(中京大学スポーツ科学部教授)
・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。
・課題の解決につながる講座をご用意しています。
・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。
月に数回、環監のための、レジオネラ症対策、防災、仕事術、講座情報など、最新情報をメールで真っ先にお届けします。ご希望される場合、こちらにご記入ください。
【実績】
(書籍)
・2022年、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
・2020年、全国保健師長会・作成『災害時の保健活動推進マニュアル』の生活環境衛生対策の分担執筆をしました。
(活動)
・被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
2011年 東日本大震災、気仙沼市
2016年 熊本地震、熊本市
2018年 西日本豪雨、倉敷市
2019年 令和元年台風19号、長野市、いわき市
2024年 能登半島地震、七尾市、珠洲市
(講師)
・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」の講師をつとめました。
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。