【環監向け】レジオネラ・浴槽水の淀み
【浴槽水の淀み】
1 相談例
2 淀みの推測と確認方法
3 淀みの解消方法
4 日向サンパーク温泉の場合
5 環監の視点(行動変容を考えた行動)
6 研修講座の案内

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
2025(令和7)年10月下旬、A自治体で保健所・環境衛生監視員向けのレジオネラ現場研修会の講師をつとめました。
施設は、温泉利用施設で、循環ろ過で浴槽水を処理しています。
施設の設備担当者から、「浴槽水の残留塩素濃度を測定すると、小浴場では 1.5 mg/L あるのに、大浴場では 0.3 mg/L しかない。原因がわからないので、教えてほしい」と相談がありました。
環監業務に有用な話ですので、ご紹介します。
1 相談例
上記の相談について、もう少し詳しく見ていきましょう。
浴槽水の残留塩素濃度の測定のときの、浴槽の形状と採水場所、湯の流れに注目しました。
(小浴場)
形状は、正方形の変形と言っていいかもしれません。
浴室側の浴槽縁は、曲線を描いていて、右側が手前に少し出っ張っています。
その出っ張った浴槽部分から、採水しているとのことでした。
浴槽について、説明します。
右手奥に源泉の落とし口、右手底に、ろ過戻り口2個があり、左手底に、ろ過吸い込み口2個があります。
(大浴場)
形状は、長方形の変形と言っていいかもしれません。
浴室側の浴槽縁は、曲線を描いていて、左側が手前に出っ張っています。
その出っ張った浴槽部分から、採水しているとのことでした。
左手奥に源泉の落とし口があります。
20cmくらい落下していて、水面にしぶきが見えました。
落とし口付近の底に2カ所、直径15cmくらいの吸い込み口があり、ろ過器へ湯が運ばれています。
反対側の右手奥に、ろ過器からの戻りの塩ビ管が浴槽水に浸かっています。
ろ過器からの戻りの湯は、浴槽の右から左の吸い込み口へ向かって流れていると考えられます。
浴槽左側の手前の縁は、やや下がっていて、オーバーフロー水が流れています。
オーバーフローが流れる先には、小水槽があり、その底の排水口から湯が捨てられています。
2 淀みの推測と確認方法
(推測)
大浴槽の湯について、採水場所となっている、浴槽の左手前の湯が淀んでいるのではないかと推測をしました。
なぜなら、構造的にみて、浴槽右奥のろ過戻り口から左奥の吸い込み口へ向けて、湯が直線的に流れているのではないかと考えたのです。
このことは、別の視点で、部屋の換気について、換気扇と対面の窓を開けたときの、室内空気の流れを調べたときの結果が頭をよぎりました。
空気の流れを、スモーク(白煙)を発生させて調べました。
窓から入ってきた外気は、運転中の換気扇に向けて直線的に流れました。
スモークが線状に流れました。
空気が流れた両側では、空気が淀んでいたのです。
同様なことが、浴槽内で起きていると考えました。
すなわち、浴槽の奥で、右側のろ過器の戻り口から、左側の吸い込み口へ向けて、直線的に湯が流れていると考えたのです。
(確認方法)
浴槽を上から見て、右側のろ過器の戻り口から、左側の吸い込み口へ向けて、3カ所で湯をとり、残留塩素濃度を測ってみることにしました。
①浴槽右側 :ろ過の戻り口付近
②浴槽中央手前:浴槽縁の出っ張り曲線が始まる付近
③浴槽左手前 :浴槽の出っ張り部分(ろ過の吸い込み口から1m以上、離れている)
浴槽左手前に淀みがあれば、その場所では湯が滞留状態になっていて、残留塩素濃度の低下が起きていると考えました。
(遊離残留塩素濃度)
①浴槽右側 : 0.6 mg/L
②浴槽中央手前: 0.3 mg/L
③浴槽左手前 : 0.3 mg/L
調査結果から、浴槽の奥で、右側のろ過戻り口から、左側のろ過吸い込み口へ向けて、ほぼ直線的に湯が流れ、浴槽の中央手前から左手間にかけて、湯の淀み、滞留ができている可能性が高いと考えました。
(補完的調査の提案)
①一時的に、次亜塩素酸ナトリウムの添加量を増やし、ろ過戻り口で、1.5~2.0 mg/L 程度の高めの濃度にすると、顕著な数値を得られるかもしれません。
②採水する箇所をより細分化、プロット化して、ひしゃくで採水して残留塩素濃度を調べてみるのもいいと思います。
③湯の流れを確認するため、ピンポン球のような浮遊物を複数、湯面に置いて、調べてみると確認できると思います。
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3 淀みの解消方法
(1)構造
根本的には、淀みがある場所の底にも、ろ過吸い込み口をつくり、湯の流れを確保することだと思います。
この場合、湯の流れのバランスがあり、設備の専門業者と十分な相談が必要になると考えられます。
(2)現状対処
1~2時間に1回程度、浴槽の湯をかくはんして、浴槽水の残留塩素濃度を均一化することが選択肢のひとつだと思います。
ちょうど、イメージするのは、温泉場の湯もみのようなやり方です。
4 日向サンパーク温泉の場合
私の手元に、「日向サンパーク温泉『お舟出の湯』におけるレジオネラ症集団感染事例報告書」があります。
P85に、改善途中の点検票があり、浴槽関係で、「廃止した浴槽の各配管や浴槽はゴミや湯水が滞留しないような措置が講じられているか」の点検項目が「否」となっています。
最終確認分では、「適」と書かれています。
当時の宮崎県担当者の話によると、旧浴槽で滞留域があるかを、蛍光の緑色の入浴剤を使って現場で試験がおこなわれました。
その結果、浴槽水の色の濃淡により、滞留域を確認することができました。
最終的には、浴槽の改修がされて、浴槽の形状変更、滞留域が生じないように循環水の吐出口が新設されました。
5 環監の視点(行動変容を考えた行動)
今回は、浴槽ごとの残留塩素濃度の測定値の大きな違いから、浴槽水の淀みの可能性を考えました。
実際に淀みがあるのかを、遊離残留塩素濃度の測定や、宮崎県が実施した入浴剤を使用する滞留域の確認方法などで、現場で確かめることが大切です。
その結果を見た営業者や従業員のかたたちは、実際の問題点を目のあたりにして、改善策を検討、実施するようになると考えます。
このように行動変容を考えた行動が、保健所・環境衛生監視員に求められていると思います。
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【活動実績】
(書籍・図書)
・2024年、専門誌『設備と管理』(オーム社)に「冷却塔の清掃方法とレジオネラ症 保健所・環境衛生監視員の視点から」を執筆しました。
・2023年、専門誌『設備と管理』(オーム社)に「老舗旅館の大浴場、湯の入れ換えが年2回 レジオネラ症対策を再考する」を執筆しました。
・2015年、専門誌『生活と環境』(一般財団法人日本環境衛生センター)に「公衆浴場・温泉・旅館業・スポーツ施設・介護保険施設のための 続・よくわかるレジオネラ症対策」を連載しました。
・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
(活動)
・2024年、厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「公衆浴場の衛生管理の推進のための研究」の研究協力者として活動しました。
・2024年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」改定検討の研究協力者として、元神奈川県衛生研究所・黒木俊郎先生らと共に活動しました。
・2022年、「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になりました。
・2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。
①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)
(講師)
・2025年、石川県南加賀保健所、入浴施設衛生管理研修会「公衆浴場、旅館、ホテル等入浴施設のレジオネラ症対策」
・2025年、鹿児島市保健所、レジオネラ症感染防止研修会「入浴施設におけるレジオネラ症感染防止対策」
・2025年、港区みなと保健所、衛生講習会「レジオネラ症対策について」
・2024年、大分県 レジオネラ症発生防止対策研修会「入浴施設のレジオネラ症発生防止対策について」
・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」
・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」
(学会)
・2024年、第83回日本公衆衛生学会総会で、「レジオネラ症対策現場研修会の公衆衛生人材育成の成果」を発表しました。
・2023年、日本防菌防黴学会・第50回年次大会で、「令和4年台風第15号による大雨被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」を発表しました。
・2021年、日本防菌防黴学会・第48回年次大会(オンライン開催)で、「令和元年東日本台風(台風19号)被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について」を発表しました。
・2012年、第56回生活と環境全国大会で、「文京区における公衆浴場等シャワー水のレジオネラ症発生防止対策の成果」を発表し、最優秀賞を受賞しました。






