【保健師向け】災害時・保健師活動にオススメ3点セット

【災害時・保健師活動にオススメ3点セット】
1 メジャー
2 方位磁石(コンパス)
3 非接触型体温計

写真右から、メジャー、方位磁石(コンパス)、非接触型体温計

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2024(令和6)年9月から11月にかけて、保健師の皆様を中心に対象として、「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策(保健所・環境衛生監視員の視点から)」の研修会講師を、次のとおり各会場で務めました。

①鳥取県市町村保健師協議会研修会:参加者50名
「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
 午前:模擬避難スペースを使って現場実践型研修
 午後:会場で講演

②福井県嶺南地域保健・福祉・環境関係職員研修:参加者48名
「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」
 実演 :指定避難所での環境衛生トレーニング
 まとめ:避難所の環境衛生対策のポイント

福井県の現場実践研修の様子

③愛知県看護協会・研修会:参加者25名
「災害時の生活環境衛生対策の課題と実際」

④宮城県登米地域災害対応研修:参加者72名
「災害時における環境衛生対策」

⑤宮城県気仙沼圏域研修:参加者50名
「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」

いずれの研修会でもご紹介した、「災害時・保健師活動にオススメ3点セット」は、「使ってみたい」「必須アイテムになるよう他の保健所の保健師にも紹介したい」など、好評でした。

使い方など詳しく解説したいと思います。

なお、別ページで、2024年1月30日に、オフィス環監未来塾ホームページ、【能登半島地震・関連】避難所・避難生活の衛生対策の「【保健師活動】被災地支援の巡回活動で役立つ持ち物」でもご紹介しています。

今回は、さらに実践的な内容をご紹介します。

ご活用ください。

1 メジャー

体の部位を測る柔らかいものより、スチール製のものが扱いやすいかもしれません。

2mの長さがあれば十分です。

(1)避難所での活用例

①ベッド類の高さ

35cm:段ボールベッドの高さ

雑魚寝を改善するには、ベッド類の導入が必要です。

段ボールベッドの規格例は、次のとおりです。

194cm(縦)×90cm(横)×35cm(高さ)

段ボールの天板や敷き布団を置くと、段ボールベッドの高さは、37~40cm程度になります。

この高さの利点は、複数あります。

・床面からの冷えを抑える。

・床面から舞い上がる、埃、ウイルスを含んだ埃の吸い込みを抑える。

・ベッドからの立ち上がり動作を容易にする。

②パーティション(仕切り)の高さ

90cmの場合

昼間、通路を歩く人から中が見え、見守り活動ができます。

盗難防止、性犯罪防止につながります。

140~150cmの場合

段ボールベッドに座って咳をしたとき、隣のスペースに飛沫がいかない高さとされています。

ただし、寝た姿勢で、真上に咳をしたとき、飛沫が仕切りを越えてしまうと考えられます。

飛沫飛散防止に、段ボール箱のふたを取り、寝た姿勢で頭を箱に入れる箱マスクが有効です。

③温度・湿度計の設置高さ

75~150cm:通常の設置高さです。

この高さは、建築物衛生法の空気環境の測定位置を根拠にしています。

椅子に座ったときの、床面から顔の高さに相当します。

20cm:雑魚寝のとき、床に近い高さでの温度・湿度の確認が大切になります。

④空気清浄機の設置箇所

半径150~200cm:効果を発揮しやすいと考えられる範囲です。

家庭用の空気清浄機は、比較的、近くで効果が出ると考えられます。

(2)在宅避難の巡回活動での活用例

①段ボールベッド設置の可否判断

段ボールベッドの大きさの例:

194cm(縦)×90cm(横)×35cm(高さ)

水害浸水地の家屋では、2階に在宅避難しているケースがあります。

状況によっては、1階が被害を受け、窓や扉が損壊している状態で、外気が室内に常に入ってきているかもしません。

避難場所の2階でも、寒さが厳しいと思われます。

そのとき、可能であれば、冷えを抑えるため、段ボールベッドと段ボール仕切りを入れるのが有効です。

段ボールベッドを設置することができるか、測定して確認します。

(3)仮設住宅の巡回活動の活用例

①段差の解消

高齢者宅あるいは障がい者宅の仮設住宅で、わずかな段差があるかもしれません。

段差を測り、担当部署や担当者へ伝えることで、住宅の環境改善につなげることができると思われます。

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2 方位磁石(コンパス)
(1)仮設トイレと排泄物管理(臭いと風)

仮設トイレや排泄物の保管には、臭いの問題があります。

避難所のどこに、仮設トイレを置くか、排泄物の保管場所をつくるか、を考えるとき、方位を参考にします。

風向きにより、避難スペースに臭いが入りこむかもしれないからです。

たとえば、夏には、南側に排泄物の保管場所があると、南風で避難スペースに臭いが来る可能性があります。

冬には、北側に排泄物の保管場所があると、北風で避難スペースに臭いが来る可能性があります。

できるかぎり、臭いの影響がないように、仮設トイレの設置場所や排泄物の保管場所をつくるのが望ましいでしょう。

臭いとは別に、車の搬出スペースも考える必要があります。

仮設トイレ便槽の排泄物の回収でバッキュームカーが来たり、排泄物の廃棄物の回収でトラックが来たりすることがあるからです。

総合的に考えることが大切です。

(2)避難スペースの選び方

学校の教室の窓について、夏は北向き、冬は南向きが、外気温の影響を抑えて、体への負荷を下げることが可能になります。

複数の教室から避難スペースを選ぶときは、方位を見て、教室を選択することが大切になります。

(3)窓の方位と換気

換気について、冬は北風を利用して北から南の窓へ、夏は南風を利用して南から北の窓へ、対面の窓を開けて、空気の流れをつくってあげるのが大切です。

3 非接触型体温計

新型コロナの感染拡大時に用いられた非接触型体温計(赤外線放射温度計)は、製品により、切り替えスイッチで、物体の表面温度を測ることができます。

(1)寝る場所の確認

体操マットの寝具利用

厳冬期に雑魚寝の状態のとき、敷き布団かわりの体操マットは、冷えていて、体温を奪う可能性がないのかを考えました。

非接触型体温計を使い、表面温度が何度あるのか、確認することができます。

・15℃以下(表面温度):寒いと感じられる。

・10℃以下(表面温度):冷蔵庫の中に近い温度と考えられる。

寝るときに、断熱マットや段ボールを敷くことで体温を奪われにくくします。

そうした物がないとき、くしゃくしゃにした新聞紙を上着の下に入れて、体の放熱で温かい空気層をつくるのが選択肢のひとつになります。

(2)壁の表面温度

冷えた壁の近くにいると、体温を奪われる可能性があります。

特に、コンクリートの壁は熱容量が大きいので、いったん冷えると、温度が低い状態が長く続きやすくなります。

判断基準は、上記の15℃以下、10℃以下と同様です。

冷えた壁から離れる、あるいは、断熱用の衝立を置くなどが大切です。

(3)避難所の弁当

20℃付近を下回っているかを確認します。

たとえば、透明なプラスチック容器にご飯が入っている場合、ご飯容器に向けて表面温度を測ります。

20~50℃は、ご飯のなかに細菌がいれば、増殖に適した温度になります。

たとえば、夕食の場合、午後2時頃に避難所へ、50℃近くに保温された弁当が到着し、仕事後の午後9時以降に食事をするかもしれません。

こうした場合、長時間の経過で、細菌の増殖により食中毒発生の可能性が生じてしまいます。

日常では、大規模に弁当を調理するとき、真空で急速冷却できる機械を使用して、15~20分程度で20℃以下まで冷やすやり方があります。

測定して弁当の温度が20~50℃のとき、地元自治体の保健所・食品衛生監視員に相談するといいでしょう。

【環監の視点】

災害時・保健師活動にオススメ3点セットは、私がこれまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、考えたものです。

避難所、在宅避難場所、仮設住宅などで、活用してきました。

いずれも、現状をしっかり把握するためのツールです。

メジャー、方位磁石、非接触型体温計で測定した数値は、支援者の間で共有したとき、あいまいさがありません。

高い、低い、暑い、寒いなどの感覚は、人の思いや考えが入り、あいまいな情報の共有になってしまう可能性があります。

測定により数値化された情報と、避難者のかたの暑い・寒いなどの感覚とを組み合わせて、避難所・避難生活の改善につなげていくことが大切だと思います。

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【2024(令和6)年度講座】

2024(令和6)年度のオフィス環監未来塾の講座一覧表をご覧いただけます。

・環監業務の悩み、課題がありましたら、ご相談をお受けしています。

・課題の解決につながる講座をご用意しています。

・保健師の皆様への研修のご相談、避難所の衛生対策活動等のご相談をお受けしています。

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【実績】

(書籍)

・2022年、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

・2020年、全国保健師長会・作成『災害時の保健活動推進マニュアル』の生活環境衛生対策の分担執筆をしました。

(活動)

・被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
 2011年 東日本大震災、気仙沼市
 2016年 熊本地震、熊本市
 2018年 西日本豪雨、倉敷市
 2019年 令和元年台風19号、長野市、いわき市
 2024年 能登半島地震、七尾市、珠洲市

(講師)

・2024年、鳥取県市町村保健師協議会研修会「災害時の避難所・避難生活の衛生・感染予防対策 ~保健所・環境衛生監視員の視点から~」の講師をつとめました。

・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」の講師をつとめました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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