【環監向け】プール水の過マンガン酸カリウム消費量不適の理由

【プール水の過マンガン酸カリウム消費量が増える原因】
①人の汚れ
②ろ過器のろ材の交換頻度
③ろ過器の能力
④ろ過器の24時間稼働
⑤オーバーフロー水の再利用
⑥補給水量が少ない
⑦水質検査の実施日時(曜日と時間)
⑧過マンガン酸カリウム消費量の検査者による誤差

ろ過機(イメージ写真)

こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2024(令和6)年6月中旬に、「レジオネラ症対策を現場で学ぶ、基本とスキル習得講座・実践編2日間コース(公衆浴場施設の現場見学・実習付)」を開催しました。

県保健所、中核市保健所から2名の保健所・環境衛生監視員のかたが受講されました。

公衆浴場の営業者から、湯を沸かす釜の構造や、シャワー水をつくる調節箱のしくみ、原水の地下水をくみ上げるときの自動塩素注入のしくみなど、詳細な説明がありました。

そのあと、浴槽水の採水方法の注意点の解説後、具体的な採水方法やATP検査法などを現場で実習しました。

現場では、シャワーの衛生指導のポイントにも触れました。

受講者の声

<まだ一度も採水や立入をしたことがないので、実際の現場を見て学ぶことができて、とてもためになりました>

講座の際、受講者のかたから、質問がありました。

<室内プールの水質検査について、プール水の過マンガン酸カリウム消費量が、基準値をわずかに超えて不適になったり、基準値ぎりぎりで適合になったりしています。原因は何でしょうか? >

講座のなかで、一緒に考えました。

有用な内容ですので、ご紹介します。

【プール水の水質基準】

プールの規定について、法律はありません。

根拠となるのは、平成19年5月28日付厚生労働省健康局長通知「遊泳用プールの衛生基準について」です。

水質基準は、次のとおり記載されています。

(1) 水素イオン濃度は、pH値5.8以上8.6以下であること。

(2) 濁度は、2度以下であること。

(3) 過マンガン酸カリウム消費量は、1 2mg/L以下であること。

(4) 遊離残留塩素濃度は、0.4mg/L以上であること。また、1 .0mg/L以下であることが望ましいこと。

(5) 塩素消毒に代えて二酸化塩素により消毒を行う場合には、二酸化塩素濃度は0.1mg/L以上0.4mg/L以下であること。また、亜塩素酸濃度は1 .2mg/L以下であること。

(6) 大腸菌は、検出されないこと。

(7) 一般細菌は、200CFU/mL以下であること。

(8) 総トリハロメタンは、暫定目標値としておおむね0.2mg/L以下が望ましいこと。

上記の水質基準の数値について、各自治体では、条例や要綱などで規定しています。

この水質基準のなかに、過マンガン酸カリウム消費量の項目があります。

数値12mg/L以下は、公衆浴場の浴槽水の水質基準値のおよそ半分の値です。

【プール水とレジオネラ属菌】

通知「遊泳用プールの衛生基準について」には、次のとおり記述があります。

<気泡浴槽、採暖槽等の設備その他のエアロゾルを発生させやすい設備又は、水温が比較的高めの設備がある場合は、「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」(平成13年9月11日付け健衛発第95号厚生労働省健康局生活衛生課長)等を参考にして、適切に管理すること。

その設備の中の水について、レジオネラ属菌の検査を年1回以上行い、レジオネラ属菌が検出されないことを確認すること。>

【過マンガン酸カリウム消費量とは】

過マンガン酸カリウム消費量とは、遊泳者の汚れ、すなわちプール水中の有機物がどのくらいあるかを調べる水質検査項目です。

遊泳者が多くなれば、プール水中の有機物量が多くなります。

過マンガン酸カリウム消費量が高くなり、基準値を超える場合、プール水の水質が不適となります。

なお、文京区プール条例施行規則に規定するプール水の水質基準では、過マンガン酸カリウム消費量が12 mg/L 以下となっています。

循環ろ過処理の場合、たとえば、砂ろ過器を通して汚れが除去されるとともに、新鮮な水の補給や消毒剤の添加などで、プール水の過マンガン酸カリウム消費量が下がり、通常は基準値以下の水質が保たれているのです。

※レジオネラ症対策、災害時・避難所の衛生対策など、ご質問、ご相談、講師ご依頼をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。

【過マンガン酸カリウム消費量が増える原因】

原因と考えられる点を挙げて、それぞれを考えていきましょう。

①人の汚れ
②ろ過器のろ材の交換頻度
③ろ過器の能力
④ろ過器の24時間稼働
⑤オーバーフロー水の再利用
⑥補給水量が少ない
⑦水質検査の実施日時(曜日と時間)
⑧過マンガン酸カリウム消費量の検査者による誤差

①人の汚れ

利用者が増えることで、人のあか、フケ、皮膚の汚れなどによる有機物が増えるので、過マンガン酸カリウム消費量の数値が高くなります。

利用者の変動があるのかは、施設の遊泳者数の記録をみると把握ができます。

室内プールでみても、冬季より夏季が利用者が多い傾向になります。

したがって、夏季に人の汚れによる過マンガン酸カリウム消費量の数値が高くなることが考えられます。

ろ過器を通すことで、汚れを除去することができます。

汚れが大きい場合、十分な循環ろ過の時間が必要です。

②ろ材の交換頻度

ときどき、砂ろ過のろ材の砂の交換頻度はどのくらいでしょうかと、質問を受けることがあります。

公衆浴場施設の例では、利用者数が多いことで、ろ過器の負荷が大きくなり、砂の交換時期が早くなるケースがありました。

1日あたり1,000人を超える施設では、1年に1回、砂の交換が実施されていました。

高齢者施設の例では、レジオネラ属菌検出の原因のひとつとして、経年でろ材に生物膜(バイオフィルム)が付着したことが考えられました。

ろ材は、交換して5年以上が経過していたのです。

すぐに、ろ材の交換がされました。

③ろ過器の能力

室内プール施設の衛生監視に行ったとき、「営業時間外の夜間は、循環ろ過を停止しています」と説明がありました。

理由を尋ねると、「ろ過器が老朽化していて、機械の負担を軽くするため、夜間に運転停止しています」とのことでした。

室内プールは、24時間循環ろ過して、1日あたりプール容量の4~6回転をすることにより、水質を維持することができるのです。

プール容量の4~6回転することが困難で、ろ過器の能力が低い場合、過マンガンカリウム消費量の数値が高くなってしまう可能性があります。

④ろ過器の24時間稼働

以前、屋外の大プールで、夏季の週末に、1日あたり最大遊泳者数2万人超の施設で衛生監視をした経験があります。

ろ過器を24時間フル稼働したとしても、すぐに遊泳者によるプール水の汚れを除去することはできません。

先輩の環境衛生監視員から、「水の濁りが解消されて水質が回復するのは、3~4日程度かかる」と聞きました。

⑤オーバーフロー水の再利用

プール水の有効利用として、オーバーフロー水を再利用する施設があります。

水面付近の水を回収するのは、浮遊する人のフケ・アカ・髪の毛などの汚れをいっしょに回収することになります。

オーバーフロー水を再利用する施設は、汚れた水を含めてプール水を、ろ過器に通すため、ろ過器への負荷が大きくなります。

したがって、ろ材に汚れが付着する可能性があると考えられます。

時間の経過とともに、ろ材に汚れが堆積すると、ろ過能力が下がり、プール水の汚れの除去が十分にいかなくなり、過マンガン酸カリウム消費量の数値が高くなるかもしれません。

⑥補給水量が少ない

新規の補給水量が少ないと、過マンガン酸カリウム消費量が高めになる可能性があります。

過マンガン酸カリウム消費量が水質基準を超えたときは、量水器(メーター)の数値記録により毎日の補給水量をチェックすることが大切です。

過マンガン酸カリウム消費量がわずかに水質基準値を超えた場合、補給水量を増やすことで、数値を下げることができるかもしれません。

⑦水質検査の実施日時(曜日と時間)

上記④のように、週末に遊泳者が多かった場合、ろ過器の稼働を続けたとしても、たとえば、月曜の段階で、十分に水質が回復されていない可能性があります。

そのときに、採水をすれば、過マンガン酸カリウム消費量の数値が高い可能性があります。

⑧過マンガン酸カリウム消費量の検査者による誤差

過マンガン酸カリウム消費量測定は、分析測定者の個人差が生じるといわれています。

別ページに、関連記事(TOCの優位性)が載っています。

【環監の視点】

過マンガン酸カリウム消費量が高くなのは、複合的な要因のケースもあるでしょう。

上記の原因項目を一つひとつチェックしてみましょう。

現場では、施設の維持管理記録を確認させてもらうことが必要です。

過マンガン酸カリウム消費量が水質基準を超えたときは、量水器(メーター)の数値記録により毎日の補給水量をチェックすることが大切です。

過マンガン酸カリウム消費量がわずかに水質基準値を超えた場合、補給水量を増やすことで、数値を下げることができるかもしれません。

【ご案内】

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【実績】

(書籍)

・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。

・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

(活動)

・2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。


 ①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
 ②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
 ③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)

(講師)

・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」の講師をつとめました。

・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。

・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。

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