【環監向け】レジオネラ症対策・黒湯の塩素測定と殺菌方法
【環監の視点】
黒湯に消毒の次亜塩素酸ナトリウムを注入することで、自然にモノクロラミンが生成されている可能性があります。
したがって、黒湯では、次亜塩素酸ナトリウムによる遊離残留塩素の存在ではなく、アンモニア成分と遊離塩素とで生成されたモノクロラミンにより殺菌がされているのかもしれません。
こんにちは。元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『レジオネラ症対策のてびき』著(倉文明監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、レジオネラ症対策・避難所衛生対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
都内保健所の環境衛生監視員から、黒湯の塩素濃度測定についてご質問がありました。
レジオネラ症対策に有用な内容ですので、ご紹介します。
以下の説明につきまして、専門家の株式会社ヘルスビューティ・シニアテクニカルアドバイザーの藤井明氏のご意見を参考にしました。
【質問】黒湯の塩素測定と消毒
A公衆浴場の浴槽水に、地下からくみ上げられたフミン質を含む黒湯が使われています。
DPD比色法で、浴槽水の遊離残留塩素濃度を測ろうとすると、黒色の度合いが濃く、試薬を加えたあとピンク色の着色を正確に見ることができません。
すぐに着色のピンクが濃くなるように感じます。
消毒には、次亜塩素酸ナトリウムが使われています。
【回答】
消毒に有効な遊離残留塩素濃度の測定には、DPD比色法、吸光度測定を使用するDPD比色法、電極法などがあります。
目視によるDPD比色法の測定は、難しいかもしません。
吸光度測定を用いたDPD比色法は、試料の黒湯をゼロ校正のブランク水として扱って、DPD比色することで、遊離残留塩素濃度を測ります。
黒湯の濃淡により、測定ができるかどうかがあるかもしれません。
色が濃い場合、測定が難しくなる可能性があります。
電極法は、理論的に、色の干渉を受けずに、電気的な反応を基に塩素濃度を測定することができるとされています。
【結合塩素】
質問のなかで、すぐに着色のピンクが濃くなるように感じますとあるのは、遊離塩素が結合塩素に変化しているものと考えられます。
黒湯のアンモニア成分や、浴槽水の人の汗に含まれるアンモニア成分などと遊離塩素が反応して、モノクロラミンNH2Cl の結合塩素になっていると考えられます。
【黒湯で生成されるモノクロラミン】
黒湯成分は、フミン質のほか、アンモニア成分が多いと推測されます。
アンモニア成分より、塩素剤の次亜塩素酸が多い場合、モノクロラミンが生成され、そのモノクロラミンが消毒効果を上げます。
黒湯に消毒の次亜塩素酸ナトリウムを注入することで、自然にモノクロラミンが生成されている可能性があります。
したがって、黒湯では、次亜塩素酸ナトリウムによる遊離残留塩素の存在ではなく、アンモニア成分と遊離塩素とで生成されたモノクロラミンにより殺菌がされているのかもしれません。
遊離残留塩素濃度0.4 mg/L 程度の消毒効果と同等なモノクロラミン濃度は 、3 mg/L 程度とされています。
この濃度が維持されていれば、黒湯の消毒がされていると考えていいと思います。
【DPD測定器の中濃度用比色板】
DPD試薬を用いた測定では、総残留塩素濃度と遊離残留塩素濃度との差からモノクロラミンなどの結合残留塩素濃度を測ることができます。
まず、DPD試薬を使い遊離残留塩素濃度を測り、そのあとヨウ化カリウム試薬を加えて、総残留塩素濃度を測定します。
DPD測定器の中濃度用比色板を使用して、2~10 mg/L の濃度を測定することができます。
このやり方で、モノクロラミンなど結合残留塩素濃度を確認することができるのです。
【黒湯のモノクロラミン消毒】
国立感染症研究所のホームページの病原微生物検出情報(IASR)の2024年7月号に、『浴槽水のモノクロラミン消毒、2024年時点』が掲載されています。
記述の主な内容は、次のとおりです。
< 遊離塩素に比べてモノクロラミンは酸化力が低く, 鉄やマンガンの析出が抑えられる。
有機物,、アンモニアを含む浴槽水,、薬湯等は遊離塩素を消費する成分が多く含まれ、 また、 浴槽水の外観に影響が出る可能性もある。
具体的には、遊離塩素消毒では塩素が消費されたり、 薬湯の色が消える等の問題が生じる。
一方、モノクロラミン消毒では塩素濃度の変動や薬湯の脱色が生じにくい。>
このことから、モノクロラミン消毒は、安定的な消毒効果があると言えるでしょう。
したがって、アンモニア成分を含む黒湯の消毒にも、有効と考えられています。
【環監の視点】
黒湯に消毒の次亜塩素酸ナトリウムを注入することで、自然にモノクロラミンが生成されている可能性があります。
したがって、黒湯では、次亜塩素酸ナトリウムによる遊離残留塩素の存在ではなく、アンモニア成分と遊離塩素とで生成されたモノクロラミンにより殺菌がされているのかもしれません。
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【実績】
(書籍)
・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載されている「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。
・2013年、『レジオネラ症対策のてびき』倉文明監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。
(活動)
・2017年、広島県三原市の公衆浴場施設で起きたレジオネラ症集団感染事例において、現地の三原市で次のとおりご協力しました。
①行政の対応強化(職員研修会の開催、対策指針・対策事業の提案など)
②管内施設の衛生管理徹底(レジオネラ症対策講習会の開催、講習会後の個別相談など)
③事故発生施設への対応(現地調査・事故の原因究明の協力、改善方法の検討など)
(講師)
・2024年、宮崎県・宮崎市、施設向け令和6年度レジオネラ属菌汚染防止対策講習会「公衆浴場・旅館・ホテル・福祉施設・医療施設等の入浴設備の衛生管理」の講師をつとめました。
・2024年、(公財)青森県生活衛生営業指導センター、公衆浴場・旅館・ホテル等施設向けレジオネラ症発生予防対策研修会「レジオネラ症対策の基礎知識と入浴施設の衛生管理の方法」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。
・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。