【注意】避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その31)

【保健師活動】夏季の避難所・仮設住宅、畳のカビ対処
①エアコンで室内の湿度を下げる
②サーキュレーター、扇風機で空気をかくはんする
③扉にビニールカーテン類をつける
④エアーカーテンの目的で、扇風機あるいはサーキュレーターを扉付近に置く
⑤月に1〜2回、畳を乾燥させる
⑥スノコを敷き、床の通気性をよくする

支援で送られた畳(2024年5月、珠洲市)

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著(根本昌宏監修、一般財団法人日本環境衛生センター)、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。

能登半島地震被災地で活動されている保健師のかたから、避難所の畳にカビが生えたとご相談がありました。

有用な内容ですので、ご紹介します。

全国保健師長会に情報提供しています。


【カビの生育条件】

出典:『「水」の安心生活術』中臣昌広著(集英社新書)P181

①栄養:有機物を栄養にする

②温度:15~30℃

③湿度:70~95%

④酸素:空気を必要とする

別ページに、カビ対処と呼吸器系疾患の予防について詳しく書いています。

【カビの病気】

例:肺感染症(肺アルペルギルス症)

アスペルギルスは、環境中にいるカビ(真菌)のひとつです。

胞子の形で、空気中に漂うアスペルギルスが肺に吸い込まれることで健康影響を与えることがあります。

主な症状は、咳、痰、血痰などです。

喀血が起きることがあります。

発熱を伴う場合もあります。

もともと肺・呼吸器系に疾患がある方にとっては、要注意なカビです。

一度、感染すると、治療に半年以上を要することがあります。

【相談内容】畳のカビ

避難所の小学校教室で使われている畳と、仮設住宅で使用されている畳にカビが生えました。

掃除をしたところと、廃棄したところがあります。

カビが生えた畳は廃棄が望ましいでしょうか。

【回答】

畳の廃棄は、カビの程度によるでしょうね。

最近の畳は、化学畳といわれ、畳表の下は、発泡スチロールやポリスチレン、段ボールを固めたものなどです。

カビが生えるのは、畳表面あるいは畳の裏面になるかもしれません。

学校の教室の場合、畳の裏面は、教室の床と接していて、室内の水蒸気が、畳の裏面で冷えた床に接して結露し、カビになっている可能性があります。

エアコンは室内の除湿に有効です。

エアコンのフィルター清掃を定期的におこなえば、エアコンの使用で室内の湿度が下がり、カビの抑止につながります。

畳のカビの原因の推測と対処の選択肢は、次のとおりです。

【畳のカビの原因】

①扉の開閉で湿気が入り、水分を含んだ重たい空気が下の畳付近にたまる。

②空気のかくはんが不足して、冷たい空気が下にたまる。

【畳のカビの対処】
①エアコンで室内の湿度を下げる

夏季の室内の湿度の目安は、40~50%になります。

60%を超えると、湿気を感じるかもしれません。

通常、表される相対湿度は、その温度のとき、空気が最大にもつことができる水分量を、湿度100%で表しています。

温度が高いほど、もつことができる水分量は多くなります。

したがって、室内空気の水分量が変わらないとすると、温度が下がると相対湿度は高くなります。

たとえば、エアコン使用で室内温度が30℃から25℃に下がったとき、湿度が50%のまま変化がなくても、空気中の水分量は減っているのです。

②サーキュレーター、扇風機で空気をかくはんする

水分を含んだ重たい空気が、下にたまる傾向になります。

サーキュレーターや扇風機で空気をかくはんすることで、できるかぎり、室内の上下や隅などで温度や湿度の差ができないようにします。

下方向にも回転するサーキュレーターが効果的かもしれません。

ただし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザの感染拡大時には、風によるウイルスの拡散の可能性がありますので、使用を慎重に検討しましょう。

③扉にビニールカーテン類をつける

外気の影響を遮断するために、扉にビニールカーテン類をつけるやり方があります。

丈が床面近くまであるものを使い、扉から外気をできるかぎり入れないことが大切になります。

④エアーカーテンの目的で、扇風機あるいはサーキュレーターを扉付近に置く

外気の影響を遮断するのが目的です。

エアカーテンは、通常、扉の上に装置がつけられ、下方向への通風により、内と外との空気の遮断や虫の侵入を防いでいます。

学校の教室の場合、エアカーテンと同じように、扉の横に、扇風機やサーキュレーターを置いて、比較的、強い風を送り、外気の影響を遮断するのです。

夏季に、観光地の美術館の入り口の外側で、横に扇風機を置いて風を送る光景を見ました。

美術館の場合、冷房の冷たい空気を逃がさない目的で使われていました。

⑤月に1〜2回、畳を乾燥させる

月に1回、晴れた日の大掃除に合わせて、畳を屋外で乾燥させるとよいでしょう。

畳の表裏を乾かします。

畳を屋外に出すことで、畳が敷かれていた場所に風を通して、湿気を取ります。

⑥スノコを敷き、床の通気性をよくする

学校の教室の場合、押し入れの収納と同じように、畳スペースにスノコを敷きつめて、床の通気性をよくするやり方があります。

あらかじめ、畳全体の面積を測り、スノコの配置を計算する必要があります。

採用するときは、大掃除のタイミングに合わせて、スノコを敷くのがよいでしょう。

【仮設住宅のカビ】

東日本大震災のときの仮設住宅のカビの実態と対処法について、詳しく書かれた報告があります。

次のタイトルです。

『東日本大震災被災地仮設住宅におけるカビ発生被害とその対策』渡辺 麻衣子氏(国立医薬品食品衛生研究所)

「東日本大震災 カビ 仮設住宅」で検索すると、資料がヒットします。

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【実績】

(書籍)

・2022年、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター)を出版しました。

・2020年、全国保健師長会・作成『災害時の保健活動推進マニュアル』の生活環境衛生対策の分担執筆をしました。

(活動)

・被災地の地元自治体に協力して避難所の衛生対策活動・調査をしました。
 2011年 東日本大震災、気仙沼市
 2016年 熊本地震、熊本市
 2018年 西日本豪雨、倉敷市
 2019年 令和元年台風19号、長野市、いわき市
 2024年 能登半島地震、七尾市、珠洲市

(講師)

・2024年、全国保健師長会、能登半島地震関連・緊急オンライン研修会「地震断水時の避難所・避難生活の衛生対策」の講師をつとめました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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