【注意】冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その6)

【低体温症を防ぐ避難所の環境整備】
①段ボールを使う(間仕切り、床面)
②天井の低い部屋・教室を使う(高齢者・乳幼児など)
③避難スペースを壁から離す

低体温症を防ぐ避難所の環境整備(チラシ版)

上の画像をクリックすると、pdfが開き、印刷可能です。ご活用ください。

段ボールの仕切りと段ボールベッド(2019年撮影)

元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。

次の内容につきましては、石川県薬事衛生課・能登中部保健所生活環境課・能登北部保健所生活環境課の皆様にも情報提供いたしました。

次のとおり、冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策の注意点(その6)低体温症を防ぐ避難所の環境整備を、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。

お役立てください。

『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)で監修をしていただいた、日本赤十字北海道看護大学・教授の根本昌宏氏は、低体温症を避けるために体を温めるよう呼びかけています。

床で寝るしかない場合

・段ボールやマットを敷く

・体を覆うように衣服をつける
 帽子、耳あて、マフラー、マスク、
 ズボン・靴下の2枚重ね

・お湯が沸かせるとき、湯たんぽをタオルで巻いて使う

新聞紙を2枚重ねで、上着の下の背中とお腹の両面に入れて実験したところ、温かい空気層ができて保温性が高くなることがわかりました。

新聞紙は、通気性がよくないので、汗をかいて体を冷やしてしまうことがあるかもしれません。状況による使用がいいでしょう。

また、新聞紙をくしゃくしゃにして、上着の下の背中に入れると、温かい空気層ができて、暖かさを感じることができます。

ここでは、低体温症を防ぐための避難所の環境整備を考えてみます。

私が主宰する自主研究「環監未来塾私塾」でご講演いただいた、日本赤十字看護大学附属災害救護研究所・災害救助技術部門客員研究員の栗栖茜氏のご意見を参考にしました。

別ページに、「災害時の衛生対策・避難所で低体温症を防ぐ」の詳細があります。

こちら https://kankan-mirai.com/2646/

別ページに、「災害時の衛生・避難所での低体温症のリスク」の詳細があります。

こちら https://kankan-mirai.com/2692/

1 段ボールを使う(間仕切り、床面)

冬季の保温に、段ボール製仕切り、段ボールベッドが有効です。

冬季の避難所では、体からの放熱を使い、体のまわりを温めるには、段ボール製パーティションができるかぎり接近しているほうがいいとされます。

体の放熱により、パーティションを温めることができるからです。

段ボールは、空気層があり、熱が逃げやすく温めやすい構造になっています。

パーティションの壁は温まりやすく、低体温症になりにくい環境をつくることができます。

『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)のP124~P129に、段ボール製パーティションの詳しい説明があります。

そのとき、床面に断熱材を置いたり、就寝時に仕切りの天井に覆いをつけたりすることが暖かさの確保に有効です。

さらに、段ボールベッドが使用されれば、伝導により熱が奪われることを抑えることができます。

別ページで、段ボールの仕切り(パーティション)を詳しく説明しています。
こちらからご覧いただけます https://kankan-mirai.com/3233/

段ボールの仕切り(2016年撮影)

※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

2 天井の低い部屋・教室を使う(高齢者・乳幼児など)

冬季、避難所で体温が奪われにくいのは、天井が低く、人からパーティションまで離れていない環境です。

免疫力の下がった高齢者や基礎疾患のあるかた、乳幼児、妊産婦のかたなどの避難スペースは、学校を想定すると、体育館より教室が望ましいでしょう。

◎低体温症予防を4つの面で考えます。

①対流

風がふいたとき、風速の2乗に比例して熱が奪われます。

風速2mと風速8mでは、4倍の差があります。このとき、熱は2乗の16倍が奪われてしまいます。

入り口や扉を開けたときに、避難スペースに風が入り込まないように、たとえば、扉の内側に、衝立を置くことが大切です。

②伝導

温度が低い床面に寝ると、体から床へ熱が奪われます。

体温が奪われないように、床の上に段ボールやマット・シート類を敷くことが大切です。

③蒸発

気化熱があたります。汗が蒸発するとき、体から熱を奪う現象です。

打ち水では、水分が蒸発してまわりの温度を下げます。

汗をかいてそのままにしておくと、体から熱が奪われてしまいます。

汗をかいたときは、体を拭き、濡れた下着などを取り替えることが大切です。

④放射

体育館では、中央付近から約10m離れた壁に向かって体から放射熱が放出されます。

熱の喪失が大きいのが放射です。

避難所の壁や床の温度が低いと、体温が奪われます。

壁の温度が0℃のとき、15℃と比べて、約2倍の放射熱が人体から奪われます。

家族単位の寝るスペースの周りに、段ボール製の仕切り(パーティション)をつくることで、体温が奪われるのを抑えます。

以上の4つの、対流、伝導、蒸発、放射のうち、避難所では放射の影響をいちばんに考える必要があります。

※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

3 避難スペースを壁から離す

気温の低い時期の避難所では、壁から離れた位置での避難スペースの確保、段ボールベッド類の利用が必要だと思います。

2019年11月下旬、私は、令和元年台風19号被災地の長野市で、地元保健所に協力して避難所の衛生対策活動で巡回していました。

『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)のP157~P164に、避難所の衛生対策活動の詳しい説明があります。

午後に外気温が11.3℃のとき、避難所になった室内テニスコート場は、冷えを感じました。

とくに、窓の下の壁部分がコンクリートになっていて、赤外線放射温度計で室内側の壁の表面温度を測定すると、9.9℃でした。

ちなみに、コンクリート壁の外側の表面温度は、6.4℃でした。

赤外線放射温度計によるコンクリート壁の表面温度測定(2019年撮影)

懸念したのは、壁に接して寝る人がいたことです。

外気温が零度を下回ったとき、蓄熱体のコンクリート壁が冷凍庫と同じような温度を持ちつづけて、冬の登山での遭難時と同様な低体温症にならないのか心配になりました。

担当保健師や避難所運営者に、避難スペースの移動あるいは断熱用の衝立の設置など改善をお願いしました。

【低体温症の症状】

ひとにより違いがあります。

①深部体温が35℃以下のときの低体温症

次のような症状が現れると、低体温症の可能性があります。

・さもないところで転ぶ

・くつひもがうまくむすべない

・無口、まわりに無関心

・普段と違う態度 
 例:ばかに攻撃的、ぐずる、文句が多すぎる

・震え 

②深部体温が32℃以下のときの重症の低体温症

・寒さから身を守ることに無関心 
 例:手袋を取ってしまう、ファスナーが開いたまま 

・精神の変調 
 例:思考力の低下、錯乱状態

・意識の低下
 
・震えが減るか止まる

③深部体温が28℃以下のときの最重症の低体温症

・こん睡状態

・脈や呼吸が減りほとんど呼吸をしていないように見える 

・生存しているにもかかわらず体は死んだようにこわばっていることが多い

【深部体温の測定法】

私たちが、ふだん体温と呼んでいるのは深部温度を指します。

日本では腋下(わきのした)で測定することが多いのですが、外国では口腔内で測定することの方が多いようです。

口腔内の方が腋下よりも精度は高いと考えられます。

より正確に測定するには食道や直腸に測定用のプローブ(測定器の先端)を挿入して測ります。

手術やICUではそうされています。

鼓膜で測る方法もあります。

【深部とは】

深部はcoreの略で体表から2.5cmより深い部分を指します。

【体から熱をつくる方法】

足を使って歩くことが体温を高めるには有効です。

冬の登山では、体温を保つために、ポケットに入れたアンパンを食べながら歩くと聞きました。

避難所では、たとえば、朝夕2回、歩くことで、エコノミークラス症候群の予防にもつながります。

避難所が長期化したとき、イベントの盆踊りは、高齢者のかたのエコノミークラス症候群の予防につながります。

※ 避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。

チェックリスト一覧表

画像をクリックすると、pdfが開きます。

【ご案内】

災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください

災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策の講師ご依頼につきまして、お気軽にお問い合わせください

『災害時・避難所の衛生対策のてびき』ご購入をお考えのかたは、こちらから注文ができます。

【実績】

・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。

・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。

・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。

・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。

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