【注意】冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策(その4)
【石油ストーブの衛生面の注意】
①20年以上古いものは要注意
②最低2時間に1回は換気
③ぜんそく・呼吸器系疾患の方はすぐ近くを避ける。マスクの着用を。
上の画像をクリックすると、pdfが開き、印刷可能です。ご活用ください。
元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、『災害時・避難所の衛生対策のてびき』著、避難所衛生対策・レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。
地震の地域の皆様へお見舞い申しあげます。
次のとおり、冬季の地震断水時の避難所・避難生活の衛生・感染症対策の注意点(その4)を、これまでの被災地での避難所衛生対策活動の経験を基に、保健所・環境衛生監視員の視点でまとめています。
お役立てください。
冬季の避難所で、命・健康を守るため、体を温める暖房器具は重要な物です。
これまで冬季の避難所で私が多く見たのが、石油ストーブです。
石油ストーブは、装置で電気を必要とするものとしないものがあります。
電気を必要としないタイプの石油ストーブであれば、置きたい場所へ移動して使うことができます。
燃料の灯油が用意できれば、簡易に暖房をすることができるのが利点です。
衛生面でみると、室内空気を使って化石燃料の灯油を燃焼させるので、燃焼に伴うガスが室内に放出されます。
石油ストーブの衛生面の注意点をみていきます。
1. 一酸化炭素中毒に注意
購入20年以上の石油ストーブ、石油ファンヒーターの使用は要注意です。
命をまもるため、20年以上経過するような石油ストーブ、石油ファンヒーターは、使用を見合わせて、新品と交換するか、専門業者に点検・整備をしてもらうことが大切です。
2019年10月に、私は、令和元年台風19号被災地の自治体に協力し、避難所の衛生対策活動をしていました。
避難所の一つで、測定器を使い空気環境を調べると、和室に置かれた石油ファンヒーターの付近で通常より高い一酸化炭素濃度を検出し、不完全燃焼と考えました。
石油ファンヒーターは、製造から20年が経つものでした。装置や部品などの劣化による不完全燃焼で、一酸化炭素が発生していると考えたのです。
現場ですぐに避難所管理者へ助言し、新品と交換してもらいました。
なお、そのときの記録を、2020年の日本公衆衛生学会でタイトル「令和元年台風19号被災地の避難所における空気環境等の実態」として、次のとおり報告しました。
別ページに、石油ストーブ・石油ファンヒーターのほか、災害時の一酸化炭素中毒の注意点をまとめています。
こちら https://kankan-mirai.com/3198/
※ 災害時の衛生対策、避難所・避難生活の衛生対策のご質問、ご相談など、お気軽にお問い合わせください
2. 2時間に1回以上、換気しましょう
換気の方法は、対面の二方向の窓を開けると効果的です。
学校の教室や公民館の部屋など小さい空間であれば、30秒から1分間程度でも、空気を入れ換えることができます。
窓や扉の1カ所を開けることも有効です。
冬は、室内と屋外で温度差が大きいため、短時間で空気が入れ換わりやすくなります。
冷気が短時間一時的に入ってきても、部屋の壁や天井などが温まっているので、極端に室内温度が下がることはありません。
(1)二酸化炭素
石油ストーブの製品に問題がなければ、完全燃焼して室内に二酸化炭素が放出されます。
避難所では、天井が低い学校の教室や公民館の部屋などでは、容積が小さいため、窓や扉を閉めきりにすると、1~2時間程度で二酸化炭素濃度が2,000~3,000ppmを超える可能性があります。
外気の二酸化炭素濃度は、410~440ppmです。
室内の二酸化炭素濃度の空気環境基準は、次のとおりです。
建築物衛生法:1,000ppm以下
学校環境衛生基準:1,500ppm以下が望ましい
室内に、簡易な二酸化炭素濃度測定器があれば、数値を見ながらの換気がいいでしょう。
冬季で、体の保温を第一に考えると、1,500~2,000ppm程度を超えたときが、換気の目安になります。
参考までに、私が測定した、理髪店の店内でガスファンヒーターを使ったときの二酸化炭素濃度と温度との実測値グラフは、次のとおりです。
朝の開店時に、窓や扉を閉めきって暖房をすると、約1時間30分で、3,000ppm を超えました。
その後、扉が開いて、半分の1,500ppmまで下がりました。
扉ひとつを開けるだけでも、空気の入れ換えが有効です。
(2)酸素が使われます
石油ストーブの燃焼には、室内空気の酸素が使われます。
定期的に外気を入れて、酸素不足にならないようにすることも大切です。
※ 別ページに、扉1カ所のみの自然換気が効果的なこと、対面換気の換気扇利用の注意点の記述・動画があります。
こちら https://kankan-mirai.com/1987/
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3. ぜんそく・呼吸器系疾患の方はすぐ近くを避ける。マスクの着用を。
(1)浮遊粉じん量
ぜんそく・呼吸器系疾患の方は、石油ストーブのすぐ近くを避ける。マスクの着用がいいでしょう。
防災と健康関係の資料では、気管支ぜんそくの発作の引き金になるものに、ほこり、煙、強い臭いが挙げられています。
具体的には、ほこり、焚き火、タバコなどの煙に注意することです。
煙は、粉じんという言葉に置き換えてもいいでしょう。
開放型石油ストーブで灯油(化石燃料)を燃焼させると、大きさが100分の1mmくらいの粒子が発生することがあります。
空気中の浮遊粉じん量が増加するわけです。
石油ストーブからの粉じんの発生量は、機種によって異なります。
令和元年東日本台風(台風19号)被災地の避難所で、石油ストーブ前で私が測定したところ、浮遊粉じん量0.08mg/m3 の箇所がありました。
空調で加温するスポーツ施設の0.01mg/m3と比べると高い数値です。
冬季の避難所では、電気が使える状態ならば、ぜんそく・呼吸器系疾患の方は、エアコン暖房の教室などでの滞在が、健康上望ましいでしょう。
過去の避難所の小学校の例では、暖房器具として、体育館で石油ストーブが、教室でエアコンが使われていました。
呼吸器系疾患のあるかたが、教室に滞在していました。
※ 避難所のアセスメントについて、『災害時・避難所の衛生対策てびき』中臣昌広著・根本昌宏監修(一般財団法人日本環境衛生センター、税込1,500円)P165~P172にチェックリスト一覧表があります。こちらからご覧いただけます。現場でお使いください。
画像をクリックすると、pdfが開きます。
【ご案内】
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【実績】
・2011年、東日本大震災被災地で地元自治体に協力して避難所衛生対策活動、その後、2016年に熊本地震、2018年に西日本豪雨、2019年に令和元年台風19号被災地でも地元自治体に協力して避難所衛生対策で活動しました。
・2023年、令和5年度 兵庫県・北播丹波ブロック市町保健師協議会・研修会で、「災害時の避難所の衛生、感染症対策」の講師をつとめました。
・2023年、第54回 沖縄県衛生監視員研究発表会及び研修会で、特別講演「災害時・避難所の衛生対策について」の講師をつとめました。
・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度 住まいと健康研修で「災害時の公衆衛生活動」(オンライン)の講師をつとめました。
・2022年、東京都特別区職員研修所、令和4年度専門研修「地域保健」(主に保健師対象)で、「災害時の避難所の衛生・感染症対策、保健所・環境衛生監視員の視点から」の講師をつとめました。