【環監・保健師入門】レジオネラ症対策・配管洗浄からの気づき

【私の視点】
配管洗浄をお引き受けしたことにより、環監の私にとって、大きな気づきが3点ありました。
①営業者の姿勢を知る
②公衆浴場の構造設備を知る
③環監視点の知識・スキルを習得する

配管洗浄作業(イメージ写真)

こんにちは 元文京区文京保健所・環境衛生監視員で、レジオネラ症対策の研修講師をしている「オフィス環監未来塾」中臣昌広です。

2023(令和5)年5月下旬、都内の公衆浴場施設の配管洗浄を、オフィス環監未来塾が作業しました。

きっかけは、知り合いの公衆浴場営業者から私に、同業施設から配管洗浄をしたいと相談を受けていると連絡があったことです。

私の力で可能ならば、困っている公衆浴場施設を何とか支援したいとの思いが湧きました。

環監として身近に見てきた公衆浴場施設が長く営業できるように、手を貸したいと思ったのです。

これまでの私の作業経験を活かして、配管洗浄をお引き受けしました。

今回の配管洗浄作業は、過炭酸ナトリウムを使いました。

洗浄するのは、地下水を沸かし循環ろ過する白湯の系統です。

配管洗浄の工程ごとに、ATP測定、pH測定をおこない、作業ごとの効果を評価することができました。

【配管洗浄の工程ごとのATP値・pH値】

① 洗浄剤による洗浄工程

浴槽水は、反応が進みやすいように38℃にしました。

その浴槽水に、白色粉状の過炭酸ナトリウムを投入しました。

浴槽水の容量の割合で、0.5~1%になるように浴槽水に投入したあと、循環ろ過を約1時間行いました。
   
最初にたまる浴槽水(前日の残り湯):23 RLU、pH 7.48

入浴に使われた浴槽水は、原水のpH値より中性寄りになっています。

洗浄20分経過(気泡発生装置稼働前):10 RLU、pH 10.79

洗浄剤により、汚れの有機物が分解され、ATP値が下がりました。

洗浄剤の影響で、浴槽水のpHはアルカリ側に傾いています。

洗浄50分経過(気泡発生装置稼働後):8 RLU、pH 10.89

気泡発生装置内の汚れの有機物が洗浄剤により分解され、ATP値が低くなっています。

② すすぎ1回目

排水後、浴槽のジェット水流の吐出口の上まで、地下水をためて1回目のすすぎをしました。

すすぎは、1回あたり20分程度おこないました。

浴槽に入った水:13 RLU、pH 8.71

すすぎ1回目:157 RLU、pH 9.27

浴槽水に濁りが見られたので、循環ろ過、気泡発生装置の稼働により、配管中に残った汚れが、すすぎにより出てきたと考えられました。

すすぎにより、ATP値が高くなりました。

配管中の洗浄剤の残りの影響で、pHがやや高くなっています。

③ すすぎ2回目

浴槽に入った水:4 RLU、pH 8.60

すすぎ2回目:43 RLU、pH 8.67

浴槽水にやや濁りが見られました。すすぎを2回おこなったことで、ATP値が下がっています。

すすぎが進んでpH値が下がり、配管中に残る洗浄剤が、ほとんどなくなっていると考えられます。

④ すすぎ3回目

浴槽に入った水:3 RLU、pH 8.49

すすぎ3回目:6 RLU、pH 8.56

浴槽水が透明になり、すすぎの効果が表れていました。すすぎを繰り返すことで、ATP値が下がりました。

pH値が原水と変わりなく、洗浄剤が残留していない状態と判断しました。

⑤ 殺菌作業

浴槽水に次亜塩素酸ナトリウムを加えて、10mg/L程度の濃度にして、循環ろ過、気泡発生装置を稼働させました。

約30分間、殺菌作業をしました。

殺菌作業15分経過:10 RLU、pH 8.43

消毒剤の次亜塩素酸ナトリウムが投入されて、有機物の分解が進み、ATP値が最低値になったと思われます。

⑥ 水質検査

排水後、水をため、通常の塩素濃度1.0mg/L程度の状態にして、循環ろ過を行いました。

約15分間、稼働したあと、依頼した検査機関が水質検査用の採水をしました。

水質検査は、培養法及び迅速法(LAMP法)です。

浴槽水(循環ろ過稼働後):10 RLU、pH 8.43

配管洗浄の最終工程までで、配管中の汚れが取れたと評価できると思われます。

【私の視点】

配管洗浄をお引き受けしたことにより、環監の私にとって、大きな気づきが3点ありました。

①営業者の姿勢を知る

作業の日は、週に1回の休業日にあたる日でした。

朝9時の作業開始のとき、営業者のかたの顔は寝不足と疲れが見えました。

前日、営業後、午前2時頃までかかった浴室の掃除のためだったと思いました。

作業日を相談したとき、「休みの日にやってほしい。それ以外の日は、お客さんが来る日だから」と強い希望がありました。

お客様のことを第一に考えて、楽しみに毎日来てくれるお客様に迷惑をかけてはいけないという思いがあったと感じました。

営業者のかたが、ろ過器のバルブ開閉や循環ろ過の運転操作など、小刻みに動きまわる姿が目に入りました。

週に一度の休みしかなく、作業のほとんどを1人でこなす姿を見て、営業者の人生すべてが公衆浴場に投影されているように感じたのです。

営業者の姿勢を見て、私にできることは応援したい。そう思ったときでした。

②公衆浴場の構造設備を知る

配管洗浄をするうえで、施設の構造設備を把握する必要があります。

私自身で気泡発生装置のスイッチをオン・オフすることで、施設の構造設備を理解する貴重な機会になりました。

③環監視点の知識・スキルを習得する

配管洗浄の工程ごとにどのような意味があるのか。

ATP値・pH値・水温・遊離残留塩素濃度を測定し、その数値を評価することで、工程の成果を把握することができました。

実際の現場を経験することで、環監視点の知識・スキルの習得ができると実感しました。

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【実績】

・2022年、厚生労働省のレジオネラ対策のページに掲載される「入浴施設の衛生管理の手引き(令和4年5月13日)」の作成ワーキンググループのメンバーに、国立感染症研究所・倉文明先生らと共になっています。

・2022年、国立保健医療科学院、令和4年度・環境衛生監視指導研修で「環境衛生監視指導の実際、公衆浴場のレジオネラ症対策」(オンライン)の講師をつとめました。

・2021年、高知県、令和3年度入浴施設におけるレジオネラ属菌汚染防止対策講習会・環境衛生監視員を対象とした現場研修会「循環式浴槽立入検査の実際について」の講師をつとめました。

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